約10年前・ゼルフェノア直属施設 陽明館――


鼎は例の事件後、「都筑悠真」から名前を「紀柳院鼎」を変え→特務機関ゼルフェノアに匿われるような形で、組織直属施設の陽明館に来た。

この当時の鼎は、施設内でも話せるような相手がいない状態。
さらに顔の大火傷の跡を隠すための仮面にまだ慣れておらず、苦戦していた。
後の親友になる、彩音に会う以前の鼎は引きこもりがちだった。同じ施設の入居者ともほとんど顔を合わせず、部屋に引きこもっていることが多かったのだから。

話し相手は施設スタッフ=ゼルフェノア職員のみという状況が続いた。
陽明館は怪人による被害者・身寄りのない人達用の施設のひとつ。


そんな孤独な彼女に話し掛けてきた男性がいる。同じ陽明館入居者の瀬戸口葉(せとぐちよう)だ。
瀬戸口も怪人被害で親を亡くしていた。年齢も鼎と同じくらい。


「あ、あの…大丈夫ですか?さっきから壁や棚にぶつかってますけど…」
瀬戸口はおろおろしてる。

「…手助けなど…いらない……」


この当時の鼎は仮面姿ゆえに人と接触することを極度に嫌っていたのだが、瀬戸口だけに少しずつ心を開いていく。



ある日の共用スペース。鼎は瀬戸口と話をした。


「お前は私の姿を見てもなんとも思わないのか?」

瀬戸口は優しい人だった。


「事情は聞いてます。その仮面の下…大火傷の跡を隠すためのものだって」

「まだ慣れていないんだよ…。この仮面…。
かといって、素顔でいるわけにもいかない。目のダメージを考えたら人前では必然的に仮面姿だ。不便だよ」



数年後。鼎はある怪人襲撃をきっかけに、ゼルフェノア入りを決意する。
その怪人襲撃で隊員の彩音は負傷していた。


「紀柳院さん、ここ出るの!?なんで?ここにいた方が安全なのに…」
「ゼルフェノアに入ることにしたんだ。試験も受かったよ。私の場合は火傷のダメージを考慮して、実技試験は免除されたが」


驚く瀬戸口。いつの間に試験受けてたんだよ…。


「まだここ、出ないよね!?」

「あぁ、春になったらここを出るよ。ゼルフェノア本部寮に入ることになったから」


ゼルフェノア入りって本当なんだ…。瀬戸口は複雑そう。



そして。鼎が陽明館を出る日。
施設スタッフや仲間達が見送ってくれた。瀬戸口はスタッフから陽明館からは初めてのゼルフェノア隊員になると聞いたからだ。

「紀柳院さんっ!!俺達応援してるから!」
瀬戸口はずっと手を振っていた。名残惜しそうに。



それから数年後。まさかその、「仮面の隊員」が「仮面の司令補佐」になったと聞いた時は瀬戸口もかなり驚いた。
この時既に瀬戸口は陽明館を出ている。

紀柳院さんが司令補佐?嘘でしょ!?


瀬戸口は密かに鼎を応援していた。テレビで映るゼルフェノア隊員の中に、鼎はいないかとなんとなく追いかけていた。
司令補佐になった鼎はメディアで見る機会は減ったが、存在感は増していた。

あの公表には驚かされたが。そう、仮面の理由についての公表だ。彼女は補佐になったからとカミングアウトしたのだ。
瀬戸口は他人事とは思えなかった。あの紀柳院さんが…公表した!?

瀬戸口は陰ながらに彼女を応援していた。



時系列は現在。異界で元の世界に戻るため、生き残りゲーム中の鼎達。

鼎は無の存在Aが瀬戸口なのではないかと思っていた。陰ながらに応援していたらしい、あの男性だ。


「お前は瀬戸口なのか!?」

鼎は思い切って無の存在Aに聞いてみた。怪人から逃げながらだけど。


無の存在Aは無反応。
「お前は記憶を消されたんだな!?そうなのか!?」


やっぱり無の存在2体は無反応。

「鼎さん、今それどころじゃないよ!鞭使いの怪人よりも強力なやつがいるよーっ!!とにかく逃げないと!」
晴斗は急かす。

「わかっているが…。わかってはいるんだ…」
鼎に迷いが生じ始める。


そこに不意討ちの爆破。鼎と晴斗、無の存在2体は爆風に巻き込まれてしまう。


「うわっ!!」
「鼎さんっ!!」

鼎は爆破に巻き込まれた。

怪人による攻撃ではないため、爆破の負傷は牢屋行きにはならないが鼎は明らかに負傷している。


「鼎さん…怪我してる…。立てる?」
「痛っ…」

鼎の顔は仮面で隠れているため、見えないがかなり辛そう。
そこに無の存在Aが鼎に手際よく手当てをする。


「お前…ずいぶん手慣れてるな…」
無の存在Aはうなずく。無の存在は健気だ。

鼎は確信した、無の存在Aは「瀬戸口葉」だと。


「鼎さん、大丈夫?」
晴斗も心配そう。鼎はなんとか立った。無の存在Aは守るように寄り添っている。
無の存在Bは必死に盾で守ってくれてる。



この間にプレイヤー2人は怪人の攻撃を受け、牢屋行きになってしまった。
牢屋行きになったのは御堂と霧人。


「牢屋の扉どうなっとんじゃー!!びくともしないぞ!!」


御堂も扉を無理やり開けようと格闘中。蹴りを入れたり、殴ったり。

「強化されてるから開かないんじゃないかな〜。外側からじゃないと無理だって」
霧人は諦めモード。
「めんどくせーシステムよな…」


桐谷は淡々と怪人を撃破。

「あれは厄介ですねぇ〜」



鼎と晴斗は無の存在Cを探すがなかなか見つからない。
フィールドにいるはずなのに、どこにいるんだ!?


そうこうしているうちに、ゲーム開始から約20分経過。
厄介な怪人2体はまだ誰も撃破出来ず。


鼎はなぜ瀬戸口が記憶を消されて異界にいるのか、気になっていた。
ゲームマスターが関係してるのか?



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