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ある冒険者のひとりごと……31〜夜行列車〜

……………………



その日 ワタシはパートナーと共に日課である Zellダンジョンで リッチマンとという身体(からだ)が黄金色をしたオークと戦闘し(たたかっ)ていた


倒せば 6000Zellが貰(もら)える…が1日1回だけしか挑戦出来ない……

魔物にとって Zellは価値を持たない…純粋(じゅんすい)に冒険者との戦いを楽しみ
その報酬(ほうしゅう)として冒険者にZellを渡しているのだ
………では魔物にZellを渡しているのは何者(だれ)なのか……

その答えに ワタシは まだ たどり着いていない……



その日 リッチマンと戦闘の最中(さなか) ボンド“夜行列車”リーダー“海桜”からの念話(ボンドチャット)がワタシに届いた



『ベルグ!

ハロハロ〜』



突然の事(こと)に スキル“アルペジオ”の演奏をミスってしまう



「ベルグぅ!

どうしたの?」



パートナーの“さな”が

すかさず スキル“トーチャーワルツ”の華麗な舞いで ワタシのミスをカバーして
リッチマンにトドメの2撃を入れ
戦闘(たたかい)を終わらせる



「あ あぁ……ちょっとな」



「ふ〜ん じゃ 報酬をもらって 帰ろっか」



ワタシ達は リッチマンから報酬を受け取ると
共和国(マーロ)に帰還した



共和国(マーロ)は大陸の南に位置する ヒトと魔物が共存する国だ
それ故(ゆえ)か この国で冒険者の姿(すがた)を見るのは稀有(まれ)である
魔物を敵視するのが普通と考える人々が暮らす この世界なら
訪(おとず)れる冒険者(ヒト)が少ないのは当然なのかもしれない……


ワタシはパートナーと共に 暑さを凌(しの)ぐため円形に造られた池の前にあるベンチに腰掛ける
噴水(ふんすい)から流れ出る水が 涼(すず)しさをワタシ達に運んでくれる…


「さっきは どうしたの?」


青く染めた共和国(マーロ)服に 南国の強い日射しを避(さ)ける為(ため)に
濃い紫色の三角帽(トリック・マギ・ハット)を頭にのせた パートナーの“さな”の声が ワタシの左から聞こえる…
その右耳に付けたゲルミイヤリングの水色が小さく揺れている……



「あ あぁ……さっきボンドリーダーの”海桜”から念話(ボンチャ)が あってな
今から 返事を返すところだ……」



「“海桜”さんか なんかひさしぶりだね
たしか……さいごに会ってから ひとつきぶり……かな?」



「たしか……そのくらいに…なるか」


最後に会ったのは 彼女の部屋改築(ハウジング)中のときだったか……
華奢(きゃしゃ)な体躯(たいく)に細い手脚 スラリと身長(せ)は高く 明るく鮮やかな青緑の髪をハーフツインにして
レモンイエローとパステルブルーの瞳を持ち 長いエルフ耳をしていたな……

そんな彼女の容姿(ようし)を思い出しながら ワタシは念話(ボンチャ)を送る



『ひさしいな 海桜……』



『あっ ベルグ!

聞いて 聞いて
わたし いいことがあったんだ』



『ほう……
それは興味深い…

何があったんだ?』



『ベルグは“ハロルド・ポーター”って知ってる?』



『ハロルド・ポーター……?
たしか 今は廃(すた)れた魔法を使う 物語の主人公の名前……だったか
巷(ちまた)で人気の架空(かくう)長編書物だな
ワタシは読んだ事は無いが……』



『そう! それ!
わたしね すごい大好きなんだ!
それでね それでね 演劇のチケットに当選したんだ

2階席だけどw』


『ほう……あの書物が演劇に……凄(すご)い人気なんだな
それと 当選 おめでとう……』


『でしょ でしょ
それから ありがとう 開演は4ヵ月先だけど
いまから たのしみ』



『そうか 無事 その日が迎(むか)えられるよう 祈(いの)ってる……』



『うん 
きょうは これで失礼するね

じゃあ またね』



『あぁ……またな』



念話(ボンドチャット)はここまでで切れた



「それで 海桜さんは なんて?」


ボンドチャットはパートナーには聞こえない ワタシは パートナーの“さな”に 今までの会話を話して聞かせた……



「ふ〜ん そんなことが あったんだね
海桜さん 演劇 見に行けると いいね」



「あぁ そうだな 開演はまだ先のようだが 無事 その日を迎(むか)えてほしいものだ」



「そうだね
わたしも そう思うよ

きょうは タイミングがよかったね

海桜さんと おはなしできて」



「なかなか 会えないからな……海桜とは」



ボンド“夜行列車”

ワタシが乗車し(はいっ)たときは 10数人の乗客(メンバー)が居(い)たのだが……
乗車(イン)時間が合わない為
ボンドリーダー(海桜)とは 時折(ときおり)しか話しが出来ていない………


他の乗客(メンバー)は 途中下車(退会)してしまったのだろうか?…………

あるいは 別のボンドに乗り換え(移動し)たのだろうか?………

念話(ボンドチャット)にも反応が無い…………


ただ…このボンドに所属していても
他人(ボンドメンバー)と話す事が
ほぼ無い……というのが現状(げんじょう)だ

もともと他人と行動する(つるむ)のが苦手なワタシには ちょうど良いのかもしれない………



「これから どうする?」



パートナーの “さな”がときおり吹く風に ツートップに纏(まと)めた灰白色の髪を靡(なび)かせている
陽射しは強いが 海からの風が ワタシ達に涼しさを運んでくれる



「そう……だな

“実り多き半島(みたはん)”で水浴びでもするか?」



「それも いいかも

共和国(マーロ)を出て すぐだし わたし 好きなんだ
あの海岸」



実り多き半島(みたはん)の海岸は遠浅で その色は
優(やさ)しさを感じるアクアマリン
公国(シュリンガー)の冷たい青をした厳(きび)しい海とは まったく違う顔だった
ここは 時間さえ優しく流れているのかもしれない……



「行くか………

きょうは のんびり過ごすことにしよう……」



「うん♪」



ワタシ達は 共和国(マーロ)の木製扉が仕切る出入口を抜け 平木板を敷いた桟橋を渡る……

一日を 時間に縛られる事なく自由に使えるのも 冒険者の特権なのだ



「ベルグぅ〜〜

はやく はやく〜〜〜」



水着(サマー・スノー)に着替えた パートナー(さな)が 波打ち際から ワタシを呼ぶ



「あぁ………

今 行く……」



ワタシも共和国(マーロ)服(赤)から 水着(サマー・メープル)に着替え
その声の元(もと)に向かう

まだまだ 太陽(ひ)は高い……………





ある冒険者のひとりごと……31〜夜行列車〜 〜終わり〜

にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜2幕

…………………



ある日 さな とベルニャンは 魔王アスタナによって 実り多き半島と よく似た “ネコの国”に連れて来られたのでした………




「ネコの国?……

ここが?」



さな が訝(いぶか)しげに周囲(あたり)を見回します



「実り多き半島と変わらないよう…な?

あっ! あれは“アルストラ”?
ここには生息してないはずなのに…?」



実り多き半島には “犬の魔物アラビーヌ”と“木の魔物トレント”
そして“火属性のコノミ”
しか生息していないのです……



「あれは“ワルストラ”
ここネコの国の
王“ケットシー”配下の魔物(モノ)だ
あやつらが我らの邪魔をしておる
そこでオヌシらには
ワルストラ(ヤツら)を なんとかしてもらいたい

それが出来たら
褒美(ほうび)を やろうではないか……

どうだ?

引き受けてはくれまいか?」



「ベルにゃん…どうしようか?」



「アスタニャ……
ほんとうに さにゃ に異常はないんだにゃ?」



「ベルにゃん!
わたしは ほんとうに
だいじょうぶだよ♪」



「我が大丈夫と言っておる
魔王たる我を信じよ……
“ャドゥール”よ」



「一先(ひとま)ず さにゃ は無事そうにゃ…

?… アスタニャ……
にゃぜワタシの名(にゃ)を?

……べ・ルードビッヒ・グロゥアール・ニィ・ャドゥール・ン・コーネリア

ソレが ワタシの名(にゃ)にゃ………

まだ 名乗(にゃの)って無(にゃ)いはず………」



「なるほど……

ルードビッヒとコーネリアに……育てられたのだな……」



魔王(アスタナ)は懐(なつ)かしむように
しばし その眼差(まなざ)しを どことなく遠くへ向けました



「………………

ソナタが我を覚えてないのも無理はない…

まだ子ネコであったからな
我と 出会(でお)うた時は……」



「にゃ………!?」



「ベルにゃん………

魔王(アスタナ)と知り合いだったの?」



「ワタシは アスタナ(お前)の事 知ら無(にゃ)いにゃ………」



「少し むかしの話をしよう
ャドゥールよ………

………………

ソナタは むかしシュリンガー公国領 “時渡りの塔”その内部(なか)で我が見つけたのだ…」



「にゃ…………

初めて聞く話にゃ」



「なぜ そんな場所(ところ)に ベルにゃんが?」



「我にも わからぬ…

……が そのまま放ってもおけぬ かなり衰弱し(よわっ)ておったからの

幼きソナタを
我の故郷たる“ネコの国”に連れ帰り
“ャドゥール”の名を
我がおくったのだ……」



「じゃあ 魔王(アスタナ)はベルにゃんの恩人で
名付け親だね

魔王(アスタナ)
困ってるみたいだし

この依頼 受けようよ」



少し背の低い さな が
紺碧色(ディープブルー)の大きな瞳で
ベルニャンを見上げます



「……………………

さにゃ は
お人好しすぎるにゃ………」



(………ワタシの名(にゃ)は魔王(アスタナ)が付けたものだったにゃ…………)



暗緑色(ダークグリーン)の瞳を しばし 閉じ
ベルニャンは考え込みます………



「…………………

さにゃが そう言うのにゃら……

………その依頼……

少し考えさせてもらうにゃ……」



「う〜ん……

ベルにゃん 考えてみて」



さな が少し残念そうな顔をします



「あっ そういえば

連邦(アブル)服だと
ネコの国(ここ)では暑いから わたし共和国(マーロ)服に着替えてくる〜」



「さにゃ

気をつけてにゃ…
何かあれば 直(す)ぐ駆けつけるにゃ〜」



「うむ…

ワルストラ にさえ
気をつければ 大丈夫だぞ」


着替えるため小さな建物へ向かう さなの背中に ベルニャンと魔王(アスタナ)が声をかけます…

アクアマリン色の波が打ち寄せる白い砂浜…
その近くまで茂(しげ)った草地……そこに高く伸びたヤシの木が数本

その先に木を組み合わせて建て(つくら)れた
円錐形(まるい)小屋
そこに
さな は向かいました………

………………………



「して ャドゥール…

褒美(ほうび)の件(こと)だが…

ソナタらは何を望む?

巷(ほか)では 手に入らぬ 珍(めずら)しい品を用意しておる…

見聞し(み)ていくか?」



「にゃ?……

珍しいモノ!?」



ベルニャンは珍品(めずらしもの)が大好きなのです
魔王(アスタナ)が異空間から様々な品を取りだし
ベルニャンの目前(めのまえ)に並べていきます



「……会場装飾:バルーン…

………会場装飾:リボン…

…………聖餐卓……


(とくに 欲しいモノは

無(にゃ)いにゃ………)

……………

……!!

こ…この…建材(ブロック)は………

初見にゃ!!……」



ウェディング用家具が並ぶなか
四角いブロックが
ベルニャンの目に留(と)まります……



「ふむ ソレはな

今回の結婚を記念して
作られたのだ

石のブロックには 国王(ケットシー)の子
王子ロミーの

木のブロックには 我が姪ジュリアの

肉きゅうを模したスタンプが それぞれ彫ってある……」



「にゃ……!

これは にゃか にゃかにゃ……」



“きゃ……………!!”



褐色をしたベルニャンの肌の色より
淡い茶色をした頭髪から生(は)えたネコ耳が 遠く微(かす)かな さな の声を捕(と)らえました

ふんわりと肩に掛(か)かる髪が大きく広がり
しっぽの毛が大きく逆立っています
そして
“実り多き半島”の砂地をその四つ足が跳ねるようにさな のもとへ
放たれた矢の如(ごと)く
駆け出しました



「待て ヤドゥール

…………………………

………………

…………仕方ない

我も 行(ゆ)くか…」



すでに見えなくなった ベルニャンに
魔王(アスタナ)は ため息を吐(つ)くと
出した品々(しなじな)を
素早(すばや)く仕舞(しま)いこみ

軽く その右手を振りました
すると 目前(もくぜん)の空間が歪(ゆが)みます
ソコを通り抜けると
魔王(アスタナ)は
円錐形(まるい)小屋の前へ出現(あらわ)れました



「さにゃ!!

無事にゃ?」



一気(いっき)に駆け抜けた来た
ベルニャンが 小屋の前で座り込んでいる さな に
訊(たず)ねます



「………あっ!?

ベルにゃん!

ちょっと ビックリしただけ……

あ……ありがと…」



「何も危険は無いと 言っただろ
ヤドゥールは そそっかしいな…」



褐色の肌に黄連で染めた共和国(マーロ)服を着た
ベルニャンの背中に
魔王(アスタナ)が 呆(あき)れ気味(ぎみ)に 呟(つぶや)きます…



「何が あったにゃ?」



小屋の入り口に ネコ耳と
視線を向け ベルニャンが
庇(かば)うように さな の前へ出ます



「あっ……ぅん

その……小屋に入ろうとしたら………」



連邦(アブル)服のまま座り込んだ さな の言葉を魔王(アスタナ)が続けます……



「先に言っておくべきだったか……

ソコは ワルストラから
我が眷属(けんぞく)たるネコ達が避難しているのだ……

だから ソタナ達には危害は加えることは無い」



その声に ベルニャンが
小屋の中に目を凝(こ)らすと
無言の薄暗闇に 無数の眼が 浮かび上がり
こちらを凝視(ぎょうし)するのが 見てとれました……



「…………

この数 ココに入るには狭(せま)過ぎにゃ……」



「屋外で作業をしておると
国王(ケットシー)配下の
ワルストラが 邪魔(じゃま)をしてくる…
だから
ここで ワルストラを やり過ごしておる…」



「………

同じ ネコの国の魔物どうしだし…
おたがい 話してみては どうかな?」



水色に染めた共和国(マーロ)服に着替え パートナーの さな が
話しに加わります



「それは そうだが

今は ケットシーが国王……

配下の魔物(モノ)は 魔王(ケットシー)の命令(メイ)には 逆らえんのだ…」



「にゃ!!

にゃら 国王(ケットシー) を 魔王(アスタナ)が
説得すれば 解決にゃ!」



「うん!

それが いちばんの解決法だね♪」



白い砂浜に打ち寄せる波音と風が小屋の前に座り込んだ三人の間(あいだ)を通り抜けていきます


「バ 馬鹿を申すでない!国王(あやつ)と話すことなど
我には ない!!」



「まぁ…
ケットシー(あやつ) 自(みずか)ら来るのなら……

会ってやらんこともない…」



「う〜ん こちらから
魔王(アスタナ)と
いっしょに
国王(ケットシー)に会いにいく…
のは むずかしそうだね…」

さな は小首を傾(かし)げ 考え込みます
右耳に着(つ)けた
小さく青い ゲルミイヤリングが揺(ゆ)れます



「にゃら アチラ(ケットシー)に出向いてもらうにゃ」


「あやつ(ケットシー)は用心深い そう簡単には
会えぬ…」



ベルニャンの言葉に 魔王(アスタナ)が反論します



「国王には面子(メンツ)というモノがあるにゃ

部外者(ヨソモノ)である
ワタシに
部下(アルストラ)が倒され続ければ

……どうにゃ?」



「ふむ……

国王(ケットシー) 自(みずか)ら出向かなければ
“腰抜け”の謗(そし)りをうけるな……」



「そ・こ・でにゃ

魔王(アスタナ)と国王(ケットシー) ご対面……

話し合ってもらうにゃ」



「さすが ベルにゃん!

これで かいけつだね♪」



「待て まて 我は
その案に 了承(りょうしょう)しておらぬ
勝手(かって)に はなしを進めるでない」



ベルニャンと さな の言葉に 魔王(アスタナ)が焦(あせ)り 冷や汗を浮かべています



「にゃ?

さにゃ 魔王(アスタナ)は
お気に召さにゃいようにゃ……

依頼要請(はなし)は ここまでにゃ
ワタシ達は 帰るとするにゃ」



ベルニャンは立ち上がり
付いた砂をはらいおとします……



「え〜!?

ベルにゃん……

魔王(アスタナ)を助けてあげようよ」



「ま 待て ャドゥール…

我を 我が姪(ジュリア)を助けてくれ!」



ネコの潜む小屋に背を向け立ち去ろうとするベルニャンに 魔王(アスタナ)と さな の声が重(かさ)なります

しかし ベルニャンは歩みを止めません

少し間(ま)があき 魔王(アスタナ)が折(お)れました……



「わ 了承し(わかっ)た…
我が姪(ジュリア)の為にも
その条件……

……のもう…」



歩(ある)き続けていたベルニャンの足が止まり

くるりと ふたりの方(ほう)へ振り返りました



「にゃ!

さっきの件(けん)

ほんとうに いいのかにゃ?」



「ま まぁ しょうがない

しかし ャドゥールよ

あくまで 国王(ケットシー)が自(みずか)ら

我に 会いに…来たなら…

報酬の建材(ブロック)を
渡そう……

そして 我は国王(ケットシー)と話す

…………………

この依頼条件で よいか?」


「さにゃ は これで いいかにゃ?

ワタシは いいと思うにゃ…」



ベルニャンが
パートナーの さな に同意を求めます



「うん♪

魔王(アスタナ)と
姪(ジュリア)と
王子(ロミー)のためにも
わたしたちで 解決しよう♪」



「にゃ♪

国王(ケットシー)を 誘(さそ)い出すため

ワルストラ狩りにゃ♪」



「我が ネコの国(ここ)に存外す(い)る事実(こと)は
内密に 頼む」



「うん♪

国王(ケットシー)が警戒して出て こなくなるかもしれないからね」



「逆(ぎゃく)に 魔王(アスタナ)が
ネコの国(ここ) 居(い)る事を知らせれば
真っ先(まっさき)に 飛び出して来るかもしれないにゃ…♪」



「よ…止(よ)さぬか!
ャドゥール!!

あくまで ワルストラを倒し続けた 後(のち)に
国王(ケットシー)を釣り出す……
そういう 手筈(てはず)ではないか!」



「にゃ♪

冗談(じょうだん)にゃ♪」


「ふふっ……

魔王(アスタナ)と ベルにゃん

なかよしだね♪」



「う…うむ

ャドゥール それに さな よ……

この依頼 頼んだぞ

……」



「ワタシ達が ワルストラを引き付けている間に
魔王(アスタナ)達は式場の準備にゃ…」



「わたしたちも
ジュリア とロミー のためにもガンバロー!」



…………………

………こうして ベルニャンと さな は ネコの国で魔王(アスタナ)の依頼を受けることになりました………




にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜2幕……おわり

にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜1幕

………………



「う……う〜〜ん

………………………

ここは?」



草地に倒れていた
さな がボンヤリと起き上がりました



「やっと起きたか…

お前のほうからも コイツを説得してくれ…」



「貴女(あなた)は……

魔王アスタナ!!

どうして……

それに ここは“実り多き半島”……みたいだけど」


南国“マーロ共和国”領に位置する“実り多き半島”
青い空に白い入道雲が立ち登り 蒸し暑さを感じる場所です
さな は 青に染めた連邦服を着ていましたが ここでは暑すぎるようで
露出した肌が汗ばんでいました



「えっと…

ベルにゃん……は?」



彼女(さな)のパートナー
魔物のベルグニャンコ……
本当は もっと長い名前ですが 呼びやすさと親しみを込めて さな は“ベルにゃん”と呼んでいました………



「さにゃ……

無事かにゃ?」



褐色の肌に 黄色く染めたマーロ服上下を着た
……ベルグニャンコ(ベルニャン)が 魔王(アスタナ)と対峙したまま声を掛けます



「じゃから お主と 殺り合うつもりは無いと 言っておる

もし殺り合ったら……

お主 死ぬぞ……」



2本脚で立つ キツネの様な姿をした 魔王アスタナが ベルニャンに凄(すご)みの効いた笑顔を見せます
額に生えた4本の細い角と後ろに伸びたゴワゴワな長い髪が相手(ベルニャン)を威嚇(いかく)する様に声に合わせて揺れています



「……たとえ 死ぬと解っていても戦わなければならない時が あるにゃ」



薄茶色の髪を逆立て ベルニャンは答えます 普段は下に垂れている長い尻尾も ピンと立っていました……



「魔王(アスタナ)…

ベルにゃん……

どういう事か 説明……してくれる?」



さな には状況が わかりません

“国境沿い(連邦)”に ベルニャンと居たはずなのに 目が覚めると
“実り多き半島”で魔王アスタナとベルにゃんが対峙しているのです



「よかろう

我が説明しよう

そして そちの方から
コヤツを説得してくれ…」


ベルニャンから視線を外(はず)さないで魔王(アスタナ)は さな に語り始めました………



「実は 我の姪(めい)ジュリアが結婚する事になってな
魔王たる我に恋愛感情というものは わからぬが
我が一族に連なる者なら
式に参加せねばなるまい

しかし 我が姪の相手となるロミーの父が反対しておってな
式の準備を邪魔をしてくるのじゃ……
そこで そち達に協力(あやつらのじゃまを)してもらいたいのじゃ…」



「協力? むりやり 拉致(さら)っておいてかにゃ?
ヒトに無理のかかる空間渡り(里超え)を強(し)いてにゃ……

……………………

さにゃ に にゃにかあれば……

ワタシはお前をヌッコロス………」



「じゃから 急を要する案件と言ったであろう?
それに ソナタのパートナーも無事ではないか…
我からの頼み 聞いてはくれぬか?」



「あのう〜
どうして わたし達なんですか?
魔王(アスタナ)さんが直接 行かれたほうが…」




「いや それがな
じつは 我は この国を追放された身
ここでは おおぴらに活動できぬ…
そこで お主達に我の代わりにこの国の王ケットシーの評判を落とすため…
いや 我の姪ジュリアとロミー王子の結婚の手助けをしてほしい…

それに ソナタらとは何かと縁があるからな……」



「えっ? 国? 王? 王子?

ここはマーロ共和国じゃ?………」



「ん?
言ってなかったか?
ここは ネコの国
お主らの知る “実り多き半島”によく似た 別世界さ……」



…………………………



にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜1幕………つづく

魔物のベルにゃん その2〜ベルにゃん グラックと会う……

……………




………アブル連邦とシュリンガー公国との国境沿い
その連邦(アブル)寄(よ)りに錬成施設と呼ばれる場所がありました……

ここは古代錬金術文明期に造られた
武具の研究開発をする為の施設です

ここでは武具を作るときに高温になる炉を冷やす為 豊富な湧き水を使います

その熱い排水を利用して
温泉施設が 増設さ(つくら)れました

大量のお湯が流れ込む広い木板張りの湯船
そこには 釣り場もあり ここでしか釣れない珍しい魚もいました……………



魔物の“ベルニャン″は
パートナーの“さな″と共に 錬成施設(ここ)の温泉を利用するため

久しぶりに 錬成施設を訪(おとず)れていました………


一応 連邦(アブル)領内にある施設ですので
パートナーの“さな″は
藍で染めた連邦服上下を着用し(き)ています

しかし“ベルニャン″は
黄蓮で染めた共和国(マーロ)服上下を着ていました
その袖口は赤から白に染め直しています


“クリシュナ魔王国″出身のベルニャンですが 公国服(黄)が お気に入りで
いつもアバターに着用していました………



ふたりはマウントと呼ばれる乗り物 飛行板(フライング・ボード)で 錬成施設前の階段道を施設を目指して浮き進んでいます
右手に大きな滝壺が見え
高くから大量に注ぐ水音が心地よく響いていました……………



「ベルにゃん
連邦(アブル)内では 連邦服を着たほうが良くない?」



飛行板(ボード)の前に座った“さな″が後ろに立つ
ベルニャンに問いかけます


「嫌にゃ…

ワタシは この共和国(マーロ)服が気に入っているのにゃ……

それに…冒険者は自由にゃ」



「まぁ そうなんだけど

わたしも この連邦(アブル)服
気に入ってるから着てるんだけどね♪」



「 にゃ にゃ にゃ……(笑)

“さにゃ″
温泉 楽しみにゃ」



「うん “ベルにゃん″は
熱いお風呂が好きだよね」


「そういう“さにゃ″は
温(ぬる)い長風呂にゃ」



「わたしたち いろいろ正反対だよね♪」



「だから うまくいってるにゃ……」



「ふふっ
そうかもね♪」



地面から一定の高さに浮き
前方(まえ)に進む飛行板(フライング・ボード)の上で話をしているうちに
ふたりは錬成施設に着きました…………



山肌をくりぬいて造られた錬成施設の天井は高く
中に入っても 迷宮(ダンジョン)のような圧迫感は感じられません

ふたりは 入り口で飛行板(マウント)を降りると 温泉のある奥へ進みます



「おい そこの2人

ちょっと いいか?」



黒い眼帯を右目に着けた ガタイのいい男に呼び止められました……



「にゃ?

誰にゃ……」



「え〜っと…

わたしたちの事ですか?」



ベルニャンと さな は足を止めました………



「そうだ

褐色の肌にケモ耳と尻尾を付けた お前と
ツートップにした白髪の お前だ……


オレの名は“グラック″

この錬成施設の 長(おさ)をしている……」



「……ワタシ達に

何か……用事(よう)かにゃ……」



両足を開き 右足を下げ 腰を落とし
握った両拳(こぶし)を腰元に置き ベルニャンは素手戦闘の構えを 取ります



「あの〜
錬成施設(ここ)の責任者は“スミナ″さん…では?」



パートナーの さな も初めて見る人物(ひと)に困惑しています



「まぁ 話を聞け

“スミナ″は俺の留守を委(まか)せている 一番弟子だ

この錬成施設に入れるってことは お前たち

冒険者だろ?

錬成施設(ここ)では 武器の開発 発掘 再生も してる

新しい武器に興味はないか?」



「にゃ…武器?

魔物には必要ないにゃ…」


「ん〜〜

今は 必要ないかな〜〜」



………魔物である ベルニャンは
これまで冒険者として
様々な職業(ジョブ)に就いて 剣 槍 斧 杖 弓 と扱(あつか)ってみましたが
どうも巧(うま)く取扱(つか)えませんでした

唯一(ゆいつ) 拳 が性(しょう)に あったため 拳闘士系の二次職 拳聖 に今は就いています それでも武器は装備せず素手のままです

パートナーの さな は
そんな ベルニャンを支える為 杖を使う修道士系に就いて回復と補助を担当していました………



「まぁ そう構えず 話だけでも 聞いていけ

古代錬金術文明は今より

遥(はる)かに錬金術が発展し 頂点を極めていたことは知っているな」



ベルニャンは警戒しつつ構えを解き
さな は黙(だま)って 頷(うなず)きます



「その古代錬金術文明末期に 究極の武器
“アカシック・ウエポン″
が造(つく)られたんだ

その力は 神をも殺す
とも言われている……」



「………… にゃ にゃ にゃ(笑)

神? そんにゃもの自称にゃ……

神を殺せる?

にゃ にゃ にゃ……(笑)

神を名乗る者を殺した者が 神を自称するだけにゃ…
神を殺したと
自称する者が
噂を広めただけにゃ…」



「そうかも知れん

しかし アカシック・ウエポン(コイツ)は 強力な武器には違いないんだ」



「違(ちが)いない?

はっきり しないんだね」



「きっと 偽物(にせもの)にゃ……」



「なにしろ 古い武器(モノ)でな

発掘された時には 力を失い 半壊していたんだ…

そこで アカシック・ウエポン(コイツ)の修復再生に
協力してくれないか?

報酬は 再生したAW(アカシック・ウエポン)を お前たちにやろう

どうだ? 悪くないだろ」



「どうする?

ベルにゃん

この依頼 受ける?」



「魔物は 自身の肉体を使って戦うのにゃ

……武器は必要ないにゃ

もともと 錬成施設(ここ)に来たのは 温泉に入るためにゃ
依頼(しごと)の事は忘れてのんびりするにゃ……… 」



「う〜〜ん……

グラックさん

少し 考えさせてください」


「おぅ!

気が変わったら
声をかけてくれ しばらくは 錬成施設(ここ)に いるからな…」



「……気が向いたらにゃ」



「グラックさん また今度………」


グラックに 別れを告げ
ベルニャンと さな は
温泉のある奥に向かいました………



「そういえば あいつらの名前

聞いてなかったな…

………魔物とヒトの冒険者……か
まぁ 珍しくはないか……」



グラックは ひとり呟(つぶや)きました



………冒険者の中には 魔物や悪魔……天使や妖精 幻獣の格好(コスプレ)をし それを名乗る者も います
そういう中には 本物も混じっているのかもしれません…………



グラックは むかし 魔物の冒険者に依頼され 武器類を製作した事がありました



(たしか “ルードビッヒ″とか
言ったか? あれ以来 会っていないな

今なら あの時 以上の武具を 製作でき(つくれ)るんだが……)



グラック には心残りがありました

魔物の冒険者から 武器製作依頼を請(う)けた時は
まだ AW(アカシック・ウエポン)も ウーシアのレシピは発見されていませんでした……
かろうじて ファントム・ウエポンのレシピが考案され試行錯誤していた時期です

“近々 シュリンガー公国が大きな戦(いくさ)をするのでは?″
不穏(ふおん)な噂(うわさ)が アブル連邦にも流れてきていました


魔物の冒険者は 強力な武器類を錬成施設に求め それは急を要するモノでした……

グラック は不完全ながらも完成した ファントム・ウエポン・シリーズを魔物の冒険者に渡しました

それから程(ほど)なくして シュリンガー公国が クリシュナ魔王国に
攻めこんだと錬成施設にも噂(うわさ)が聞こえてきました………

その後 グラックは 魔物の冒険者に会っていません



(……

あの時 未完成品を渡すべきでは なかった……

いや たとえ完成品だったとして 戦(いくさ)の行く末(ゆくすえ)
魔物やヒトの生き死には変わらんか… ……)



……………………………



グラックは 左目を閉じ 腕組みをしたまま 考えに耽(ふけ)りました

その横を 鉱石をいっぱいに積(つ)んだトロッコを押し魔物が通りすぎて 行きます

錬成施設では 魔物も働いています 鉱石の発掘と運搬を担(にな)い 大切な労働力です 冒険者の中には
魔物を快(こころよ)く思わない者も います
“魔物は滅(ほろ)ぼさなければならない″ そう考える者も少なからずいました
特に “シュリンガー公国″ 出身者に その傾向が強い様です
先の戦争で 魔物の国 “クリシュナ魔王国″に攻めこみ あと一歩というところで大敗を期(き)した事も関係あるのかもしれません



……………………………



「………

にゃ にゃ にゃ にゃ………(笑)

やっぱり 温泉は さいこうにゃ」



「もう ベルにゃん たら
はしゃぎすぎだよ〜♪」



しばらくすると グラックの前に 2人が帰って来ました
温泉を堪能(たんのう)したみたいです
ベルニャンは 共和国(マーロ)服(黄) さな は紫根で染めた共和国服(紫)に着替えています



「おぅ!

さっきの…

どうだ 考えは変わったか?」



「また その話かにゃ……

答えは変わらにゃいにゃ……」



「すいません グラックさん
わたし達は 今ある武具で
じゅうぶんなんです…

ごめんなさい…」



少し イラつく ベルニャンと 申し訳なさそうにする さな
対称的(たいしょうてき)な2人です……



「そうか……

ひき止めて 悪かったな


最後に 名前を教えてくれないか?」



少し残念そうに グラックは 俯(うつむ)きます



「わたしは さな

ベルにゃん…いえ ベルグニャンコのパートナーだよ」



「……いちおう拳聖をしているにゃ


ルードビッヒ
グロゥアール
ニィ
ャドゥール
ンァ
コーネリア

…………にゃ」



「 さな と ベルグニャンコ か……

何か あったら おれを訪ねて来てくれ

またな……」



「にゃ またにゃ……」



「グラックさん またね〜」


挨拶(あいさつ)を交(か)わし ベルニャンと さな は
錬成施設をあとにします



(べ=ルードビッヒ=グローアル……か

まさか アイツの子か?

いや それは 無いか……

肌の色も髪の色も違うしな……)



2人を見送った グラックは 再び隻眼を閉じ 腕を組み 考えに没頭(ぼっとう)し始めました…………



……………………………



ベルニャン と さな は
マウントの飛行板(フライング・ボード)に乗り
錬成施設を後(あと)に “広がる平原″を進みます



「ベルにゃん

温泉 楽しかったね

つぎは どこへ行こうか?」


宙に浮き前に進む 飛行板(ボード)の前に座る さな が後ろに立つ ベルニャンに問いかけます



「………そうにゃ

次は“にゃにゃ″ も誘(さそ)って3人で行ける場所(ところ)が いいにゃ……」



「そうだね “なな″ は水に入れないもんね……

ひとまず 共和国(うち)に帰ろうか?」



「やっぱり ハウジング(うち)が いちばんにゃ…」



「うん

進路(いきさき)を 共和国(マーロ)にするね」



「マーロに向けていざ出発にゃ」



「りょうかい (*^^*ゞ」



2人を乗せた 飛行板(フライング・ボード)は
“3国国境″を抜け
マーロ共和国に向けて飛び去って行きました…………………




魔物のベルにゃん その2〜ベルにゃん グラックと会う…… 〜おしまい〜

ある冒険者のひとりごと……30・5ヤーレン騒乱文化祭より〜絵画〜から…牛車内での夢(別案)

……………

…………………


荷台に伝わる
4つの車輪からなる単調なリズム………
幌(ほろ)の隙間から入ってくる
暖かな陽気(ようき)……

実に快適な旅だ

膝(ひざ)の上で
安らかな寝息のパートナー………
それを見つめる
ワタシにも 心地よい微睡(まどろ)みが そこまで来ていた……



「共和国(マーロ)に着いたら起こしてくれ……」



ワタシは 御者台に座る
魔物に声をかけると
チップに いくばくかの 賢者石を渡す……

ツノ牛を操(あやつ)る
イヌの魔物
“アラビーヌ″は 軽く頷(うなず)き 石を受け取る

共和国(マーロ)では ヒトと同じく 魔物も仕事に就いている
通貨はZellだが やはり魔物にとっては賢者石の方が喜ばれる
魔法の発動に 賢者石を消費するからだ………
それゆえに 料金とは別に チップ(賢者石)を渡すのである

また 賢者石を介(かい)しての約束事は
魔物にとって
絶対遵守(けいやく)でもある

これで ワタシが寝込んでも 共和国(マーロ)を降り過ごす心配も無いわけだ……



ワタシは 目を閉じ

内装(ハウジング)……

魔法書(グリモア)……

絵画(え)………

のことを考える

夢と現(うつつ)を行き来するうちに
いつの間にか
夢の中に入っていた………



……………………



果てしなく広がる
青い海原 テトラ海……
そこに面した白い砂浜 リプル海岸
そこには 二千年以上前に栄えた
海洋王国ミルトシュタイフの遺跡が残っている……

その沖合いに 錨(いかり)を下ろし停泊する1艘の船……

その船の名は“セント・セイナ号″……

船上の少し高い位置に置かれた操舵所……

舵輪を握るのは
“キャプテン・セイナ″
この船の船長である……
白い肌に ふんわりとした金髪 服から覗(のぞ)く
腕脚は 強靭な筋肉に程よく脂肪が載(の)っているのが見てとれた………



「ギルマス!

気がついた?」



「…ギル……マス…?」



彼女の声に ワタシは思わず 聞き返した



「どうしたんや 二代目!

あんさんが しっかりせんと わいら 困るやんけ」



「えっ…

に…二…代目……?

…えっと………貴方(あなた)は?」



「どないしたん?

先代から このギルド

“君の物語″を受け継(つ)いだんやないかい!

それに ワイのこと忘れたんかい!

ワイや! ワイ!!

副長の“パン王″や」



頭に載(の)せるには 大きすぎる王冠(かんむり)?を肩から斜めに たすきに掛け
旅人の外套(赤黒いマント)を纏(まと)った男が捲(まく)し立てる…



「…えっと ごめんなさい…

王…さま? が

…副…長をしてるんです?

そういえば 王冠…?
それにマントをしてるわね………

…………………

…船酔い したのかしら
ちょっと ぼーっとしちゃって……」



「組長は いつも ぼんやりしてる……」



「貴女(あなた)は?」



「夜飛(よぴ)……

サムライをしている」



「その服装は サムライ?……なのかしら 可愛くて 格好いいわ」



幼い顔に 尖(とが)った耳 白っぽいが よく見ると薄い藤色髪の小柄な少女……

彼女は黒い異国の服を纏(まと)い
首に巻いた同色のマフラーを 時おり吹く風にまかせ
静かに佇(たたず)んでいる


…………………!?


何やら近くに気配(けはい)を感じ
ワタシは振り向く………



「えっ?

ワタシ………?」



ワタシの視界に ワタシが映る……


白い肌に 艶のある檸檬(れもん)色の髪……
首元で2つに分け それぞれを螺旋(らせん)に巻いて垂(た)らした
アンダーロールの髪型………
銃士(ガンナー)として ワタシが選んだヘアカラーと髪型……

それは 間違いなくワタシだった……………



「……キルッシュ

ふざけるのも そのくらいに……」



「せや せや ウチらの二代目 ビビっとるやないけ」


夜飛(よぴ)とパン王の声に
ワタシを 見つめるワタシの姿が みるみる変わってゆく…………
やがて それは黄緑(ライムグリーン)色の髪をした少年の姿になった………



「双剣使いの キルッシュ………

あんた 本当に ボク達の
ギルマスかい?」



「………たぶん 本物
特に おかしな所は無い」



「せや せや 間違いなく 二代目ギルマス みゃこちゃんや!」



「どう…だか

おおかた
ボク達を騙(だま)すため カエルムが化けてるんじゃないかい?」



「いや いや
あんさんが それを言(ゆ)うんかい!!」



「船長(キャプテン)は
どう思う?

船の上では アンタが絶対だし…
セイナ(アンタ)の判断に ボクは従(したが)うよ……」



「うーん そうねぇ…

あたまが混乱してるのかも
さっきの“リジッドテイル″の一撃を もろに食らったから その後遺症かしら?
じきに 戻るんじゃない?」


そういえば………

…なん…だか……頭痛がする…………



「♪…………夜〜

それは 黒と闇〜〜

世界の真実(まこと)は そこに〜〜〜♪」



「………?」



キャプテン・セイナは
舵輪をから手を放し
その両手を広げ
突然 歌いだした………

ワタシの中で 何かがザワつく………



「♪………美しきは
闇(や〜み)〜〜

暗き闇こそ美しい〜〜〜


夜〜〜

美しき夜〜〜〜


ワタシは〜〜

その中に生まれし

黒き闇を照らす〜
忌(いま)まわしき〜〜
光の申(もう)し子〜〜〜〜

我が名は〜〜
美夜子(みやこ)〜〜〜

美しき夜を生きる子〜〜〜♪」



セイナは高らかに歌った………



「あ〜〜〜(///ω///)

止めて

やめて

歌わないで……

そんな 恥ずかしい歌」



「だって 美夜子(みゃこ)が自己紹介の時 歌ったのよ

いいじゃない」



「あのとき………確かに 歌っていた」



「美夜子(みゃこ)ちゃん
また歌ってんな
ワイ また聞きたいねん」



「実に 面白い歌だったよね
もう歌わないのかい?」



ワタシは 恥ずかしさに
白い肌を真っ赤に染め
両手で顔を覆(おお)う

どうして あのとき こんな詩(うた)を歌ったのか………
思わず その場に座り込んでしまう
あぁ……
この場から 直ぐにでも逃げ出したい………



「組長!

モンスター(敵)だ!!」



“夜飛(よぴ)″の声に ワタシは 顔をあげる……


色鮮やかな羽を持つ 鳥のモンスター “リジッドテイル″
半透明の体に巨大な目玉と羽を持つ“アイフロート″

このリプル海岸付近に 生息するモンスター………
どちらも空中に いるため 剣を当てるのは至難の業(わざ)だ………



「船長(キャプテン)!
船は 動かせる?」


即座(そくざ)にワタシは セイナに訊(たず)ねる



「錨(いかり)を下ろしてるから 直ぐには無理ね」



ワタシは少し考える……



「…………

副長!

夜飛(よぴ)!

キルッシュ!

ここで撃退(げきたい)するわ……

セイナ!
いいかしら?」



逃げるのは無理のようだ ワタシは 船に近づくモンスターを迎え撃つことにした……



「りょうかいや 二代目!
ワイが ばっちり
しばいたるで〜」



「わかった……ここで食い止める」



「ふん!
ボクの双剣の餌食(えじき)にしてやるよ」



「りょうかいよ
美夜子(みゃこ)

船は ここに固定するわね」


なんとも頼(たの)もしい
限りだ……



「みんな…… アイフロートに気をつけて!」



腰のホルスターから 剣銃(ソード・バレット)を引き抜き
ワタシは ギルメン(なかま)に声をかける……



「わたしも 剣を振るおうかしら」



両手剣を 軽々と片手で振り回し
セイナがウォーミングアップに入る



「ええ…

頼むわ セイナ……」



「まかせて
美夜子(みゃこ)!」


ワタシ達は 武器を構(かま)え 空中に存在す(い)るモンスターと対峙(たいじ)する



………………



戦闘(たたかい)の末(すえ)
ワタシ達は なんとか
リジッドテイルとアイフロートを撃退することに成功した……

しかし すでに陽は傾き 夜の闇がそこまで来ている

モンスターの さらなる襲撃を避ける為 ワタシは船を さらに沖へ移動させる事を提案した…………



「このあたりで いいかしら?」



リプル海岸に建つ ミルトシュタイフ遺跡が 小さくく見える沖合いに船を停泊させ キャプテン・セイナが問う



「ここまで来れば 大丈夫でしゃろ

いや〜 さっきは ひどい目に おうたさかい

ほんま アイフロートは こりごりや…」



パン王が 愚痴(ぐち)っている
アイフロートの催眠光線を浴びると戦闘中でも眠りに落ちてしまうのだ
そこを リジットテイルの硬いくちばしで つつかれるのだから たまらない……
二種類のモンスターの波状攻撃に ワタシ達は苦しめられたのだ………



「メリーダ村の ヴィット小隊長には 明日 報告するとして……

今夜はここで 夜を明かしましょう」



ワタシは船上での宿泊を提案した



「夜になると モンスターの数が増える…

アルメリー平原を抜けてメリーダ村を目指すのは 危険…」



夜飛(よぴ)は賛同のようだ



「いっそのこと このまま 東のクルティエ大陸を目指すってのは どうだい?」



「たしかに サルヴィス大陸(ここ)は カエルムモンスターの進行が進んでるわ

だけど……
東の大陸(クルティエ)が 安全……とは言えないと思うの……

それに………」



「言ってみただけだよ ギルマス…

……それに
ワタシ達は統合騎士団(テンプルムナイト)に所属してるから……
でしょ
わかってる わかってるよ」



キルッシュの言う通り
ワタシ達は 騎士団に所属し
便宜(べんぎ)を図(はか)ってもらっている……
しかし…断れない依頼もくる
今回の件がそうだった………



「船上(ここ)も冷えてきたわ

続きは船内(クラブ)で話しましょう」



セイナの言う通り 陽が沈み周辺(あたり)が闇に包まれると 身体(からだ)が冷えてきた……



「そうね…

船内(なか)に入りましょうか……」



「せやな

はよ 行こ 行こ

船外(そと)は寒(さむ)ぅてかなわんわ

ワイ
一杯やって 早(は)よぉ暖(あった)まりたいわ」



「わたしも 呑みたい…」



「いや 酒より 食事だね
パンと 肉が食べたい」



「ほいほい

夜飛(よぴ)き も一緒に呑(の)もなぁ…

それにしても
なんや キルキル

パンかいな

米! 食え 米!

米は力やで」



「名前は パンなのに

米?

相変わらず 副長は おかしなやつ」



「ちゃう ちゃう

ワイの 名前は 物語に登場する英雄から取ったんや

食べ物のほうとちゃうねん」



「あっ!

ワタシ 知ってる

呪われた島“ロ島戦記″でしょ

最初の“灰の魔女″だけ読んだわ」



「組長は 物語が好きなんだ…」



「そう……

読むだけでなく
ワタシも
いつか物語を書いてみたいわ…」


ワタシ達は 話しながら階段を降り 船内の狭い通路を進む



「みんな 先に入室(はいっ)てて 着替えてから行くから」



「ほいほい〜

セイちゃん また 後(あと)でな〜」



「了解だよ 船長(キャプテン) 」



「船長 先に行ってる…」



「セイナ またあとで……」


セイナと別れ ワタシ達は
さらに進む………



「着いたで

ここや ここ」



「…えっ……と

“ドリーム・クラブ″?」



扉に掲(かか)げられた
船室名(プレート)の文字は そう読めた………



「そう…船長 自慢の部屋」


「部屋(なか)に 入ろう」



パン王… 夜飛… キルッシュ… と話しながら次々と
部屋(ドリームクラブ)に入って行く……

ワタシは 最後に その扉をくぐった………



「すごいわ……これは…」



思わず感嘆の声がもれる

部屋の中央には 曲線ソファを4つ繋げてドーナツ型にしており その四隅には
3人掛けソファ(白)(赤)が置いてあり その装飾は豪華だ……

赤と白と黒 そしてステンドグラスのブロックを組み合わせて壁を作り 豪華さを演出している……天井にはシャンデリアが吊り下げられ 部屋の華(はなやか)さに貢献(こうけん)している………

ブロックを組んで作った中央のテーブルの上には
グラスが並び シャンパン・タワーが輝(かがや)く……

壁には 石造花鉢も飾られ
そこに カラー・ブロックで組まれたテーブルを置き
様々(さまざま)な料理が並べられ 美味(おい)しそうな香りを漂(ただよ)わせていた………



ワタシ達は 各々(おのおの)好きな席に着き 船長(セイナ)の登場を待った

このギルドの責任者(マスター)は ワタシだが
船の上では 船長(キャプテン)の方(ほう)が責任者だ……

彼女を差し置いて ワタシが乾杯の音頭を取るわけには いかない……



「みんな お待たせ〜」



その声に 扉のほうを見ると
先ほどの勇ましい船長姿とは うって変わって緑色のドレスを纏(まと)った
セイナが優雅(ゆうが)に立っていた………



「セイちゃん 待(ま)っとたで」



「船長 早く …」



「それより船長(キャプテン)!
飯だよ 飯(めし)!」



「セイナ…
素敵なドレスね……」



「ふふ…

みんな! グラスを持ったかしら?」



赤く透き通った果実酒を満たしたグラスを
緑色のドレスと同色の長手袋(ロング・グローブ)を嵌(は)めた手に取るセイナ……

それに合わせ“君の物語″のギルメン達が次々とグラスを手にした………



「それじゃあ……

セイナ…

乾杯前の挨拶(あいさつ)を お願い……」


ワタシは セイナを促(うなが)す………



「みんなの おかげで
モンスターとの 戦いに
勝つことが できたわ

わたし達の船 セント・セイナ号 の被害も少なくすんだわ

ありがとう みんな!」



「せやな ワイら みんなの勝利や!

もっとZ(ゼル)も
稼(かせ)がな あかんし
武器 防具 コアの為の素材集めも せな あかん

ワイらのギルドも まだまだ これからやで」



「ボクたちが協力すれば

ざっと こんなもんさ

これからも このギルメンで やっていけるさ」



「わたしは 武者修行として
このギルド(組(くみ))に所属してる…

敵に打ち勝ち 強くなること

あと 旨(うま)い酒が呑めると嬉(うれ)しい…」



ギルメン達が 次々と言葉を述べる



「美夜子(みゃこ) 締(し)めて…」



「美夜子(みゃこ)ちゃん

頼むで〜」



「ギルマス 早く!」



「組長… 」



セイナ…パン王…キルッシュ…夜飛(よぴ)……
4人の視線が ワタシに注がれる……


ワタシは 手にしたグラスから立ち上(のぼ)る
発酵した果実の芳醇(ほうじゅん)な香りを
少し楽しむ…

そして 話し始めた…



「先代の“そら″から
引き継いだ“君の物語″………

このギルドと同じく
まだまだ弱くて 頼りないワタシだけど ついてきてくれて みんな ありがとう……

…………

これからの“君の物語″に……

乾杯!」



「「「「乾杯!!!!」」」」



ワタシ達は 高く掲(かか)げたグラスを 軽く合わせる

それは 涼しげな音色を奏(かな)でた……

それが ささやかなパーティーの始まりの合図

ワタシは グラスを空け
室内(あたり)を見回す……

ギルメン達は 思い思いに酒を呑み 話し
食事を始めていた……



……いいものだな

共に戦う仲間たちと
モンスターに勝利し
酒を呑み
テーブルを囲む………

…………!

…そう…か…

……こ…んな……

………部…屋………

………を

ワタ…シ…は………

………

………………

……………………

ん……ぅ…ん……

……ぅ…うぅん!?

身体を揺さぶられている事に ワタシは気がついた

目を開くと 御者台(ぎょしゃだい)に居たはずのアラビーヌが
ワタシを揺(ゆ)さぶっているのが見えた……



「キミ! キミ!

大丈夫?」


荷台に横たわるワタシを
心配げに パートナーが
覗(のぞ)きこんでいる…



「……あっ?

……あぁ……

そうか……

共和国(マーロ)に
到着(つ)いたんだな……」



少し ぼんやりする頭で
考える
……到着(つ)いたら起こしてもらうよう 頼んでいたな

そういえば………


ワタシは アラビーヌに
礼を言うと パートナーと共に
牛車を降りた

ワタシ達が降りるのを
見届けると
アラビーヌは 御者台に戻り 次の客が来るのを待つ……



……………


草地に降りた ワタシは 周囲(あたり)を見回す……

濃い紺色の空に 白い入道雲が力強く立ち上(のぼ)り
強い日射しが 足下(あしもとに)に 深く 広く 茂(しげ)った草に
照りつけ 暑い空気が立ち上る……

少し離れたところに
まだ動く水車が回り 冷たい水を 汲(く)み上げ 眼と身体に
凉(りょう)を与えてくれる……


遠浅(とおあさ)の砂浜にはアクアマリン色の海が満ち
寄せては返す波が
白い砂を洗い 心地よい波音を奏(かな)で
吹きわたる風が涼(すず)しさを運ぶ……


“実り多き半島″……

そこは マーロ共和国の入り口に位置し 牛車乗り場の始発所……

何処(どこ)までも明るく
広々とした この景色
ワタシは好きなのだ………


ドレッサーから出した 共和国(マーロ)服に着替え ワタシ逹は波打ち際を歩(ある)く

暑い日差しのなか
足元(あしもと)に打ち寄せる波が冷たくて心地よい



「見て キミ!

これ!!」



パートナーの 紫色に染めた共和国の白い袖口から覗(のぞ)く ちいさな手に
サンゴのかけらが光っている


「こちらには ヤドカリの殻が あった………」



ワタシも赤い共和国(マーロ)服姿(すがた)で採取する



「きれいだね」



「あぁ…そうだな……」



ふと見上げた

ワタシの暗緑色(ダークグリーン)の瞳が

遠くの深く青い海に吸い寄せられる

………!!


海の青さと 雲の白さが交わる
遠く遠い水平線……

そこを航行(ゆ)く
1艘(いっそう)の船を
ワタシは見た気がした


……………………………



「どうしたの?キミ…

何か悲しいことでも あったの?」



「えっ? なにが……」



「泣いてるよ…

キミ…」



「!!………」



パートナーに指摘(してき)され
ワタシは 頬(ほお)に涙が 伝(つた)っていることに気がついた……



「…………………………

……なんだろう……

…悲しいような……

懐(なつ)かしいような…

………切(せつ)ない

この気持ちは……」



心地よさと喪失(そうしつ)感が いりまじったような……

胸の奥にワタシは
にぶい痛みを感じていた…


「う〜〜ん

なんだろう?

わたしには わからないな

…………………………

キミが 何か つよく ココロに

感じたんじゃないかな………」



「……強く 心に感じた…こと………か」



「寝てるときに 見ていた夢…とか?」



「……夢………か

覚えてないな……」



「そっか……

……………………

かえろうか?

わたしたちのへやに…」



「……そうだな

わたしたちのへや……

部屋………

………!

そうだ 部屋!!

あの建物の内装を…
味気(あじけ)ない 石造りの壁を 変えよう

色は……

そうだな
赤と白のブロック………

アクセントに
ステンドグラス・ブロックも置いて………

それから………」



「ふふっ

そうだね ひといき ついたら

ハウジングの続き しようか?」




「そうだな……そうしよう………

あの作りかけの屋敷は
喫茶店風に……

少しずつ改築して……

憩(いこ)える場所に……

できるだろうか?

……ワタシに」



「できるよ わたしたち ふたりなら

きっと!」



「……そうだな ワタシ達 二人なら…」



白い砂浜を後(あと)に
ワタシ達は マーロ共和国内にある ワタシ達の屋敷を目指し
アクアマリン色の海に架(か)かる質素な木板の桟橋(さんばし)を渡る……

その足が軽いことを ワタシは感じていた

あれこれ 悩んでいた家屋改築(ハウジング)に目処(めど)が ついたのだ


方向性が決まれば ハウジングを進める事ができる…
迷ったら 出かける事
そこから
何か得るモノもある……

そんなことを ワタシは感じていた…………




ある冒険者のひとりごと……30・5ヤーレン騒乱文化祭より〜絵画〜から…牛車内での夢(別案)〜終わり〜
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