ひっっっさしぶりにKnightのSSをかきました。
診断メーカーのお題に頼りましたが!
ルカとシストメインのお話です。
診断結果は以下のとおり。
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ルカとシストのお話は
「意図せず漏れた溜息に、傍らのその人が顔を上げた」で始まり「貴方があんまり楽しそうに笑うからついつられてしまった」で終わります
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では追記からお話をどうぞ!
意図せず漏れた溜息に、傍らのその人が顔を上げた。
「どうした?シスト」
具合でも悪いのかと問われて、首を振る。
実際、具合が悪いわけではない。
ほんの少しだけ、気分が落ち込むだけだ。
夏の暑さは和らいで、穏やかな秋の空気が満ちてきた。
氷属性魔術使いの俺たちにとっては過ごしやすい季節。
魔術の発動に苦労することも、普段どおりのトレーニングで汗だくになって身動きが取れなくなることもなくなってきた。
眼前の統率官は、そんな季節の変化の影響を受けない……魔力を持たない人間だから、そんなことは知らないかもしれないけれど、彼が率いる部隊の騎士の大半は、この穏やかで涼しい気候を、季節を好んでいた。
俺も、元々はこの季節が好きだった。
柔らかい枯れ葉の匂いも、朝晩の少し冷えた空気で鼻が冷たくなる感覚も。
否、正確に言えば、今も好きではある。
ただ……それと同時に、切なくなるだけだ。
この季節は、秋は、どうしても辛いことを思い出してしまう。
彼奴がこの世から居なくなったのは、穏やかな秋の日だったから。
どうしても……思い出してしまうんだ。
こんな、穏やかな秋の日の中に、彼奴が居ないことを切ないと、悲しいと思ってしまうんだ。
けれど、そんなことを言うのは少し気恥ずかしくて。
「少し、疲れただけだよ」
そう誤魔化して、伸びをする。
その言葉も決して嘘ではない。
彼……ルカの手伝いで散々書類の整理をしていたものだから、頭も手も目も疲れた。
そんな俺の言葉に、ルカは少しすまなそうに頭をかいた。
そして、小さく笑って、いう。
「だいぶ長く付き合わせたもんなあ」
悪い悪い、と言って彼は椅子から立ち上がる。
そして、備え付けのキッチンに向かった。
「少し休憩しよう」
何か飲み物でもいれるよ。
そう言って笑うルカに、俺はいう。
「休憩ってことはまだ付き合わせるつもりだな?」
冗談ぽくそういうと、ルカはにっと笑う。
「最後まで付き合ってくれよ」
この際なんだから、というのは彼が言っていいことではないと思うのだが……まぁ、よしとしよう。
そう思って笑うと、俺も彼のいる方へ行こうとした。
「仕方ないな、付き合ってやるよ。
飲み物いれるの手伝うか?」
「いや、そんくらいは俺にさせてくれ」
せめてそれくらいはな、とルカは笑う。
まぁそれなら、と軽く伸びをして近くのソファに腰を下ろした。
統率官の部屋は俺たちの部屋より少し広い。
リーダー権限だ、なんてルカは言っているけれど、彼がリーダーらしく振る舞っているところはあまり見ない。
そりゃ、真剣な任務の時なんかは話が別だが……普段彼がリーダーぶることは、滅多にない。
だからこそ、彼を様付けで呼んだり、謙る騎士は決して多くなかったりもして。
「コーヒーでいいか?」
そう問われて、頷く。
俺はあまり甘いものは好きではないし、ルカも同じくだ。
だから聞くまでもなくそれを用意すると思ったのだけれど。
「そういやさ」
ふと思い出したように、ルカは言葉を紡ぐ。
「昔、エルドにもこうやって仕事手伝ってもらったことがあってさ」
唐突に出てきたかつての相棒の名前にほんの少しだけ、動揺する。
俺が先刻溜息を吐いた原因。
その名前に。
「……そんなこともあったのか」
平静を装って、相槌を打つ。
ああ、と頷いたルカはコーヒーを用意しながら、言葉を続けた。
「彼奴はシストほど器用じゃなかったけど、それでもよく手伝ってくれてたよ。
それで、その時もこうやって飲み物を用意したんだけどな?」
懐かしげに、ルカが紅の瞳を細める。
彼がこんなふうに思い出話を、それも……エルの話をするのは珍しくて、俺は黙ったまま言葉の続きを待った。
「コーヒーでいいよな、っていつもの癖で聞いたんだ。
そしたら、彼奴もさっきのシストみたいに頷いてさ。
だから俺は普通にコーヒーを用意したわけだけど」
こんなふうに。
そう言いながら、ルカは俺と彼の前にカップを置く。
礼を言って、そのままコーヒーに口をつけた。
ルカはそれを見つめて、笑う。
「あの時の彼奴も今のお前と全く同じ行動をとったんだよ。
……でもなあ」
そこで一度言葉を切ったルカは当時を思い出すように目を細めた。
「エルドのやつ、思いっきり咳き込んでな?
どうしたんだらって聞いたらさ」
―― 苦いの苦手なんだよ……!
涙目で咳き込みながら、彼奴はそう言ったらしい。
「いや、言えばよかっただろ!って思ってさ。
別にミルクも砂糖もあったし、コーヒーダメなら紅茶でもなんでもいれたのに」
「そう言ってやらなかったのか?」
「言ったさ、そしたらさ」
―― 格好つかない!だろ?
そう彼は、拗ねた顔で言ったらしい。
「そのときの顔のおかしいのなんのって」
それを思い出して、笑っちまった。
そう言って、ルカはくつくつと笑う。
想像はつく。
案外子供っぽい味覚だったエルドは苦いものを確かに苦手にしていた。
コーヒーを飲む時も確かに砂糖やミルクを入れていたっけ。
他のものを飲めばいいのに、と言ったときの反応は確かに、ルカが見たものと同じだったはずだ。
「変なとこプライド高かったからなあ」
「格好つけっていうかな」
そう言って、ルカは笑う。
懐かしむように、楽しむように。
……嗚呼、幾ら統率官らしくないとは言っても、此奴は歴とした統率官だ、と思う。
だって、こんな他愛もない話をいきなりしだしたのはきっと、俺を元気付けるため。
……かなり不器用で無理やりな話題ではあったけれど、ほら。
彼があんまり楽しそうに笑うからついつられてしまった。
―― 懐かしい記憶 ――
(話を聞いただけでも頭に浮かぶ、彼奴の表情)
(そんな穏やかな記憶を呼び起こしたのはいつぶりだろう?)