やはり自分はこういう仕事のほうが慣れているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ラヴェントはまな板の上の野菜を刻む。
トントントン、とリズムよく刻まれる食材。
火にかけられた鍋はことことと音を立て、良い匂いを漂わせている。
ちょうど良い時間に夕食の支度が終わるだろう。
そう思いながら、ふうっと息を吐く。
そして……
「……あんまりつまみ食いすると夕飯の分が減るぞ」
ラヴェントはそう指摘して、苦笑する。
彼の視線の先には、できた夕食のおかず……揚げたてのから揚げをつまみ食いしている恋人の姿があって。
「んむ……それは、困るな」
もぐもぐと口に入れたものを飲み込んで、チェーザレは言う。
ぺろりと指先についた油を舐める姿さえ絵になる悩ましさだ。
苦笑交じりにそんなことを考えて、ラヴェントは付け合わせのサラダを皿に盛りつけた。
「ほら、つまみ食いばっかしてないで手伝ってくれ、冷める前に食べたいだろ?」
はい、とラヴェントはチェーザレに各々の取り皿を渡す。
唇を尖らせたチェーザレはそれを受け取ると、ダイニングに歩いていく。
やれやれ、と肩を竦めるラヴェントの傍で、くすくすと笑い声。
そちらへ視線を向ければ、おかしそうに笑う同居人の一人……ミケーレの姿があった。
「チェーザレに皿運びさせられる人間はそういないと思うっすよ、旦那」
ミケーレの言葉に、ラヴェントは幾度か茶の瞳を瞬かせた。
そして小さく肩を竦める。
「まぁそりゃあそうだろうなあ」
先刻ラヴェントが皿運びを手伝わせたチェーザレは、普通ならばこんな小さな家(そうはいっても同居人が多少増えても問題ない程度の広さはあるが)で暮らしているような人間ではない。
食事の準備を手伝わされる、などということもないだろう。
「でも、今は今、だからな」
はい、とラヴェントはミケーレにも完成した料理の皿を渡す。
働かざるもの食うべからずだぞ、と笑う家主を見て、ミケーレはくすっと笑った。
「ほんと、旦那はその姿が良く似合う」
からかい半分、半分は本気で彼は言う。
目の前にいる青年は警察の一局長。
部下を率いて世の治安を守る存在。
それはミケーレもよく知っている。
しかし、だ。
普段剣や拳銃を握っているその手は、お玉やらフライパンやらを握っているほうがよく似合う。
馬に乗り駆ける姿も様にはなっているが、それよりもキッチンに立ち、エプロンをつけて料理をする姿のほうがよく似合っている。
そう思わずにはいられない。
ミケーレの言葉にラヴェントは一瞬すねたような顔をしたが、すぐにへにゃりと笑う。
「……反論したいところだけど俺自身さっき同じこと考えたからな」
否定できん。
そう言って肩を竦めるラヴェントを見てミケーレは一層笑みを濃くする。
「遅いぞミケロット、ラヴェント」
皿を運び終えたらしいチェーザレが戻ってきて、そう声をかけてくる。
少しすねたような声音。
それを聞いてミケーレは軽く肩を竦める。
「はいはい、いまいきますよっと」
そう言ってミケーレも歩いていく。
ラヴェントはそれを見て小さく笑った。
―― まぁ、同じような仕事といえば、そうなのかな。
ラヴェントはそう思いながら、茶の瞳を細める。
そして残りの料理を仕上げてしまおう、と軽く腕まくりをしたのだった。
―― 似合う姿は… ――
(普段は国の平穏を守るために)
(そして今は、この居心地の良い場所のために俺は動いているのかもしれないなあ、なんて)