無彩色極彩色コラボ前提でフォルとノアのSSです。
このペアでの話が何だかんだで楽しいのですよね…←
いろんな面でノアにアドバイスいれるフォルですが、
ノアはなかなか素直に聞かなさそうだなぁ、と…
フランコさんのことが好きで、大切なのになかなか態度に表せなくてあせるタイプっぽい←おい
あと、たぶんノアさんキスってもんを満足にしたことないんじゃないかとふと思いました(謎テンション)
こういうアイテムネタ(今回は二人のリボンですね)が好きでよくやりたくなります←
なんだかぐだぐだな解説になりましたが…
ともあれ、追記からお話です !
「ん……」
小さく声を漏らして、黒髪の青年は目を開けた。
ベッドの上に体を起こして、少し乱れた髪を手櫛で直す。
ふぅ、と息を吐き出して、彼……ノアールは軽く体をほぐした。
一人きりの部屋。
なれたはずの空間だが、少し物足りなく感じるのは……
眠りにつく少し前まで一緒に過ごしていた人間がいるからだろう。
最近ともに過ごすことが多くなった"彼"はとても賑やかで、
一緒にいて静かになる、ということがあまりないのだ。
流石に、ずっと部屋にとどまるのは彼にとっても迷惑かと思って、
彼も眠る時間に自分は自分の住処へ帰っているのだが……
一緒にいた間の賑やかさが頭に残っている分、この静寂が冷たく感じる。
シンと静まり返ったその部屋を見渡して、ノアールは小さく息を吐き出す。
時計を見るに、夜はとっくに明けていた。
完全に夜型の生活をしているあげく起こす人間がいないために,
寝坊するときにはとことん寝坊してしまう。
この生活も何とかしなくてはいけないな、と思った……
その時。
「漸く起きた、ノアール」
聞こえた声にノアールは驚いて目を丸くした。
彼がこうして表情を変えることは珍しい。
驚いたままにその声の方へ顔を向ければ、
少し呆れた顔をしている亜麻色の髪の青年と目があった。
ベッドサイドにたって自分を見つめている彼を見て、ノアールは声をあげた。
「主……」
「というか、こうしてわざわざ此処に帰ってきてるんだね。
もう、向こうにいればいいのにさ」
向こう、が何処を示しているかわからないほどノアールは鈍くない。
しかし、気づかないふりをして流した。
「……主、いつの間に此方へ?」
「三十分くらい前。君と違って寝起きはいいもの。
書記長様に迷惑かけられないしねぇ……
彼は今日もお仕事だし」
そういいながら、亜麻色の髪の彼……フォルは小さく首をかしげる。
そして質問から逃げようとした彼にいった。
「君は、そうして過ごしたいとは思わないの?
目が覚めた時隣に好きなヒトがいるのって、結構幸せだよ?」
「それは、主の体験談ですか。
別に、……私は、此処で、一人で構わな……」
そういいかけたノアールの口をフォルは掌で塞ぐ。
ノアールは驚いて目を丸くしたまま固まった。
フォルは溜め息を吐き出して、彼に言う。
「そういう強がりいっちゃうの?
僕が此処に戻ってこなくなったら、やたら寂しそうだったのに?」
「…………」
フォルの言葉にノアールは固まる。
答えることは出来なかった。
寂しい、とは少し違うが……
音のないこの空間に少し物足りなさを感じるようになったのは、
確かにフォルが自分の想い人の元にとどまるようになってからだ。
フォルはそれを見抜いて、言うのだ。
君も、そういう人のところにいればいいじゃないか、と。
一人で此処にいる必要は決してないのだ、と。
「だから言ったじゃない。他に一緒にいたい人はいないの、って」
「…………」
「その子と一緒に寝起き出来るようにしちゃえばいいのになぁ、って。
その時から、君がその子の事考えてるのは僕気づいてたけどね」
くすくす、とフォルは笑う。
やはりこの人には敵わないな……
ノアールはそう思いながら溜め息を吐き出した。
「長く一緒にいると、私が黙り込んでしまう分、
相手に気を使わせている気がしてならないのですよ。
朝起きてそうそうに私の仏頂面を見たところで面白くもなんともないでしょう」
「ふぅん。でも、君が無口なのは最初からその子もわかってるんじゃない?
それか……君が、心を許した人間にならばある程度話すことに気づいてるか」
フォルはまっすぐにノアールを見つめ、言う。
ノアールは視線をさまよわせてから、いった。
「……それはそう、かもしれませんが……
負担をかけているかもしれないというのも、事実です」
それは嫌だから、とノアールは呟くように言う。
自分らしくない台詞に思わず顔をしかめるが……
口に出しても出さなくても、どうせ目の前の彼にはばれる。
「素直にならないから悪いんだって。
素直になって、一杯しゃべればいいんだよ。
色々話してみればいいのに。
……ま、ノアが素直になることがあるはずがないか」
素直になる方法知らなさそうだしねぇ、といってフォルは笑った。
そのまま、優しくノアールの頬を撫でる。
「もう少し、その子に重荷を預けてみたら?案外助けてくれるんじゃない?
……君は、もう少し幸せになっていいと思うよ僕」
幼い頃からずっと苦労してきて。
人を愛する術を知らず、人に愛される術を知らず……
一人孤独に生きてきた彼。
自分だって途中までは同じだったけれど、今は違う。
一人じゃないと、そう思っている。
愛しい人が、失いたくない居場所が出来たから。
そうして、自分は"一人"を脱した。
だから逆に、彼を一人で取り残してしまったことにたいして、
少なからず罪悪感に近いものをフォルなりに抱いているらしい。
もっとも、それを顔に出したりすることはなく、
ノアールにはあくまで冗談っぽくそういっただけなのだけれど。
「……そうですか」
フォルの口から幸せに、という言葉が出てきた事に少し驚きながらノアールは呟く。
フォルはにこりと微笑んで、ポケットから何かを取り出した。
そしてそれをノアールの首に巻き付けて、結ぶ。
その間もノアールは驚いた顔こそすれど、
暴れたり逃げたり怯えたりすることはなかった。
本当に忠実な子だな……そう思いながら、フォルはそれを終えて離れる。
ノアールは不思議そうにフォルに結ばれたそれに触れた。
ほどいていいよ、と彼に言われてほどいて……目を丸くする。
フォルはそんな彼に、いった。
「あげる、それ」
「え……」
首に巻き付けられたのは、黒いリボンだった。
ノアールがネクタイがわりに巻いている黒いリボンと同じ……
「あ、僕のじゃないよ。僕のは僕ので持ってるから」
ほら、とフォルはもう一方のポケットからリボンを取り出す。
どうやら、それとはまた別のリボンらしい。
彼の行動の意味が理解できず、ノアールは困惑気味に彼を見た。
「主……?」
「あげたらいいんじゃない?彼に」
「……どうやって」
困惑したように、ノアールは言う。
あげればいい、と簡単に言うが……どうやって渡せばよいのだろう、と。
フォルはそんな彼の反応に苦笑した。
「どうやって、って……それは、君が考えないと。
どうぞ、って普通にあげてもいいだろうし、
お前は俺のものだ、っていって首にでもつけてあげてもいいし」
「ふ……主ではあるまい」
後者の方法は自分のキャラじゃない、とノアールが言うと、
フォルはおかしそうに笑う。
「あれ?君も同じかなって思ったんだけど。
僕、自分の所有品(モノ)には印つけときたいタイプだからね。
このリボンも、そのうちだよ」
操り人形たちに与えたリボンも、ノアールに与えたリボンも。
フォルはそういって、笑う。
「君もそうだよ?僕のだもの」
「……光栄です」
襟に巻いたリボンに触れて、ノアールはそういう。
フォルは彼の反応に満足そうに笑うと、首をかしげて、訊ねた。
「それで?どうやって渡すか、決めた?」
「……考えて、おきます」
「まったくぅ……君は不器用そうだから、相手が大変そう。
挙げ句、君のことだから僕のこと優先しそうだしねぇ」
「それは当然でしょう。主は、主です」
ノアールはきっぱりと、そう答えた。
自分にとって貴方が大切なのに違いはない。
だから、もし貴方と"彼"を比べたら、自分は貴方をとりますよ、と。
その言葉にフォルは少しだけ、複雑そうな顔をした。
けれどすぐにいつも通りの笑顔に戻って、言う。
「ふぅん……
そっか。まぁ、それならそれで嬉しいけどね」
そういいつつ、フォルは時計に目をやる。
そして"そろそろいったら?"と声をかけた。
まだ、フォルは待ち人が任務中のために此処に残るという。
ノアールは少し躊躇ってから小さく頷いて、廃墟を出ていく。
その黒い影を見送って、フォルは小さく溜め息を漏らした。
「時間の問題だろうなぁ……
僕より"彼"をあのこが選ぶようになるまで。
……いや、精神的にはとっくに、そうなってるか」
先程はあんなことをいっていたノアールだけど、とフォルは呟く。
きっといざとなったら彼は自分ではなくて、"彼"を選ぶだろう。
フォルの中でははっきりと、そう答えが出ていた。
それが嬉しいやら寂しいやら、とフォルは呟く。
そして、自分で手に持っているリボンにそっとキスをおとした。
「まぁ……彼が望んでも望まなくても、僕と彼の運命は同一……
僕が死ねば彼も死ぬ。僕は彼の操り師だからね」
ノアールはフォルの操り人形。
フォルの魔力が尽きれば、糸が切れた操り人形のように動かなくなる。
それが、彼の二度目の死だ。
出来ることならばその因果を切ってやりたいのだけれど、
こればかりはフォルでもどうすることもできない。
せいぜい僕が長生きしてあげないとね、等と冗談っぽく呟いて、
フォルはノアールが寝ていたベッドに寝転がった。
彼の体温がまだ少し、のこっていて暖かい。
近いうちに、自分の大切な忠臣の"支え"に会いにいってみようか、と思う。
彼の過去を聞き、彼の傷を見てもなお、
傍にいるから、支えるからと答えたらしい、赤髪の少年のもとに……
「その時までにリボン渡してなかったら、罰ゲームだな……
ファーストキス奪っちゃおうかな」
くす、と悪戯に笑って、フォルは小さく呟いたのだった。
―― マリオネットと操り師 ――
(君の糸を僕が切ることは出来ないから
君が少しでもうまく踊れるように僕が導いてあげよう)
(ほら、少しだけ素直になってごらん
それだけできっと君の世界は少しだけ良くなるから)