裏ですので閲覧にはご注意下さい。リク詳細は追記で。





天然、という言葉がある。


人の性格を指して言う場合、大抵はあまり好意的に使われることはない。
それは酷くマイペースだったり、或いは無垢であるが故の勘違いであったり、何にせよ場の雰囲気を読まない行動を取る人物をしてそう評する事が多い。

そういった意味では、彼を『天然』と呼ぶのは相応しくないかもしれない。
彼は周囲の人物の事によく気がつく性質だし、何か悩みを抱えていそうだと思えばさりげなくそれを手助けした。
決して踏み込み過ぎることなく、最終的には自分自身で答えを出せるように導いてくれるのだ。
そんな彼の行動に、仲間達は皆それぞれ救われている部分があった。

だが、それだけ人の感情の機微に聡いというのに、何故か自分自身が周りからどう思われているかといった事にはひどく無頓着だった。

それは、他人からどう思われようとも自らの意思を貫き通す強さとは別の部分においても同様で、自分自身の魅力だとか、向けられる好意だとか、そういったものに対しての鈍感さといったら、もしかしたらわざと気付かないフリをしているのではないかと思う場合すらあるほどだった。

気を許されているのだと思えば嬉しかったが、時にはそれが耐え難い衝動を生むという事が何故分からないのか。
だから、彼もある意味『天然』なのだと思う。
しかもそれは決して和むものではなく、今となっては凶悪なまでに自分の感情を掻き乱すだけだった。


狭いテントの中、自分に身を寄せるようにして眠るユーリの寝顔を見つめながら、フレンは小さく溜め息を吐いていた。

額にかかる髪をそっと払い上げ、その場所にキスをした。唇を離し、そのまま視線を落とすと伏せられた長い睫毛と夜目にも白い頬が映る。掌で頬を包み、親指の腹で軽く撫でるようにすると僅かに眉を顰めるが、すぐに元の様子に戻って規則正しい寝息が聞こえてくる。

いつの頃からか、フレンは自分がユーリに対して恋愛感情を抱いている事に気が付いた。それまでは自然に出来ていた触れ合いが、今では苦痛でしかない。ユーリが触れてくる度、その顔が間近に迫る度、『それ以上』を求めてしまう自分を必死で抑えて平静を装うが、やはりユーリはそんなフレンの様子に疑念を抱いているようだった。

きっとユーリは、原因が自分にあるなんて思いもしないだろう。仮に思ったとして、まさか性的欲求の対象にされているだなんてそれこそ想像もしないに違いない。

ユーリから身体を離して、またひとつ溜め息が零れた。背を向けて目を閉じても、一向に眠気はやって来なかった。



そんな事が続いたある日、ユーリがフレンに声を掛けた。


「フレン、ちょっといいか」

「何だい?」

「おまえ、最近ちゃんと眠れてるか」

「…どうして」

腰に帯びた鞘に剣を収めながら聞き返すフレンに、ユーリの表情は厳しいものになる。

「気付かねえとでも思ってんのか?動きにキレはないわ反応は鈍いわ…」

それはきっと、ユーリにしか分からないほんの僅かな違い。それに気付いて何故、と思うとフレンの声も知らず低くなる。

「気のせいじゃないのか」

「いいや違う。それに何だよその隈は。絶対眠れてねえだろ。…なあ、なんか悩みがあるなら話してみろよ」

「悩み…」

いっそ話してしまおうか。
解決してもしなくても、そろそろ限界かもしれない。だが今ここでそれを正直に言ったところで、ユーリが応じるとも思えなかった。

だから、嘘をついた。

ユーリの優しさに付け込んで、騙してでも手に入れたい。加速した感情は止まらなかった。
口元に浮かんだ笑みを、ユーリはどう解釈したのか。


「…君には敵わないな」

「お、何だ?話す気になったか」

「そうだね。聞いてもらいたい事がある。…相談に乗ってもらいたい、のほうが合ってるかな。でも…」

視線のすぐ先には、仲間達の姿がある。

「……部屋割り、確認してくるわ」

そう言ってユーリは仲間の元へ戻って行った。今日の宿で、自分とフレンを二人にしてくれと頼むつもりなのだろう。
どこまでも気の付く事だと思いながら、フレンは何ごとか話しているユーリの背中をじっと見つめていた。





その晩フレンが語った『悩み事』に、ユーリはその瞳がこぼれ落ちんばかりに目を見開いて驚いた。それと同時に少しばかりの呆れと同情を覚え、何を言ってやれば良いか分からずにベッドに腰掛けたまま天井を仰いでいた。


好きな人がいる。


その人の事を考えると何も手に付かない。
想いを告げた訳ではないし、相手は自分の気持ちに気付いていない。だが想いは日増しに強くなるばかりで心身ともに辛いのだ、とフレンは言う。

告白するだけしたらどうだ、とユーリが言うと、フレンはゆっくりと首を振った。恐らく受け入れてもらえない、と悲しげに微笑まれて、ユーリも黙ってしまった。

「どうしても駄目なのか?その…おまえが好きな奴は」

「…多分」

「分かんねえなあ、おまえに言い寄られて断る女なんていないと思うが」

そんな事はない、と言っても、ユーリは信じない。とりあえず玉砕覚悟でぶつかってみろとまで言われ、フレンは自嘲気味に笑い返した。

「…だったらユーリ、僕の練習相手になってくれないか」

「………はあっ!?」

「君のほうが経験豊富そうだし、僕の『告白』の仕方がどうなのか教えて欲しい」

「い…いや、それ…何の意味もねえだろ!」

「意味ならあるよ。自分では気付かずにおかしな事を言うかも知れないし。だから予行練習がしたい」

真剣な眼差しでユーリを見れば、狼狽えた様子であちこち視線を彷徨わすさまが普段の彼らしくなく、思わず笑ってしまった。それを見たユーリが一気に不機嫌になるのが分かる。

「…何笑ってんだ。大体、オレは男だ。女とは受け取り方が違うだろ。ヤローの意見なんて参考にならねえと思うぜ」

「大丈夫だよ」

何が、と言ってますます眉を顰めるユーリの隣に座ったフレンは、ユーリの顔を覗き込むようにして言った。


「僕が好きなのは女の人じゃないから」


だからいいよね、と言うと今度こそ言葉を失ったユーリの肩に手を置く。面白いぐらいに跳ね上がったその肩を押さえて微笑むと、ユーリの身体に力が入るのが分かって、フレンは全身が熱くなるのを感じていた。


「君が好きだよ」


ユーリの肩を掴んだまま、真正面から見つめて言う。

好きだ。好きです。ずっと好きだった。

何度も繰り返し囁くと、その度にユーリはそれに対して『う、』とか『あ、』とか言いながら、フレンから逃れるように身を捩る。

逃げないで。こっちを向いて。僕を見て。

耳元に口を寄せてさらに囁いたら、とうとうユーリが声を上げた。

「や、やめろ……!!」

尚も耳元でフレンが言う。

「どうして?…僕の事、嫌い?」

「ひっ…」

息がかかって擽ったかったのか、ユーリが顔を逸らす。目の前に曝け出された白い首筋に唇をつけて軽く吸うと、上擦った悲鳴のような声を上げつつユーリは自分の肩を掴むフレンの両腕を強く握り締めながら押し返そうとした。

「やめろって言ってんだろ!!」

顔を戻すと、フレンは首を傾げて見せた。

「だから、どうして」

「どうして、っておま…!」

「何かおかしかったかな。僕は真面目に告白したんだけど」

「何かって、いきなりすぎんだろ!?いや、そ、そうじゃなくて…!」

「嫌だった?こんな告白じゃ…受け入れられないかな」

「は!?それは…その、オレに分かる訳ねえだろ!!」

耳まで真っ赤になって怒鳴るユーリの肩を思い切り引き寄せ、腰と背中に素早く腕を回す。強く抱き締めて髪に顔を埋めると、苦しそうな呻き声がフレンの耳を掠めた。


「好きなんだ…。ずっとこうしたかった」


熱を帯びたフレンの『告白』に、ユーリは混乱していた。最早練習なのか何なのか分からない。
フレンが見ているのは誰なのか。自分を誰かの代わりとして練習をしているにしてはあまりにもおかしい。
そもそも告白の練習だけならまだしも、触れたり抱き締めたりというのは本当に好きな相手にのみする事ではないのか。
自分にこんな事をして何になる。それとも、もしかして自分と似ているとか?

ぐるぐると混乱する頭であれこれ考えていたら、またしても耳元に囁いてくるフレンの声に一瞬力が抜けた。

「…ユーリ、何、考えてるんだ」

「うぁ…!」

耳の奥に直接湿った音が響いて、舌を入れられたのだと気付いた。

「こういうの、どう?気持ちいい…?」

「ひ……!ぁ、やめっ…!!」

気持ちいいんだね、と言いながら更に舌で舐め回し、ぴちゃぴちゃと音がする度にユーリの腰がびくびくと揺れる。堪らずそのままベッドに押し倒して自分の腰をユーリに強く押し付けると、さすがにユーリが顔色を変えた。
本気で焦って『やめろ』と繰り返すが、フレンはもう止めるつもりはなかった。

はだけた衣服の胸元に手を滑らせて中の突起をきゅ、と摘み、腰を浮かせてもう片方の手でユーリの下半身に触れた時、フレンの頭をユーリの左手が横から殴りつけた。

「やめろって言ってんのが分からねえのか!?おまえ、何考えてんだ!!」

「痛いな…殴る事ないだろ」

フレンの剣呑な眼差しに一瞬怯むが、ユーリもフレンを睨みながら言う。

「何が練習だ!!オレにこんな事してどうすんだよ!!するならその相手にしやがれ!!」

「わかってないな、だから練習なんじゃないか」

フレンが鼻をユーリの頬に擦り寄せた。

「自信がないんだ、僕は」

「は…」

「だからユーリ、気持ち良かったら教えてくれ。ユーリに気持ち良くなってもらえたら、自信が付く」

「ふざけ……っ、んンッッ!!」

唇を塞がれて抗議の手段の一つを奪われたユーリが激しく抵抗する。引き剥がそうと頭を掴む両手を払い除け、背中に腕を回して手先で器用に腰帯を解き、ズボンの中にもう一方の手を入れた時、ユーリの腰が引き攣るようにのけ反った。
手の中に感じる『熱』が堪らなく嬉しくてそのまま激しく擦り上げたら、それだけでユーリは呆気なく達してしまった。

唇を塞がれたま声を上げる事も出来ず、鼻から抜ける息や激しく上下する胸元、きつく瞑った目尻から流れる涙まで全て苦しげだが、唇を離したフレンは敢えてユーリの耳元に尋ねた。


「ユーリ、気持ち良かった…?」

「ぅ……ん、な訳、あるか…!!」

「そう?じゃあ」

もっと練習が必要だね


ユーリの口から漏れた小さな悲鳴は再び塞がれて全て発せられる事はなかった。




ユーリ、ユーリと繰り返し名前を呼ばれながら有り得ない場所にフレンの熱を穿たれ、突き上げられて朦朧とする意識の中、何故こんな事になっているのか、とぼんやり考えていた。


好きな奴がいるんじゃなかったのか?

どうしてフレンはオレの名前ばかり呼ぶんだ?


本命と事に及ぶ自信をつける為に自分を練習台にして、それで何故その相手の名前を呼ばないのだろうか。

「ひぃっ……あ、アぁッッ!!」

「ん…っ、ユーリ、ここ…気持ち、いい…?」


何度か突かれているうち、『感じる』場所を発見されてしまった。執拗にそこを責め立てられて、意識が飛びそうになる。

「ユーリ、教えて」

「うァ、っあぁ!!」

「ユーリ…!」

ぐり、と強く擦られて堪える事が出来ず、ユーリは叫ぶようにしてフレンに応えていた。

「や、うあァッ!?イ…っ!きもち、い…ィ、から……っンああぁ!!」

だからもう、やめてくれ。

そう思っているのに、ユーリを見つめるフレンはそれが分からないのか、全く動きを止める気配がない。

気持ちいいから、だからもう大丈夫だと言ってやればいいのか。

身体の奥に熱いものを注ぎ込まれて痙攣するユーリをフレンが強く抱き締めた。

「ぅ…あ、ふれ……」

「ユーリ…」


大好きだよ、ユーリ


意識を失う直前に聞いたのは自分の名前。


(………違う、よな……)



「……ごめん……」



泣きそうな顔のフレンに手を伸ばそうとしたが、届いたかどうかわからなかった。




ーーーーー
終わり
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