8/6 18:55拍手コメントよりリクエスト。リク詳細は追記にて。







「ユーリとフレンは、どうしてそんなに仲がいいんです?」


もう何度目か知れないその質問に、フレンは青空の色をした瞳をぱちくりと瞬かせ、ユーリは宵闇の色をした瞳を伏せて溜め息を吐き出した。

どうも、自分達は他人から見ると普通の幼馴染みや友人と言った関係には見えないらしい。

二人とも早くに親を亡くし、寄り添うようにしてなんとか命を繋いできた。
周りの大人達も優しかったし、仲の良い友人なら他にもいた。
だが、確かにユーリとフレンにとって、お互いの存在というものは特別であるように思う。
二人はその外見的特徴だけではなく物腰や性格まで正反対で、何故そんな二人が互いに命を預ける事が出来る程の信頼関係を築いているのか、本当に理解できる者は少ないだろう。

何せ、当の本人達ですらはっきりとした説明はできないのだ。

フレンはそれでもあれこれと思い付く限りの理由を挙げて、主にユーリに対する理解を深めてもらおうとする。素っ気ない言葉遣いや態度のせいで誤解されやすいが、彼がどれだけ優しくて真っ直ぐで、信頼に値する人物なのかを本当に心を込めて柔らかく語る姿はまるで、愛の伝道師もかくや、と言った風情だ。

フレンが本心なのがわかりすぎる程わかる為、他の者は口を挟むのも躊躇われ、最終的にはただ黙って『そうですか』と言うしかない。

一方、ユーリはフレンがそんな話をする度に顰めっ面をして溜め息を零し、大袈裟とも思える自分への評価に、ふい、と顔を逸らすかそそくさとその場を立ち去ってしまうのが常だった。

今もユーリは、エステルの質問にいちいち真面目に答えているフレンを横目に、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

今日だって、特別な事をした記憶はない。
普段通りに会話し、戦い、食事をしながら何気ない会話を楽しんでいただけだ。
それなのに、自分達がそうしていると必ず仲間の誰かが言うのだ。

『何故そんなに仲がいいのか』

と。

時には揶揄うように、またある時には微笑ましげに。そしてまたある時には胡散臭げな眼差しで。

その度にユーリは『放っといてくれ』と思う。
一時期険悪だった事を考えれば、その状態より今のほうが自分達だけではなく仲間達にとっても良い筈だ。
仲違いしている時に心配されるのはともかく、そうではないのに何故こうも気にされなければならないのか。
どうにかして、いちいち詮索されずに済む方法はないものか。そんな事を考えながら、フレンとエステルの会話をじっと見ていた。


「僕とユーリはずっと一緒だったから、それが当たり前なんです。特別な理由なんてありません」


その言葉に、全員の視線がフレンとユーリに集中する。
また余計な事を、と思ってフレンを見れば、にっこりと微笑まれて不覚にも頬が熱くなるのを感じ、慌てて顔を逸らした。


「どうしたんだい?ユーリ」

「…何でもねえよ」

「そう?顔が赤いよ」

「おまえなあ…」


二人のやり取りを見る仲間の視線に含みを感じる。
次に言われるであろう台詞も容易に想像できた。やはり今までに何度も言われて来たからだ。

しかし、今回は少しばかり様子が違っていた。一通り揶揄うだけ揶揄うと、何故か皆、疲れたように溜め息を零すのだ。

「ど、どうしたんだい?みんな」

「…そろそろネタも尽きたんじゃねえの」


それは正しかったようで、もういい加減、二人の仲睦まじい様子を見るに耐えないのだと言う。

幼馴染みで親友。
しかし最近、恋人というカテゴリも加わった。二人が同性であるという事に何の疑問も感じない程それは自然な流れで、仲間は最早その事に触れもしない。

だからこそ、ユーリは『わかってるなら放っといてくれ』と言いたいのだった。


告白して来たのはフレンのほうだった。
好きだ、と言われて普通に『何だよいまさら』と返したら、困ったように笑いながらユーリを抱き寄せてキスをした。それで初めてユーリはフレンの言う『好き』の意味を理解したが、だからと言ってフレンに対する感情は変わらなかった。
少し過剰になったスキンシップも、甘い響きが混じるようになった言葉も不快ではなく、むしろ落ち着く。だが人前では抵抗があるので、ユーリはフレンが自分に対する好意を隠さない事が恥ずかしい。だから、仲の良さを揶揄われたりすると今まで以上に過剰に反応してしまい、それでさらに冷やかされる事にうんざりしていた。

そう思っていたところへ、仲間達のこの態度である。

もう、いっそ――



――結婚すれば?


「…結婚すっか?」


皆が半ば冗談で言った言葉とユーリの言葉が重なって、一瞬の間を置いた後、ユーリ以外全員の驚愕の叫びがこだました。



「え…ユーリ!?それ、本気で言ってるのか!?」

「へ……、いや、その…何だよ、その食い付きは」

「だって君からそんな単語が出るなんて思わないじゃないか!」

身を乗り出して手を握るフレンにユーリは引きながらも仲間達を見た。

「ちょ……おい、おまえら何か言えよ!冗談に決まってんだろ!?」

「……いいんじゃない?」

さして興味なさそうにリタが言った。

「今みたいなよくわかんない関係のままより、いっそ潔く結婚されたほうがこっちも落ち着くわ」

「何だよそれ!?」

ユーリの抗議を無視してジュディスがリタに続く。

「そうね。そうすればユーリも無茶をしなくなるでしょうし、騎士様もそのほうが安心よね」

「おい……!!」

「何よ、なんでそんな慌てちゃってんの?青年が自分で言ったんでないの」

「さすがにそれはない、とか否定されると思ったんだよ!!」


そこまで行けば仲間も呆れて、もう自分達に関わろうとしなくなるのではないかと思っただけで、深い考えなどない。ただ単に面倒臭くなって、つい適当に口を衝いて出ただけだった。
だと言うのに、フレンはともかく他の誰も否定しない。何やら怪しげな雰囲気に、ユーリは本気で焦り始めていた。


「ちょ…っと待て、無理に決まってんだろ!?」

「……ユーリ、本当にただの冗談だったのか?」

「おまえなあ……!!」

ユーリの手を握ったまま、フレンが悲しげに問い掛ける。

「君が望むなら、僕は何だってやる覚悟なのに」

「何だって、って……どういうこと、だ?」

「どうせ君のことだから、男同士だとかそういう事を気にしてるんだろう?」

「当たり前だろうが!!」

気にしているのはそれだけではないが、やはり越えられない壁、というものはある。
同性での結婚は認められていない。だがユーリは形にこだわる必要はないと思っているので、その事自体に不満はない。別に結婚という体裁をとらなくとも、一緒に暮らしたければそうすればよいのだ。

「その為にフレンがいるんですよね!!」

エステルが目を輝かせながら立ち上がった。

「エステル!?」

「フレンはいずれ、騎士団長になる事が決まっています。そして、帝国の法を変えて全ての人々が等しく扱われる世の中を作りたいんですよね?」

エステルの言葉に、フレンだけでなくカロルやパティも頷いた。

「そうだよね、男同士だから、ってだけで結婚出来ないのって、よく考えたらおかしいかも」

「ううむ、うちとしては複雑じゃが…確かに同性でも愛し合っている者はいるのじゃ」

「あ、あい……」

幼い外見に反して妙に生々しいパティの物言いに、ユーリは言葉が出ない。見ればリタも顔を赤くしていた。

「フレン、わたし今からヨーデルにお願いしておきます。いずれフレンが騎士団長としてお城に戻った時は、出来るだけフレンに協力してあげて下さい、って!!」

「エステリーゼ様……ありがとうございます」

「礼なんか言ってんじゃねえよ!!法を変えるって、他に優先する事は山ほどあるだろ!?」

「そうと決まれば次は結婚式をどこでやるかですよね!」

「聞けよちょっと!!」



盛り上がるエステルを中心に、既に仲間はユーリとフレンを置いて勝手に話を進めている。

式は下町でやるのがいいとか、城の人間にも知らせたいから披露宴は城で行って下町の住人を招待すれば、とか、新婚旅行はどこがいいとか、移動ならバウルがいるから世界一周旅行はどうだ……等々。


唖然とするユーリに、フレンがにっこりとしながら言った。

「これは、本当に結婚しないとおさまらないね」

「おまえな!!煽ってんじゃねえよ!!」

怒りより恥ずかしさで顔を赤らめたユーリがフレンの襟首に掴みかかりながら怒鳴るが、フレンはそのままユーリの背中に腕を回して抱き寄せてしまった。ますます暴れるユーリだったが、フレンは全く意に介さない。
抵抗を諦めたユーリがぐったりと自分の肩に顔を埋めるのを見て、その髪を撫でながら優しく囁いた言葉に、ユーリが何とも形容し難い唸り声をあげた。



「今度、ちゃんとプロポーズするよ」



いつの間にか仲間は皆、フレンとユーリのほうへと視線を向け、それぞれが意味ありげな笑みを浮かべている。

フレンはその笑みに微笑みを返したが、フレンの肩に顔を埋め、皆に背を向けるユーリはそれに気付かないのだった。





ーーーーー
終わり
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