………


滅びの村……


かつては鉄鉱石や石炭を採掘する労働者で賑(にぎ)わった村……



…今は放棄され

地下坑道には

魔物が住み着き

住む人さえ 絶えた場所(ところ)……




……だが鉱床は まだ残っており ここで掘り出される建材


“石のブロック”や

“土のブロック”を



あるいは 地下坑道(ここ)に住み着いた魔物“オーガ”が
ときおり落とす

錬金術合成素材

“鎖(クサリ)”を


求め……


訪れる冒険者もいた……




ワタシ達も

建材を求め……


滅びの村を訪れていた…




「………ブロックは “建材 家具”
錬金合成の基礎素材(もと)なんだから

たくさん あったほうが
いいんだよ……」


村の入り口を抜け
坂の上にある地下坑道入り口に向かう道すがら パートナーが説明する……



「石のブロックは 石の階段
石造りのブロック の基礎素材(もと)だけど

土のブロックのほうが
家具の基礎素材(もと)にもなるから たくさん 必要になるんだよ……」



…………



「…ねぇ?

聞いてる?……」



「……あぁ

聞いてる……」



ワタシは パートナーの講釈(せつめい)を聞きながら
村の広場みぎてにある
風車小屋そばの
丘の上に座り込んでいる
人物を見ていた……



「……あぁ あのひと……

今日も いるね……」


立ち止まった
ワタシの視線を追って
パートナーも その人物を見つめる……



連邦の下衣に 黒のパーカーの上衣……

淡い空色(パステルブルー)の髪に 白い大きなシルクハットが
遠目にも 目立っていた……



隣には 彼のパートナー…だろうか?

淡い赤色(パステルレッド)の髪が レッドペッパーで染めた公国服(赤)上下に
映えている………



遠目には ただ座り込んでいるだけに 見えた……



いつから そこに存在(い)るかわからないが……

この村に素材採掘の為に
通いはじめて

よく 目にするようになった……


無論(むろん)

毎日通ってるわけでは
ないので 彼が毎日 居るかは わからない……



「先を いそごう?

…………」



「………あぁ

そうだな………」



パートナーに 催促(うなが)され ワタシ達は 地下坑道入り口へ向かう……



入り口に陣取る 空色の おおネズミの 熱烈な歓迎を
毎度の ごとく 受け

ワタシ達は奥に進む……




「あの魔王(おおネズミ)も 毎回 たいへんだよね……

ここに来る 冒険者の相手を毎回しなきゃ
いけないから………」



「それが 魔王(カレ)の役目……だろうから」



「…やくめ………?」



パートナーが足をとめ振り返る……


艶のない灰白色の髪を短いツートップしているため

その2つの房(ふさ)は
激しくゆれた……



「……役目というか
一種の契約かもしれない…
魔王(カレ)が 冒険者の相手をする事と引き替えに
何か を得たのかもしれないな……」



「なにかって?」



「例えば……

………

魔王(カレ)の統べる
魔物(部下)の……

……身の安全……

…とか……」



「まさか!!」



「……あくまでワタシの推測(すいそく)にすぎない……


魔王(カレ)は誇り高く
完璧(かんぺき)な魔王を演じようとしている……

単に己(おの)れの欲望の為
力を振るうことはしない……


それに…魔物(部下)思いなところがあるしな……」



「ふぅ〜ん……

きみは かわったことを
考えるんだね……」



「………そうかな?」



「………ぅん」



パートナーは踵(きびす)を返し
坑道内通路の奥を見つめる……



「……さて 今日もブロックを

手に入れるよ〜」



握った右手を高くあげ
宣言する……


ワタシは 水色の修道士服(パティシエB)上下を着た
パートナーの白く小さな背中を 黙って
見つめていた……




坑道内は通路と小部屋で
構成され 小さな迷路めいている……


同じ景色が続くため
初めて入った冒険者は
迷子に なりやすい……

ワタシも かつて そうだった……


だが 何度も入るうちに
自然と道を憶(おぼ)えていた………




ブロックの採掘(と)れる
鉱床の部屋にたどり着くと
ワタシは 試作ピッケル を使い ブロックを掘り出す……


カッ!ツゥーン…

カッ!ツゥーン……

試作ピッケル(ツルハシ)がブロックを掘り出す音が

小部屋に響く……



採掘するワタシ達の後ろでは

ちょこちょこと

魔物“ゴマミ”が
走り回っている……



……訪(おとず)れる者は 誰もいない

……静かな時間(とき)が流れてゆく……


………



「ん〜〜……

そろそろ いいかな……」


辺りに散らばる 試作ピッケルの残骸と

獲(え)られた ブロックを
見て パートナーは伸びをしながら つぶやく……


ピッケルは1回使うと壊れてしまう……


事前に錬金合成しておいたピッケルも使い切っていた……



「すでに掘り尽くされた…
………?

石のブロックに比べて
土のブロックが 少ない……」



「う〜ん どうなんだろ……
まだまだ 眠ってると思うんだけど……」



かわいい顎(あご)に軽く握った右手をあて パートナーは考える……

どんなしぐさも 可愛く決まる………



見ていて飽きない……




「………さて

…引き上げるか……」



服(レセプションスーツO)に積もった 砂ぼこりを払い……

ワタシは立ち上がる……



「そうだね……

……行こう!」



ブロックを倉庫に送り終えパートナーも同意する……


ワタシ達は地下坑道を後(あと)に 滅びの村に戻る…

村の入り口に近づくと
風車小屋のある丘が見えてくる……

そこに居る彼らを
ワタシ達は見つけた……



「そこで 何を……

しているのか………?」



ワタシは思わず声をかけていた……



「ボク達……

…ですか?」



特に 驚いたふうもなく
彼は 答えた…

白く大きなシルクハット
の下(した)
パステルブルーの前髪が左目を隠している……

そして
彼のパートナー……だろうか?
赤い公国服の少女が彼の背中に隠れ こちらを伺(うかが)っている…

赤い髪から覗(のぞ)く瞳は青色と赤色のオッドアイだった……




「近ごろ よく見かけるんでな……

少し 気になって……

つい 声を かけてしまった

すまない……」


ワタシは 頭を下げる



「いえ……お気になさらずに……

ここは…
景色が いいですね……」



彼は前髪をかきあげ 周辺(あたり)を見渡した後(のち)
ワタシに こたえる……



「……そうだな」


ワタシは 相づちをうつ…
たしかにここは入り組んだ山肌に埋め込むように家々が建っている……
深い谷底にも家屋があり
高低差の大きい事も景色の良さのひとつだろう……



「人も 来なくて のんびりできます……」



彼は軽く伸びをする…
それにつられてか
彼のパートナーも小さく あくびをする……


風を受けた風車(ふうしゃ)が 眠そうな音を響かせ
ゆっくりと回っていた……


「ひょっとして わたしたち
あなた達のじゃまをしてるんじゃ……」


ワタシのパートナーが
あわてて 声をかける…



「まぁ 立ち話も なんですから 座って 話しませんか?」


彼らは座っているのに
ワタシ達は立ったまま
話しかけていたのだ……



「これは 失礼した……

では
あらためて……

……………

お話し よろしいか?」



「えぇ どうぞ ……

そちらにお座りください……」



ワタシ達は 勧(すす)められるままに
彼らの前に座って 話し始めた……



………

……………

…………………



話してみると 彼は駆け出しの冒険者だった……

まだ10日目だと言う……


パステルレッドの髪の彼女は やはり彼のパートナーだった……
ひょんなことで 知り合い
一緒に 旅をしている とのことだ……
終始彼の背中に隠れて
こちらを伺(うかが)っている


(……まるでネコだな…)

ワタシは素直に そう思った……



「ここで知り合ったのも
なにかの縁(えん)………

…フレ登録しないか?(友達にならないか?)………」



「えっ?!

きみが?………」



パートナーが驚くのも
無理はない………

ワタシは人見知りなので
自分から フレ登録を持ちかけた事は これまで無かった……


…だが

彼ならば………



不思議と人を惹き付ける
魅力が

彼には あった……



「ほんとうですか?

……ボクからも お願いします……」



………

…………

……………



「フレ登録 できました…」


「………ワタシも だ…」



「きょうは すばらしい日だ……

貴女(あなた)という
友達もできた……


ぜひ 記録(日記)に 残さなくては……」




「…記録(にっき)?……」



ワタシのパートナーが きょとんとした顔をする…



「えぇ……
そうです……

ボク達は きょうあった事を この場所で記録する
ことにしているのです…

記念すべき10日目に
貴女(あなた)と会えて
嬉しいです……」



「そうか……
それは 良かったな……
……ここが書き物(にっき)をつけるための書斎……
というわけか……」



「…そんな
上等なものでは
ないですよ……

なんとなく気に入った……
それだけです…」



「……いいんじゃないか?それで……」



「そうだよ……
おきに入りの場所がある…
それだけで
すてきだよ………」



「そうですか……

………………



ボク達は 宿に戻ります…
今日は色々 ありがとうございました……」


「…ばいばい……」



「……あぁ 機会があれば

また会おう……

この大地の何時(いつ)か 何処(どこ)かで……」


「ばい ば〜い………」



ワタシ達は手を振って
彼らを見送った……



またの 再開を しんじて………


………


………………滅びの村にて……… ーおわりー