ベルにゃのおはなし…その3

………………



3人?は 火鉢を囲み
さな が煎(い)れたお茶を飲み 一息ついたみたいです……



「ねぇ…ベルグ……」



「……んっ

なんだ?……」



「…何か

ごようですかにゃ?

さにゃ……」



「やっぱり……

名前を なんとかしないと
……」


両手で 白地に青い上辺(じょうへん)の チャワン を持て余しぎみに 抱(かか)え
さな は ため息を吐(つ)きます……



「……そうだな

やはり 考えるべきか……」

濃い緑色の チャワン を見つめベルグは…自分に問うように呟(つぶや)きます……



「…変な名前を
付けるのは カンベンにゃ……」



火鉢の前にザブトンが置いてあります そこで ネコのベルグは“香箱(こうばこ)座り”で ゆっくりしています……
足元には 赤く浅い平皿が
置いてありました……


………………


「……ネコのベルグで いいだろ……」


視線を チャワン に向けたまま ベルグは呟(つぶや)きます…



「…じゃあ オマエは
ヒトのベルグにゃ……」


両耳を横に向けて ネコのベルグは反論します……



「………たしかに
ソレは イヤだな……

失礼した……」



…………

………………


再び 2人?は黙りこみます……



部屋の中央に置かれた
青い火鉢のなか 白く積もった灰の上で 黒い炭が赤く灯っています…

……

(まずいよ…

ベルグの機嫌が悪いよ……

どうしよう……)


ベルグと つきあいの長い
さな……

彼女(ベルグ)の心境(しんきょう)
が 手に取るように
解(わか)ります……

やがて

青い火鉢のなか
その黒い炭も白く 色を
変えてゆきました……


………

…トン…トン……

ショウジ を静かに たたく音が響きます……



「…は〜い……

……どなた?」


ショウジの音に さな が 応答し(こたえ)ます…



「ご主人様……

メイドの スノゥ です…

……よろしいでしょうか?」


ベルグ達の 家屋(ルーム)を 管理する
元シュリンガー公国メイド隊のひとり…
スノゥ の声がします……



「………どうぞ…」



「スノゥさん!

あがって あがって」



「では…
失礼します……」



ベルグと さな の声に
メイドのスノゥは
履き物を脱ぎ
木の階段を上がり
チャシツ に入室し(はいり)ます…


「そろそろ 炭が切れる頃合(ころあ)いでしたので お持ちしました…」



丸い縁なしメガネの奥の 細い目が いつものように
にこやかに笑っています…



「……ご苦労

とりあえず 座ってくれ……」



「スノゥさんの お茶も煎(い)れるね……」



「……あぁ

そうしてくれ……」


半眼の瞳でベルグは いつもの様に何か考え込んでいるように見えます


「まぁ… さな様 ご主人様

ありがとうございます」


メイドのスノゥは ザブトンに座ります…



「…はじめましてかにゃ?
スノゥ……

ベルグですにゃ……」


少し緊張したのか
“猫の女神座り”に座り直してネコのベルグが話しかけます……



「まぁ ……かわいい にゃんこ……

撫(な)でても よろしいでしょうか?」



「……あ あぁ……

彼女が いいと 言うなら……」



「…ベルグ……

どう?」



「…いいですにゃ……」



そう応えると ネコのベルグは メイドのスノゥの方(ほう)へ優雅(ゆうが)に歩みよります…
そして
スノゥの側に“猫の女神座り”しました……


スノゥは その頭から背中にかけて ゆっくり撫(な)でていきます……



「…にゃんこさんは ご主人様と同じ ベルグというのですね……」



「そうにゃ……

ワタシはベルグですにゃ……」



気持ちよさそうに目を閉じネコのベルグは メイドのスノゥに身をまかせています……


………



「ご主人様…

この にゃんこさんは

どうされたのですか?…」

にこやかな笑みを絶やさずメイドのスノゥはベルグに問いかけます
その間も ネコのベルグを 撫(な)で続けています……


「………新しいレシピを
作ろうと したのだが……
失敗……

…レシピ帳には記載されなかった……」



「では? この にゃんこさんは 偶然の産物で

二度と造れない……

ということでしょうか…」


メイドのスノゥは右手を軽く握り自分の顎先(あごさき)に当て
いつもの考えるポーズをとります……


ネコのベルグは メイドのスノゥの元を離れ 火鉢の側(そば)で“アルストラ座り”をしています…



「……まぁ

そういう事になるな……」

ベルグは さな に 煎(い)れてもらった お茶を
その 緑色のチャワンで味わいつつ 応(こた)えます……


(………コレは 長(おさ)たる ナギさんに 報告するべきでしょうか……)


ナギ とは シュリンガー公国メイド隊の長(リーダー)で 最近 公国民の選挙により大公の座に就任(つ)いた
人物です…
ベルグとは 依頼者として何度か 出会い その依頼を解決してもらっていました……


スノゥはシュリンガー公国のメイドを辞め マーロ共和国のメイドとして再就職した事に なっていました……



「……ご主人様?

まさか 魔物 を生み出した……

という事は ないですよね…?」



にこやかな笑顔のまま
メイドのスノゥはベルグに問いかけます……



「……それは無い

あくまで 錬金術合成の結果だ……

……結果は

失敗に 終わったが……」



レッドアンダーリムメガネの下(した)で 半眼の暗い緑色の瞳が 光を映すことなく
スノゥの縁無し丸メガネの奥… 閉じられた様な細い目を観(み)ています……


………………


「……そう……

…ですか………


少し出すぎたことを

お詫びします……」



「……いや…

いい………

ワタシには もったいないメイドだよ……

貴女(スノゥ)は……」


光の反射によりメガネの奥の ベルグの瞳は見えません…



「出すぎたこと ついでに

ひとつ よろしいでしょうか?」



「……スノゥさん!

なに なに?」



固唾(かたず)をのんで
ふたりの やり取りを観(み)ていた さな が
呪縛から解放された様に 聞き返します…



「……さな さんに
とっては 少し悲しいことですが…

その……

ベルグにゃんこさん を部屋外(そと)に連れ出すのは
ひかえたほうが よいかと……」


大きな縁無し丸メガネの上

細い眉尻(まゆじり)を下げ
申し訳なさそうな声で
さな に語りかけます……


「えっ?!

それは どういうこと…?」


「……この ベルグにゃんこさんは……

……その

人目(ひとめ)を ひきすぎます……

………………

ネコ を錬金術合成する事は ……今まで成功例が無いんです…

他の冒険者…

いえ…国が関心を持ち…

動くかもしれません……」



「……この事は
国家間の争いを…
引き起こしかねない……

…………

と いうことか………」



ベルグは 深いため息と共に暗い緑色の瞳を伏せます…



「…もし ネコ の錬金術合成のレシピが完成したら……


…高い知性を持ち
その小さな身体(からだ)で敵地に潜入……

情報収集 破壊工作 デマを流して 敵地混乱 あるいは敵中心地で自爆………


兵器に転用された時の活用法にはキリがないですにゃ…

考えるだに 恐ろしい事
だらけですにゃ……」



まるで他人事のように
ネコのベルグは話します…


「エージンの ビモット の様にか……」



沈鬱(ちんうつ)な表情を ベルグは浮かべます……




「……ち 違う

わたしは そんな事の為に
ベルグにゃんこ を 欲(ほ)っしたんじゃ……

………」



「……あくまで 可能性の話だ……」



「…さにゃ は 何も悪くないですにゃ……」



「さな様…

お心を傷つけて しまい

申し訳ございません…

……しかし

……最悪の事態を考える事も 必要です

………」



「……つまり

ベルグにゃんこ…を
この場所(へや)から

出さない……ほうが

……いい?」



さな は 戸惑(まよ)いがちに
言葉を発します……



「……えぇ

その…ほうが

賢明(けんめい)…かと……」



さな の悲しげな顔に
メイドのスノゥも
言葉を掛け難(かけがた)いようです……



「…ワタシは 大丈夫ですにゃ……

さにゃ とは チャット越しに お話しできますにゃ……」



「……それに ワタシの造成し(つくっ)た 部屋は広い……
退屈は しないはずだ…」



ネコのベルグとベルグは
さな に言葉をかけます……



「出来るだけ ベルにゃん に 会いにくるから……」

さな は 涙ぐんでネコのベルグに話しかけます…



「…さにゃ はやさしいですにゃ……」



「……それに
留守中は メイド(スノゥ)が面倒を みてくれるのだろ?…」



「もちろんでございます…

ご主人様の お部屋も
ベルグにゃんこ様の
お世話も ご期待に そえるよう がんばるしだいです…」



「……よろしく頼む…」



「……!!

ベルグ!?」



さな は驚きます

ベルグが頭を下げたのですから……



「そんな……

ご主人様!!

あたまを おあげください…


………」


スノゥは慌(あわ)てます…
メイドに頭を下げる
主人(雇い主)など いませんから……



「……コレは
メイドに対する主人では無く……
親愛(しんあい)なる友人として 頼みたい……


………引き受けて くれないだろうか………」


ベルグは頭を上げ その緑色の瞳で メイドのスノゥに頼みます……



「わたしからも ベルにゃんの お世話をお願い……
スノゥさん!」



さな もメイドのスノゥに頭を下げます…



「……………

…………

……この件は ベルグ様とさな様……

…そして

わたし スノゥとの お約束として
引き受けさせていただきます……」



少しの沈黙のあと

メイドのスノゥは
きっぱりと答えます……



「……ありがとう…」



みじかい礼を述べると
ベルグは深々と頭を下げました……



「ありがとう!

スノゥさん!!


……よかったね
ベルにゃん!」


さな はネコのベルグを抱き上げ その顔に頬擦(ほおず)りします……



「…感謝するにゃ……

スノゥ…

さにゃ……

そして もう一人のワタシ………」



「……ひとまず この件は片付いたな…

もう一人のワタシ……

いや……

…………ベルにゃん…」



「…ベルにゃん……?

にゃ?……」



ネコのベルグが 聞き返します……


「……さな が さっき
そう呼んでいたからな……

もう一人のワタシは
これから ベルにゃん だ………」



「ベルにゃん!

これからも よろしくね…」

さな は ベルにゃんを抱き上げ その小さな頭に頬擦(ほおず)り しています…


「ベルにゃん様…

お世話の方(ほう)は おまかせくださいませ……」


メイドのスノゥも
その手で ベルにゃん の小さな手を 優しく包み込んで にこやかに微笑(ほほえ)んでいます……



「…にゃ

……ベルにゃん…

………………………


さにゃ がそう呼ぶなら
ワタシは それで いいですにゃ……」




どうやら ネコのベルグの 名前が決まったようで良かったですね………

………めでたし めでたしです…


………………ベルにゃのおはなし その3 ネコ(キミ)の名は……
……………………おわり…

ベルにゃのおはなし…その2

……………



「魔王ちゃん!

これって?!」


さな は驚きの声をあげます…

一心不乱に祈っていたので 全身 玉の汗が浮かんいます……



「…………

……成功…

……した……わね…

………………」



魂の固着は 高度な魔法なのでしょう…

ベルグ(魔王ちゃん)も全身
疲労困憊(ひろうこんぱい)で肩で息をしています……


ベルグを模したオブジェにあらわれた
ソレは…
全身を茶色の毛並みに覆われ…その瞳は暗めの緑をしています……
ソレは一度 大きく欠伸(あくび)をしたのち
ほっそりとした身体で 大きく伸びをしました

そして再び その場に座り直します……



「…………お腹が空きましたにゃ…

何か食べたいですにゃ……」


“ベルグ”と名乗った ソレ は 緑と赤のカラーブロックの上に“猫の女神座り”のまま
その正面にいた
さな に話しかけます……




「えっ……

……えっと…

いまは 作りおきの クロケットしかないけど………

食べる?……」


いきなり話しかけられ
ビックリした さな でしたが なんとか会話をする事が出来ました……



「はいですにゃ…

クロッケ…

イタダキますにゃ…」



さな はカバンからクロケットを取り出すと
そぅ〜と
ソレ の足元に置きます…
ソレ は鼻先をクロケットに近づけ匂いを嗅ぐと
ガツガツと食べ始めました……



「ふふっ わたしの クロケット…

……食べてる」


さな は何だか嬉しそうに
その食事する姿を見つめています……



(……魔王ちゃん[マイカ]…
あの ネコ は どうして
ワタシを名を?……)

魂の一部を失ったベルグですが 意識は しっかりしていました…


さな が再びクロケットを ネコのベルグに与えるのを見ながら 魔王ちゃんは ココロの中のベルグと対話します…


(…アレは もう一人のベルグ(あなた)……

さな のオモイと あなたのオモイが 強すぎたのね…あんなに 個性が出るなんて……

例えば……

そう…分身とか…双子とか そういった類(たぐ)いの存在ね……)



(……アレが ワタシ?)


姿は見えなくてもベルグの驚きは 伝わってきます…


「さにゃ……

何か飲み物が欲しいにゃ…」


いつまにか さな は ネコ のベルグを撫(な)でています……


「ん〜……

いま お茶 カバンのなかに
ないんだよねぇ〜〜」



「合成すると いいにゃ…

ワタシと戯(たわむ)れて いれば すぐ 時間になるにゃ…」



「そっか〜

あたま いいね…」



「そんなこと ないですにゃ…」



…………



(…あなたの記憶を転写[うつ]してあるから…
知識も あなた並みよ…
アレ も あなたの一部…
あの性格も もしかしたら
あなたが演じていたかも…しれないわね……)



(…………………

……ワタシは アレ と上手くやって行けるだろうか……)


(…あなた自身なんだから
あなたが よく知ってるはずよ……)



(………………

………………………

…………色々 ありがとう
……………………

……さな の為に無理をさせて スマナイ……

……………

魔王ちゃん[マイカ]には
もらってばかりで

ワタシは………

何も返せてない……)



(そんなことない!!……

わたしは魔王から解放されたわ……


でも………


……あなたに 魔王を 押し付ける事になってしまって………………


ごめんなさい!……)



(……アレは ワタシの魂を救う為の最良の判断だった………

…………それに

いま 再び さな に会うことが出来た…

感謝している……

…………

…ワタシの方[ほう]こそ
魔王ちゃん[マイカ]を救えなかった……

今でも スマナイと思っている……)



(………ほんと
バカなんだから……


……………………

……………

いえ いいの……

わたしが決めたことだから………

………………

………そろそろ……
…眠り…に…着く……わ……

……わたし…の……魔力が…
…回復……する…まで……… 起こさ………ない…
…でね……

……おや…す……み…な……さ………い………)



「……あぁ
ゆっくり おやすみ……

魔王ちゃん(マイカ)に

よいゆめを……」



大きく開いた目 薄い赤紫の瞳 ベルグ(魔王ちゃん)から……
半眼 暗緑色の瞳 ベルグに戻りました……



さな は ネコのベルグを抱き抱え 幸せそうに座り込んでいます…
ちょうどベルグと魔王ちゃんの お墓の間(あいだ)にいました……


「……さな

…お茶は? あるか……」



「ベルグ?……」


さな は顔を上(あ)げてベルグを見つめます…



「……あぁ ワタシだ」


「はいにゃ…
ベルグですにゃ…」



さな の上下から声が聞こえます……


……!?

!?……

!?……



3人とも 驚いています…


「……これは」


「ちょっと…」


「困りましたにゃ……」



………………


「………此所(墓標まえ)に居ても 仕方がない…

庵(いおり)に行こう……」


「そこで お茶にしようよ」


「いい考えですにゃ…」


さな の抱っこからスルリと抜け出ると ネコのベルグは建物(いおり)に向かって歩きはじめました…

ベルグ達の お墓から その建物は見えています……

木のブロックを床と柱に
四方の壁は ショージ …
屋根はレンガ造りの
小さな建物を目指します…

ベルグがこの場所(墓所)でも休めるよう 建てた家屋
でした………



もちろん 自宅管理人(メイド)の スノゥによって完璧に手入れされています……

本人(ベルグ)は 東方の島国から伝え聞く“チャシツ”を再現したかったようです……

………………


履き物を脱いで木の階段を上がると 部屋の中心に
火鉢が置かれ その四方を
4枚の ザブトン が 置いてあります…

床は“タタミ”を再現するため 草のブロックが敷き詰めてありました……


2人…いえ3人?は火鉢の周りに座りました……

既に炭はおこしてあるので
五徳(ゴトク)の上に水を入れたヤカンを置き お湯になるのを待ちます……


「ここは 何だか 落ち着きますにゃ……」


さな の側に居た ネコのベルグは ゆっくりと火鉢の側に歩み寄り 座り込みました……

やがて その瞳は瞼(まぶた)に閉じられ……


微睡(まどろ)み に入ったようです……



「かわいい……」


さな は その姿に小声を発しました……


ネコのベルグの耳がピクッと反応します……



「聴こえてるんだ……」


さな の興味は尽きません…



3人?は 黙ったまま お湯が沸くのを 待ちます……

それぞれが 今日の出来事を…思い…考えているのかも しれません……



「ねぇ ベルグ…
魔王ちゃんは?……」


さな はベルグの右横顔を見ながら話しかけます…


「……深い ネムリに入った……
しばらくは 話せない……」

程よく長い濃緑色の前髪が少し俯(うつむ)く顔を隠し さな の方からは表情が 見えません…



「そう……なんだ……」


「ネコのベルグのこと…

何か わかった?」



「…アレ いや 彼女に失礼か……

…あのネコは なりえたかもしれない ワタシだそうだ……

同じ記憶…知識…を持ち得ても…環境…経験によって違うモノに……」



「ベルグのはなし むずかしくて わからないよ……」



「……あぁ スマナイ……

ようするに 性格の違う双子の妹? ……みたいなモノだ……」…



「なるほど〜
娘ができたり 妹が生まれたり……波乱万丈(エキサイティング)な人生だね…」



「ファ〜……

……………

こんな お姉さまはゴメンですにゃ……」



「起きたの?」


さな は小声で しゃべっているつもりでしたが ネコのベルグを起こしてしまったようです…



「……あぁ ワタシも
自分 そっくりの妹は
ゴメンだ……」



同属嫌悪と言うのでしょうか……
外見性格ではなく 自分と同じ思考をする存在を 忌避(きひ)してしまうようです……


「ちょっと 2人とも!!

仲良く しようよ……」


さな にとって2人とも大事なベルグです…
ケンカは してほしくありません……



「…………さな が
そういうの なら{にゃら}」


!!



「ハモったね…

やっぱり仲良しなんだ…」

さな は満面の笑みを浮かべます…


…………

………………


ベルグとネコのベルグは
お互い 顔を見合せます……


「……ワタシは さな が大事だ……」


「…ワタシも さな が大事ですにゃ…」


「……その点において

ワタシ達は 協力しあえるのでは?……」


「…ワタシは ワタシと同じ考えですにゃ……」



「……ワタシ達は 反(そ)りが合わない……」



「…しかし さな という同じ鞘(さや)に納(おさ)まることは できますにゃ……」


「……YOME(ヨメ)は 鎹(かすがい)……というワケか……」


「…正しくは 我が子(こ)は夫婦のカスガイにゃ……」


「………わかっている…」



「…承知のうえにゃ……」



ふふっ……

にゃはは……



以外と2人は気が合うようです……



「なかなおり できたんだね
ちょうどお茶が 入ったよ……」



「………さすがは さな!

いいタイミングだ…」



「…そうにゃ

……ワタシの お茶は 冷ましてから 出して欲しいですにゃ……」



「……ネコ舌か…」



「ご覧のとおり

……ネコですにゃ…」




……………ー ベルにゃのおはなし その2 ネコのベルグ ー ……おわり………

ベルにゃのおはなし…

…………



ここは マーロ共和国…
“ベルグとさなのへや”がこの地にあり…屋敷付きのメイド “スノゥ”によって よく手入れされていました…



今日(きょう)は ベルグと さな ここで過ごすようです…


台所(キッチン)の屋上の草地に座り なにやら話し込んでいる様子…


共和国服(青)の上下を着た白い肌に白灰色の髪…
ツーサイドの左側に金魚のかんざしをさした幼女が
話しかけます……

「ねぇ…ベルグ……
わたし“ネコ”といっしょに暮らしてみたい……」



「……“ネコ”?…
あの 3国で 釣った魚とコインやアイテムとを交換している?……」


共和国服(赤)の上下を褐色の肌に着た濃緑色の髪の
少女が聞き返します……

レッドアンダーリムメガネの下 暗緑色の瞳が何か考えているようです……

彼女の言う3国とは シュリンガー公国 アブル連邦 マーロ共和国 を指します……



「…いくたびに そこのネコと遊ぶだけでは 駄目なのか?……」


時おり吹く風がベルグの
後ろで縛った肩まである 濃緑色の髪を揺らします……



「ん〜…
そうなんだけど…

わたし達の家にも居ると
…うれしいかなって…」


少しおねだりをするように上目遣(づか)いに さな はベルグを見上げます…



「……ネコ…か……

3国交換所 以外では 見ないな……」


ベルグは考え込みます……


「ベルグぅ…
魔王ちゃんに聞いてみてよ……」


さな はその深い蒼色の瞳でベルグの暗緑色の瞳を覗き込みます……


「……わかった
魔王ちゃん(マイカ)と代わる……」


ベルグは先の一件で 魔王ちゃんと魂を融合しているのですが…
彼女は普段 ベルグに優先権を渡し魂の奥底で眠っているのです……



「はい は〜い

さな おひさしぶり…

わたしに 何か用かしら?」

普段は半眼のベルグの瞳が大きく広がり色も
暗緑色から薄い赤紫に変化…
口調もガラリと変わりました……



「え…えぇ……(^-^;

おひさしぶり……

やっぱり コレは なれないなぁ〜……」


ベルグの姿と声で 魔王ちゃんが喋(しゃべ)る のは
少し異様です……


毎度の事ながら
さな は引きぎみです……


「ちょっと……
…そんなに ひかないで…


ええっと“ネコ”だったわね……


あれは 魔物の一種よ…

魔法により生み出された…
アイテム交換所の為に存在するの…

町から連れ出すことはできないわ…

残念だけど……」


「そっか〜

いっしょに 過ごせないのか〜………」


さな は心底 残念そうに
その あどけない顔を曇らせます……



(……なぁ 魔王ちゃん[マイカ]……なんとか ならないのか?……)


ベルグが 心のなかで問いかけます…

(…ほんと あなたは パートナーに 甘いのね……)

心のなかのベルグに 魔王ちゃんは答えます…

2人のやり取りは さな には聞こえてません……



「……でも

新たに 生み出すことは
できるわ

魔王は 魔物を作りだせる
……知ってることよね?」


「まさか?

…………

ネコ を?」



驚きと期待の混じった顔で さな は ベルグ(魔王ちゃん)を見上げます……


立ち上がり 魔王ちゃんの仕草で ベルグは 説明を始めます……



「そう……
魔物を作り出すの…


これには……


作り出す魔物の 依り代(よりしろ)となるもの……

魔王の魂……

そして 強いおもい……


が必要なの……」



「……よりしろ?」


「……今回の場合は
ネコ の姿をしたものや
それをイメージするものね
…」



「えっと…家具のクロネコとか ネコミミカチューシャ…ネコハナマスク…ネコメ石…かな?」


ネコ を連想(イメージ)するものを
さな は次々とあげていきます……



「そんな感じ……


次の魔王の魂……
は わかるわよね?」


……………


「……ベルグの魂……」



「…そう 彼女の魂を分け与えるの……

……」


「……そのことで ベルグは死んだりしない?」


心底 心配そうな顔で さな はベルグ(魔王ちゃん)を 見上げます…



「ワタシは……大丈夫だ
以前にも こういう事
あっただろ?……」



瞳が半眼に戻り いつもの口調で ベルグは語りかけます……



「ベルグぅ〜……」


さな は立ち上がり 泣き出さんばかりにベルグに しがみつきます……


「……大丈夫だ
決して さな を1人にはしない……」


ベルグも さな を抱きしめます……



「うん…うん……

ぜったいだよ?」



「あぁ……

絶対だ……」


…………………


(……ほんと あなた達は
………)

心のなかで 魔王ちゃんは 呆(あき)れています……


…………………



「……続き いいかしら?」

瞳と口調が魔王ちゃんに
戻りました……


「……あっ うん…

おねがい……」



あわてて ベルグ(魔王ちゃん)から さな は離れます…



「………

最後は 強いおもい……

この ネコ は 存在すると 強く思うの……

依り代(よりしろ)をベルグだと 強く信じなさい…

さな なら うまくやれるわ…」



「うん!!」


涙を拭(ぬぐ)って
さな は強く答えます…



「……あとは 成功しそうな場所……


…ん〜………


そうだわ……!

墓所に しましょう!…」



“パンッ!!”
とベルグ(魔王ちゃん)は
手を叩(たた)きます…



「えっ!?

あそこ……?」



「フフッ………

あそこなら……

なんだか 成功しそうな気がしてくるでしょ?」


ベルグ(魔王ちゃん)は
悪戯(いたずら)っぽく笑います……



魔王ちゃんが言う“墓所”とは
“悔いと祈りと許しを”と名付けられた場所です……

ここは 入って正面右側奥に魔物をイメージしたカラーブロックのオブジェが置かれ ベルグが魔物への祈りの場として造られた空間でした……



そして 左側奥に ベルグと魔王ちゃんの墓もあります……



………………



準備の整った2人いえ3人?は この地を訪れました……

空は いつもと変わらない黄燈(オレンジ)色の夕方のまま……
…寂寥感(ものさびしさ)がこの場所を漂(ただよ)います……


……………



「こうして……

自分の お墓を 見るのは なんだか………

不思議な気分ね……

でも ここに お墓があることで あなた達が わたしの事を忘れないでいてくれる……

……………

わるくないわ……」



ベルグ(魔王ちゃん)は
少し寂(さび)しげに笑います……

顔 身体はベルグなのに
なんだか 妖艶なフインキが漂います……



「そんな 忘れることなんて
できないよ!」


さな は つい泣き出して
ベルグ(魔王ちゃん)に抱きついてしまいます……



「…………………

わたしの事を 思ってくれて
ありがとう……


……………


この儀式
成功させるわよ」



「うん!!」



2人の絆(きずな)は
より 深まったようです……




……………



2人は儀式の準備に入りました……



緑と赤のブロックを並べ
ベルグをイメージしたオブジェの上…
ネコ をイメージさせる素材が並べられ………


そして…

さな は膝をつき 祈ります……

「……ネコ になったベルグ……
ネコ になったベルグ……
…ベルグ……ベルグ……


…………

…………………」



必死にイメージします……

ベルグ(魔王ちゃん)は
分け御霊(わけみたま)の
儀式に入りました……

魂の一部を切り離し
そこにベルグの記憶を転写(うつ)していきます……


魂の奥底…ベルグは魂が引き裂かれる様な
痛みに必死に耐えています(………さな………さな………さなァ〜〜……!!)



……………


どれほど時が過ぎたでしょう……
2人の額に汗が浮かんでいきます…


………………


(……そろそろ 頃合いね)


ベルグを模したオブジェ…
その上の素材が 中心に集まり 何かをカタチ作ろうとしています……



ベルグ(魔王ちゃん)は胸の前で組んでいた両手を天に広げ
声高に宣言します…



「“い”“の”“ち”…


……………


さずけよォ〜〜〜〜………」



ベルグの下腹部に出現(あらわ)れた黒い霧が収束し
やがて点となり

オブジェ上(じょう)の
白く輝く素材の塊(かたまり)に

吸い込まれていきます……………



…………



「成功…

………したの?」


眩(まぶ)しさに思わず目を細める さな ……………


やがて
白い輝きが 収まり

小さなモノが

ちょこんと…

そこに……

居(い)ました………



…………………………



「はじめましてにゃ?

ベルグですにゃ……

こんごともヨロシク……
にゃ…………」



茶色と緑の体毛をした
ネコ? が そこに居ました……




…………ー ベルにゃのおはなし 誕生編 ー ……おわり……

前の記事へ 次の記事へ