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その日 ワタシはパートナーと共に日課である Zellダンジョンで リッチマンとという身体(からだ)が黄金色をしたオークと戦闘し(たたかっ)ていた


倒せば 6000Zellが貰(もら)える…が1日1回だけしか挑戦出来ない……

魔物にとって Zellは価値を持たない…純粋(じゅんすい)に冒険者との戦いを楽しみ
その報酬(ほうしゅう)として冒険者にZellを渡しているのだ
………では魔物にZellを渡しているのは何者(だれ)なのか……

その答えに ワタシは まだ たどり着いていない……



その日 リッチマンと戦闘の最中(さなか) ボンド“夜行列車”リーダー“海桜”からの念話(ボンドチャット)がワタシに届いた



『ベルグ!

ハロハロ〜』



突然の事(こと)に スキル“アルペジオ”の演奏をミスってしまう



「ベルグぅ!

どうしたの?」



パートナーの“さな”が

すかさず スキル“トーチャーワルツ”の華麗な舞いで ワタシのミスをカバーして
リッチマンにトドメの2撃を入れ
戦闘(たたかい)を終わらせる



「あ あぁ……ちょっとな」



「ふ〜ん じゃ 報酬をもらって 帰ろっか」



ワタシ達は リッチマンから報酬を受け取ると
共和国(マーロ)に帰還した



共和国(マーロ)は大陸の南に位置する ヒトと魔物が共存する国だ
それ故(ゆえ)か この国で冒険者の姿(すがた)を見るのは稀有(まれ)である
魔物を敵視するのが普通と考える人々が暮らす この世界なら
訪(おとず)れる冒険者(ヒト)が少ないのは当然なのかもしれない……


ワタシはパートナーと共に 暑さを凌(しの)ぐため円形に造られた池の前にあるベンチに腰掛ける
噴水(ふんすい)から流れ出る水が 涼(すず)しさをワタシ達に運んでくれる…


「さっきは どうしたの?」


青く染めた共和国(マーロ)服に 南国の強い日射しを避(さ)ける為(ため)に
濃い紫色の三角帽(トリック・マギ・ハット)を頭にのせた パートナーの“さな”の声が ワタシの左から聞こえる…
その右耳に付けたゲルミイヤリングの水色が小さく揺れている……



「あ あぁ……さっきボンドリーダーの”海桜”から念話(ボンチャ)が あってな
今から 返事を返すところだ……」



「“海桜”さんか なんかひさしぶりだね
たしか……さいごに会ってから ひとつきぶり……かな?」



「たしか……そのくらいに…なるか」


最後に会ったのは 彼女の部屋改築(ハウジング)中のときだったか……
華奢(きゃしゃ)な体躯(たいく)に細い手脚 スラリと身長(せ)は高く 明るく鮮やかな青緑の髪をハーフツインにして
レモンイエローとパステルブルーの瞳を持ち 長いエルフ耳をしていたな……

そんな彼女の容姿(ようし)を思い出しながら ワタシは念話(ボンチャ)を送る



『ひさしいな 海桜……』



『あっ ベルグ!

聞いて 聞いて
わたし いいことがあったんだ』



『ほう……
それは興味深い…

何があったんだ?』



『ベルグは“ハロルド・ポーター”って知ってる?』



『ハロルド・ポーター……?
たしか 今は廃(すた)れた魔法を使う 物語の主人公の名前……だったか
巷(ちまた)で人気の架空(かくう)長編書物だな
ワタシは読んだ事は無いが……』



『そう! それ!
わたしね すごい大好きなんだ!
それでね それでね 演劇のチケットに当選したんだ

2階席だけどw』


『ほう……あの書物が演劇に……凄(すご)い人気なんだな
それと 当選 おめでとう……』


『でしょ でしょ
それから ありがとう 開演は4ヵ月先だけど
いまから たのしみ』



『そうか 無事 その日が迎(むか)えられるよう 祈(いの)ってる……』



『うん 
きょうは これで失礼するね

じゃあ またね』



『あぁ……またな』



念話(ボンドチャット)はここまでで切れた



「それで 海桜さんは なんて?」


ボンドチャットはパートナーには聞こえない ワタシは パートナーの“さな”に 今までの会話を話して聞かせた……



「ふ〜ん そんなことが あったんだね
海桜さん 演劇 見に行けると いいね」



「あぁ そうだな 開演はまだ先のようだが 無事 その日を迎(むか)えてほしいものだ」



「そうだね
わたしも そう思うよ

きょうは タイミングがよかったね

海桜さんと おはなしできて」



「なかなか 会えないからな……海桜とは」



ボンド“夜行列車”

ワタシが乗車し(はいっ)たときは 10数人の乗客(メンバー)が居(い)たのだが……
乗車(イン)時間が合わない為
ボンドリーダー(海桜)とは 時折(ときおり)しか話しが出来ていない………


他の乗客(メンバー)は 途中下車(退会)してしまったのだろうか?…………

あるいは 別のボンドに乗り換え(移動し)たのだろうか?………

念話(ボンドチャット)にも反応が無い…………


ただ…このボンドに所属していても
他人(ボンドメンバー)と話す事が
ほぼ無い……というのが現状(げんじょう)だ

もともと他人と行動する(つるむ)のが苦手なワタシには ちょうど良いのかもしれない………



「これから どうする?」



パートナーの “さな”がときおり吹く風に ツートップに纏(まと)めた灰白色の髪を靡(なび)かせている
陽射しは強いが 海からの風が ワタシ達に涼しさを運んでくれる



「そう……だな

“実り多き半島(みたはん)”で水浴びでもするか?」



「それも いいかも

共和国(マーロ)を出て すぐだし わたし 好きなんだ
あの海岸」



実り多き半島(みたはん)の海岸は遠浅で その色は
優(やさ)しさを感じるアクアマリン
公国(シュリンガー)の冷たい青をした厳(きび)しい海とは まったく違う顔だった
ここは 時間さえ優しく流れているのかもしれない……



「行くか………

きょうは のんびり過ごすことにしよう……」



「うん♪」



ワタシ達は 共和国(マーロ)の木製扉が仕切る出入口を抜け 平木板を敷いた桟橋を渡る……

一日を 時間に縛られる事なく自由に使えるのも 冒険者の特権なのだ



「ベルグぅ〜〜

はやく はやく〜〜〜」



水着(サマー・スノー)に着替えた パートナー(さな)が 波打ち際から ワタシを呼ぶ



「あぁ………

今 行く……」



ワタシも共和国(マーロ)服(赤)から 水着(サマー・メープル)に着替え
その声の元(もと)に向かう

まだまだ 太陽(ひ)は高い……………





ある冒険者のひとりごと……31〜夜行列車〜 〜終わり〜