……………


ここは ある冒険者によく似た人物が冒険している世界………

褐色の肌に濃緑色(ダーク・グリーン)の髪と瞳を持つ少女が

白い肌と灰白色の髪に 紺碧色(ディープ・ブルー)の瞳を持つ 幼い少女をパートナーに世界を旅していました……


主人公の名は ベルにゃん・White……
頭にネコ耳と おしりにネコ尻尾(しっぽ)を持つ魔物です………

パートナーの名は さな……
公国(シュリンガー)出身の普通の女の子です

いろいろあって二人は旅を続けています……



……………



………ある日

魔物のベルにゃんとパートナーの さな は共和国(マーロ)にある自宅(ベルにゃんとさなのへや)に居(い)ました

ここは ふたりでZellを貯め 廃墟(はいきょ)を土地ごと買い取り 少し改築して自宅にしていました……
魔物であるベルにゃんを受け入れてくれる国は
ここしか なかったからです…………


そして 冒険をしない時は
自宅(ここ)で くつろぐのです……

いまは “お正月” と呼ばれる月……

“ベルにゃんとさなのへや”も “カドマツ” “シメナワ” “カガミモチ” と呼ばれる家具を配置(はい)して “新年” を迎(むか)えました……

遠い東の海に浮かぶ島国では こういった家具を部屋に飾り 家族と過ごす……らしい…と本で読んでいたからです

アルスト文字に訳された
本のタイトルは “東海島伝聞録”………

遠い異国の地の事を 人伝(ひとづて)に聞き記(しる)した貴重な本です
……ただ誤訳や 聞き違いも あるため 正解さには欠けているのですが……

珍しい風習(ふうしゅう)も記されているので
好奇心旺盛(めずらしものずき)な ベルにゃんは それを真似てみたのです………


「…ベルにゃん

きょうも いい天気だね…」



パートナーの さな が
細く白い膝の上に濃緑色(ダークグリーン)の髪をしたベルにゃんの頭を乗せ

その頭を白く小さな手で撫(な)でながら つぶやきます…


「……そうにゃ

風も気持ち いいにゃ…」



さな の膝(ひざ)もとで
身体を丸くし 気持ちよさそうに目を閉じた ベルにゃんが答えます……

南国のマーロ共和国ですがこの時期は暑さも遠のき
日差しは温かく
過ごしやすいのです


石造りのブロック 草のブロック カラーブロック(緑) ステンドグラスブロックを組み合わせた屋根…
そこに
赤く大きな野点傘(のだてかさ)を置き
傘の足元に座っていると

…つい うとうと…ふねをこぎはじめます………


……………



「……誰か

来た みたいにゃ…」



ベルにゃんの頭のネコ耳がピクリと動きました……………



…………………

……………

ベルにゃんの所有する土地
“水路と石橋”

ここは山肌から湧き出す水を
“ベルにゃんとさなのへや”にある水浴び場(プール)に引き込むために買い取った場所です

この場所の石のブロックを積(つ)んだ橋の上に 訪(おとず)れた人影が二つありました………



「……ねぇ

やっぱり やめよう?

ここ 魔物の住みか……でしょ?……」



「だいじょうぶ

ベルにゃん に会いにきただけだよ」



「だって……魔物…」



「ベルにゃんは いい魔物(ヒト)だよ……」



「わたしたちは 冒険者……
魔物は…討伐(とうばつ)しなきゃ………」)



「いい魔物も いるよ…

共和国(マーロ)で助けて
もらった……」



「それは……

そう……

だけど……」



「あっ!

サクラだ!」



「……………!!

きれい……」



水路と石橋の入り口 左にに植えてある2本のサクラに気づいたみたいです
二人は しばらく見とれていました………



………………



“ベルにゃんとさなのへや”の敷地 その入り口に話し声が近づいて来ます………



「……さにゃ

知り合いみたいにゃ…

ちょっと行ってくるにゃ…」



さな の膝元(ひざもと)で欠伸(あくび)をひとつすると
大きく伸びをして
ベルにゃんは立ち上がります

そして……
ブロック7つぶんの高さのある屋上(おくじょう)から
ひらりと とびおりました


「ちょっと……

まってよ ベルにゃん!

わたしも行くよ」



ベルにゃんを屋上から
見おろし さな が声をかけます…



さな は石造りの階段を かけ降りて
ベルにゃんに追いつきます


二人は まっすぐ進み
左に曲がると 木材とカラーブロックを組み合わせた小さな舞台があります
そこに設置(お)かれた木の階段を登(のぼ)ります

そうすると 黒い柵の切れ間に 石のブロックと草のブロックで作られた入り口が見え……
そこに 二人連れの女の子が入って来ました……



「なんだか 和風だね〜」



「 家具の“カドマツ”が
置いてある…

建物の入り口?

上に“シメナワ”も
提(さ)げてある……

あれって こう使うの?…」


二人連れの会話が聞こえてきました……



「アケマシテ オメデトウにゃ
ももか……」



「明けましておめでとう!
ももか!! すもも!!」



ベルにゃんとパートナーの さな が来客の二人連れに新年の挨拶(あいさつ)をします



「あっ ベルにゃんだ

あけおめ〜」



「さな…明けましておめでとう…
今年も よろしく…」



ももか と そのパートナー すもも も あいさつを返します……



「……立ち話(たちばにゃし)
も にゃんだし……

あちらで 座って話さにゃいかにゃ……?」



「そうだよ!

すもも ももか

お茶に しよ?」



四人は 建物の正面入り口前で話しています
すもも の言ったとおり
建物の正面右側に“カドマツ”が ひとつ置いてあります……
建物入り口を見上げると 幅(はば)ブロック二つぶん…高さブロック6つのレンガ屋根に“シメナワ”が
ひとつ右よりに提(さ)げてあります………


四人は敷地の右すみに設置された喫茶コーナーに移動しました

植えられたリンゴの木の根元(ねもと)に周囲からの目隠しにパーティション二つと
レンガとステンドグラスブロックを組み合わせた柱…
足元には四角い絨毯(カーペット)が敷いてあり 履き物を脱いで上がる様です……


入り口はブロック ふたつ分(ぶん)の隙間(すきま)がありますが 一人づつ入ることになります

まず ベルにゃんが入ります



「……ももか
お手をどうぞ……にゃ」



「ベルにゃん…」



その手を ももか が取ろうとしました……



「ちょっと……わたしの ももか に近づかないで……
魔物!」



カーペット上のベルにゃん
外(そと)の ももか…

その ももか の前に パートナーの すもも が割り込んで 立ち
中(なか)のベルにゃんを威嚇(いかく)します…

すもも は左腰に差(さ)した 片手剣に右手をかけ

左手の盾を構え自分を守りつつ いつでも抜刀できる 構(かま)えです



「……にゃにも しにゃいにゃ……茶飲み話をするだけにゃ…」



ベルにゃんは 涼しげな顔をして立っていますが
そのしっぽは 警戒(けいかい)のため 左右に揺(ゆ)れています

腰に差(さ)した片手剣に
右手は触(ふ)れては いませんが
左足は静かに後ろに下がり いつでも剣を抜(ぬ)ける構えです……



「今日(きょう)こそ……

わたしの剣のサビに……

なれ!!」



「……剣が錆(さ)びては
斬(き)れませんにゃ…」



一触即発(いっしょくそくはつ) とは この事でしょうか……



「ちょっと すもも〜
おちついて…」



「ベルにゃん……
やめてよ!」



お互いに 相方(あいかた)を止めようと声をかけますが
黙(だま)ったまま
二人のにらみ合いは続きます

…………

時折(ときおり) 吹く風が
枯れ葉を一枚 二人の間(あいだ)に 運んできました…


………!!



紫電一閃(しでんいっせん)

二人の抜刀は
閃(ひらめ)く雷(かみなり)のごとき

目にも止まらぬ速さで 剣は抜かれ

互いの刀身が
ぶつかり合い

火花が飛び散りました……


「……にゃ

…にゃ

にゃ♪」



二度! 三度!……と ベルにゃんは 右手の片手剣で すもも に斬りつけます

魔物の性格(さが)なのでしょうか
ベルにゃんは戦いを楽しんでいる様(よう)です……



「くっ!!

やっ!

くっ……」



対して すもも は 左手の盾(シールド)で 受け
右手の 片手剣で斬りつけ 盾で受けるを繰り返します

斬り結ぶ二人は いつのまにか 石造りとカラーブロックで組み上げられた
水浴び場(プール)の前に
移動していました……

リンゴの木が影を落とす
青と砂のブロックの上
二人は 剣を振(ふ)るいます…………



「にゃ?

どうしたにゃ?

そんな腕では 剣にサビは つかないにゃ……」



「……へ 減らず…ぐち……」



余裕のある ベルにゃん に対(たい)して すもも の息があがっています…


と そこに……

何(なに)かが ベルにゃん
に 飛(と)んできました

すもも を相手に片手剣を振るいつつ
空(あ)いている左手で
ベルにゃん は 視線を向けることなく
叩(はた)き落としました


「………興(きょう)が 削(そ)がれたにゃ……

今日(きょう)は もうやめにゃ……」


叩(はた)き落とした ティーカップに続いて
飛んできた カップ・ソーサーを振り向いて剣で叩(たた)き割り
ベルにゃん は剣を納(おさ)めます



「…ま……まだ…………
勝負は……ついて……ない…………」



片手剣を杖代(つえが)わりに すもも が肩で息をしています……



「…ちょうど メイドも
到着(つ)いたようだにゃ……」



「……め………いど?…」



怪訝(けげん)がる すもも を背中(せなか)に
ベルにゃん は顔に 飛んできた 本を 僅(わず)かな動作で避(さ)けます……



「……お茶とお菓子の 到着(とうちゃく)にゃ…」



「あわわ……
もうしわけ ございません
ご主人さま……

探し物を していたら つい……」



白いエプロンに 紫色の長袖エプロンドレス…

金属色のカチューシャとアンテナを頭に乗せた
華奢(きゃしゃ)な女の子が“あわあわ” しています……



「…ニャニャ……探し物を するときに
物を投げるのは やめるにゃ……」



「あっ!

ナナ!!

ちょうど いいところに!」


さな が安堵(あんど)の声を あげます……



「その人は〜? ('_'?)」



興味深(きょうみぶか)げに ももか が訊(たず)ねます……



「あっ!
みなさま…
メイドどうも……

わ…わたくしは ティ…

いえ ナナ…

この屋敷に お仕(つか)えする

メ…メイドです……」



さいごに彼女は
丁寧(ていねい)な メイドお辞儀をしました……

黄金(こがね)色に輝く髪が膝裏にまで のび
前髪が両目を隠して
表情は見えませんが 幼(おさな)さを感じさせます…年の頃(ころ)は11才……くらい…でしょうか……



「ナナ どうして ここに?」


さな が不思議そうに訊(たず)ねます



「は…はい さな さま……
ご…ご主人さま より アフタヌーンティーの準備を
…もうしつかり
こ…こちらに お持ちしました…です……」



メイドのナナの腕にバスケットが見えます



「やった〜
ナナの作る お菓子
大好きなんだ…

わたしの合成とおなじものなのに……
どうしてだろう?」



「そ…それは わたしの作る物が 錬金術合成 では ないから…では?…だと思います…です」



「そこが わからないんだよ…
料理もお菓子も合成で
作るものでしょ?
……その 調理?……ってのが わからないんだよ…」


「そ…それは……ですね…」



メイドのナナが説明しますが さな達には理解できないようなのです

全てのモノが 錬金術のレシピと素材を合成することで作れる世界……

ここでは調理という概念(がいねん)が存在しないのです
モノを きざんで 混(ま)ぜて 熱して 別のモノにする……
こういう概念(がいねん)が存在しないのです…………
だから 料理や お菓子の味は いつも同じ……
レシピと素材があれば
誰でも 同じモノが作れるのです……

ただ合成にも ある程度 才能や素質は必要なのですが………「う〜ん……
よく わからないけど
ナナの作るモノは
おいしいよ」




「あ…ありがとです……

さな…さま………」



「ニャニャ…

お茶の用意を 頼(たの)むにゃ……

それと ……すもも は水浴びしてから来ると いいにゃ…」



「…こ……こ……
…この……
バカ魔物〜〜〜!!」



自分が汗だくなのに気づいた すもも は顔を真っ赤にして 怒(おこ)ります



「ワタシ達は先に行ってるにゃ……」



「すもも〜
さき 行ってるね〜」



(……ももか の……バカ………
魔物なんかと仲良くして………)



……………………



水浴びを終え ラフな服装に着替えた すもも が濡(ぬ)れた髪を拭きながら戻って来ました………



「す…すもも さま……

こちら…です……」



メイドのナナが 喫茶コーナーへ 案内します…

コーナーの端(はし)
レンガのブロックを組み合わせた台の上に アフタヌーンティーセット カットフルーツの盛り合わせを置いてあり
近くには アルコール・コンロに載(の)せたヤカンが すでに湯気を上(あ)げていました…

ティーポット ティーカップ カップソーサー…
取り皿にフォーク…等々
が 並(なら)べられ
お湯が注(そそ)がれるのを待っています………


絨毯(チェックのカーペット)の上には 椅子が4角(よすみ)に並べられ すでに三人は着席して 談笑しているようです……


…………………



「……それでねぇ

この国の王さま

すっごい チャラいんだ〜」


「そうかな〜?

この国のヒトたちからは
したわれていると思うんだけどな〜」



「……あぁ見えて人格者にゃ…」



「……うん

それでね………

…………



…………………



そこに メイドのナナに
連(つ)れられて すもも が入って来ました……



(……ももか

魔物と楽しそうに話して……)



…………


ももか と すもも は雪に閉ざされた険しい山中に造られた“シュリンガー公国”の出身でした…………

この国の国民は たいそう魔物を嫌っていました……
交易路は 魔物が出没し
襲(おそ)われる人々も少なくありません……

そのため 公国に入ってくる品々は少なく 値段も高いのです………

“自分たちが貧しいのは
魔物のせいだ!”

“魔物は見境(みさかい)なく人を襲(おそ)う!”

“人と魔物は共存(きょうぞん)できない!”

“魔物は滅(ほろ)ぼすべきだ!”

そう考える人々が多いのも 仕方ないのかもしれません………


公国(シュリンガー)の民(たみ)たちは“成人の儀”を迎(むか)えると冒険者となって国を出て
魔物退治に就くことが義務づけられています……これは連邦(アブル)も同じなのです…………


“魔物を倒(たお)さなければ 自分たちが滅(ほろ)ぼされる……”

そう考える冒険者が ほとんどなのです

だから 人と魔物が共存する共和国(マーロ)は すもも にとって理解(りかい)しがたいのです

ましてや 公国(シュリンガー)出身の相方(パートナー) ももか や さな が魔物とも仲良くしていることが
すもも には解(わから)ないのでした………


………………………



絨毯(チェックのカーペット)の上
四隅(よすみ)に 背もたれ付き椅子(いす)が向かい合わせにが置かれ

すもも は 正面に ももか が座っている椅子(いす)の向かいに着席(つ)くよう
メイドのナナに案内されました

さな の正面には ベルにゃん が座っています……



「ニャニャ…すもも に お茶(ピンクティー)をにゃ…」



「か…かしこまりました……」



温められたティーポットに 茶葉が入(はい)り ヤカンの お湯が注がれます

ティーポットの中で 開いた茶葉が踊(おど)り 甘い香りが 微(かす)かに漂(ただよ)わせ始めました……

すでに温められた白いティーカップに 薄い桃色(ローズピンク)が満(み)たされ 甘い香りが 一気(いっき)に広(ひろ)がりました………



「!?……

これは! 発明家エージンの!!」



「にゃ?

ピンクティー(それ)は 万田(マンダ)から もらった物にゃ

エージン とは 誰にゃ?」



「それね すごく めずらしい物なんだよ〜

わたしの レシピ帳 にも まだないんだ〜

すもも は 持ってるの?」


「いえ……まだ 持ってないわ……

それと……

エージン の事は 魔物には関係ない…」



すもも と ももか は以前
南側の“国境沿い”で暮らす “発明家エージン”と会い お茶とお菓子をご馳走され(いただい)た事があるのです
その時 出された お茶がエージンの考案した“ピンクティー”でした

ベルにゃん と さな は
エージンと会ったことは
ありません

ピンクティーを エージンが考案したことも
もちろん 知りませんでした……


発明家エージンは
ピンクティーの作り方を
独自に考案しましたが
レシピには残しませんでした………

レシピをめぐって争いが起こる事を恐(おそ)れたのかもしれません…………



「ベルにゃん
万田(マンダ)ってだれなの〜 (*^-^*)」



切り分けられた ケーキの載(の)った小皿を メイドのナナから ももか は受け取り 質問し(きき)ます



「なぜ……ピンクティーを?」



受け取った ピンクティーを ひとくち飲むと

すもも も問(と)いかけました………



「……連邦(アブル)の“炎の洞窟”
そこに住む 魔物にゃ…

会いに行くと 何か もらえるのにゃ…」



「サラマンダの
サラ・万田(マンダ)さん……

ときどき 会いに行くんだ〜

ひとり暮らし してるから
行くと スッゴく喜んでくれるんだよ♪」



「あ〜
いちばん奥(おく)の宝物庫(たからべや)の……」



ももか は思いだしたようです



「魔物が……喜ぶ?

………バカみたい……」



すもも にとって魔物は
討伐(たお)すべき相手(モノ)です
相手が話しかけてきても まともに会話などしたことはありませんでした…

すもも の言葉に
魔物である ベルにゃん のしっぽがピクリと動きました……



「すもも〜

このケーキ おいしいよ〜」


「ももか…
ケーキなら わたしの合成で……」



「すもも…さま

こちらを……どうぞ……です」



メイドのナナが ケーキの載(の)った小皿を すもも に勧(すす)めます



「すもも も食べてみてよ〜
すごく おいしいんだから〜

ん〜

おいしい〜〜
("⌒∇⌒")」



しあわせそうな顔をして
食べる ももか を見て

すもも は メイドのナナからケーキを受け取り
空(あ)いたたティーカップを
ナナに返します……


「じゃあ ひとくちだけ……」



と 口にフォークを運びました………



「………!!


ナニこれ!!

おいしい〜〜」



すもも の顔が ほころびます…



「でしょ!

紅茶も おいしいよ〜」



メイドのナナに お茶のお代わりを 煎(い)れてもらった ももか が
その手に白いティーカップに注(そそ)がれた 赤みがかった琥珀(こはく)色の紅茶を飲んでいます

ももか のケーキの載った小皿は
テーブル代わりのブロックの上に置いてありました



「すもも…さま も

いかが…ですか?」



ティーポットとティーカップを手に メイドのナナが
座っている すもも の隣(となり)に立ち 聞いてきました


「……いただくわ」



返事を返す すもも に メイドのナナ は ティーカップに慣(な)れた手つきで ティーポットから 紅茶を注ぎます

ティーカップから 紅茶の香りが 広がりました……


「…すもも…さま

…………どうぞ…」



「ありがと……」



メイドのナナから
すもも はソーサーに載(の)ったティーカップ を受け取り ひとくち 口に含(ふく)みます………



「ん〜〜」



くちのなかに 紅茶の香りが広がりました………



「おいしい………」



すもも の顔に笑みが浮かびました………



「気に入って もらえたようにゃ……」



ベルにゃん も 紅茶の お代わりを メイドのナナに注(つ)いでもらっています…


「べ…別に……魔物の出す
紅茶がおいしいかった…わけじゃないし……」



すもも は思わず ベルにゃん から顔をそむけます………………



「………それでね〜
共和国(マーロ)の
魔物神父がね〜…………」


……………………………


5人は しばらく談笑(だんしょう)を続(つづ)けます


……………………



「ご主人さま……
日が 傾(かたむ)いて きました………

今夜は どう……されます?」



いつの間にか
ベルにゃん の側(そば)に
メイドのナナが 近づき囁(ささや)きます……



「……にゃ

そんにゃ時刻(こく)かにゃ…………


………………


ももか すもも

きょうは 泊(と)まって
いっては どうかにゃ?」



「えっ?

ベルにゃん いいの?」



「ももか たちが泊まって
くれると わたしも うれしい♪」



ももか と さな は賛成のようです



「…こ…の…
バカ魔物〜〜〜!!

こんな……屋根も……壁も
ないところに わたしの ももか を
泊める つもり〜〜〜!!

わたしは 反対だからね!」



すもも は反対みたいです


「にゃ……

“ベルにゃんとさなのへや”(ここ)に 泊まるには
この季節
夜は 冷えるにゃ……

となりの山道を登ったさきに
小さな屋敷(いえ)が あるのにゃ……


そちらに案内(あんない)するにゃ………」



「……魔物の住み処(すみか)でしょ

家(やしき)とは名ばかりのの 物置小屋 なんじゃないの?」



すもも が 訝(いぶか)しみます



「ちゃんと 屋根も壁も あるにゃ……

暖炉(だんろ)も あるから
寒くは ないにゃ」



「そうだよ〜

とっても いい家(ところ)だよ

庭には サクラも植えてあって キレイなんだ〜」



「えっ!?

サクラ!!

見たい 見たい〜!!
(* ̄∇ ̄*)ノ」



さな の説明に ももか が
はしゃぎます



「……ももか は 本当に サクラが好きなんだから……

…………わかった

案内してよ 魔物……」



すもも も 行く気になったようです………



「にゃにゃ………

聞いての通りにゃ

4人 お泊まりで頼(たの)めるかにゃ?」



「か…かしこまりました

で……では さきに行って
ご用意します……」



紫(むらさき)と白に塗りわけられた
傘(パラソル)を開くと
メイドのナナは 空に舞(ま)い上がり そのまま“山頂へ続く道”の頂上へ消えて行(ゆ)きました…………



「ナナ〜〜
お願いね〜〜〜」



さな が手を振(ふ)って
メイドのナナを 見送ります……



「ちょ…ちょっと さな!!
何あれ……
ひとが飛んでるじゃない?!」



「ベルにゃん 何あれ〜

ヾ(゜0゜*)ノ?」



すもも と ももか は驚きです



「あ あれは……」



さな が言葉につまります


「……あの傘は マウントにゃ

失われた古代錬金術の一つにゃ……」



………空中浮遊(飛べるの)は ナナが 自動人形(オートマータ)だからでした
傘がマウントというのは
ベルにゃんのウソです
自動人形である事は ベルにゃん達以外の他人には隠(かく)しているからのことでした………



「そろそろ ワタシ達も出発するにゃ

太陽(ひ)が落ちるまえに
頂上に着くにゃ」



「そうだね はやく
出発しよ?」



「わかった 話の続きは ベルにゃん の家で しよ

ね〜 すもも」



「だから ももか〜
わたしは 魔物とは 話したくないって…」



“ベルにゃんとさなのへや”の 喫茶コーナーとは反対側に“山頂へ続く道”への出入り口が あります
そこへ向かって4人は おしゃべりしながら移動します
小さな舞台(ステージ)の前を通り つきあたりの角(かど)に植えられたリンゴの木を
右に曲がると左手に 草のブロックと石のブロックを組み合わせた出入り口がありました………

ここから“山頂へ続く道”へ入ることができるのです


ベルにゃん を先頭に4人は門をくぐりました………


魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜前編〜 おわり