…………



ワタシ達は ”マーロ共和国”を出て”実り多き半島”に入った……

ワタシとパートナーと店主のリズの三人で”マウントの笛”の効果を試す為である………
……共和国内では笛の効果は現れなかった……
町の中では”マウント”は呼び出せない事がわかったからである……



“実り多き半島”……
ここには 巨大な水車が ところどころに
存在(あ)る……

仕組みは解(わか)らないが回転する事で今でも 地下から水を汲(く)み上げつづけている……

しかし 直(なお)せる者も跡絶(とだ)えたのか そのほとんどは軸受けから水車が外(はず)れ 崩(くず)れたまま 修復(メンテナンス)もされず その表面(ひょうめん)は苔(こけ)むし 朽(く)ちるに任(まか)せていた…
その水車の足元 湧(わ)き出していた地下からの水も既(すで)に途絶(とだ)えて久(ひさ)しい……
その周(まわ)りには草が生い茂(おいしげ)り 時おり“ハーブ”が採集出来る場所もある……

いまでは わずか数台が動いているのみである………


南国の強い日差しのなか どこまでも青い空に 力強く白い入道雲がモクモクと立ち上がり ゆっくりと流れてゆく………

この半島は南北を遠浅(とおあさ)の海に囲まれ 釣りもできた…

ここではヒラメ(ビーチフラウンダー)がよく釣れた………

他にも“アオバカツオ”や“トコナツ・クマノミ”が釣れるのだ……

もう一ヶ所の釣り場では
トビウオ(フライングフィッシュ)や“クーロクロマグロ”“メガロシャーク”が釣れる……

……釣りをして過ごすのもよいが 今回ワタシ達は
“マウント”について“実り多き半島”に足を踏み入れたのだった……


………………


人々が踏み固めた通り道から少(すこ)し外(はず)れると 茂(しげ)る草が踝(くるぶし)を隠すほど伸びている…



「ここらへんで いいじゃない?……」



共和国服(青)の上下を着たパートナーが辺(あた)りを見回(みまわ)している…



「そう…ですね〜
魔物も近くに いないみたいですし……」



黄色い女給(ウェイトレス)服を着た 店主のリズが あいずちをうつ……



「……そうだな
近くに
“トレント”や“アラビーヌ”の姿は 見えないな……」



共和国服(赤)上下を身に着けたワタシも周囲(まわり)を見渡(みわた)す…


遠くに老人の顔をした
動き回る大木が見える……
“トレント”と呼ばれる魔物だ…
身体が木だから火に弱いと考えがちだが…“水属性”なので弱点(ウィークポイント)は“土属性”の武器や魔法が効果的なのである…
属性の相克(そうこく)を覚える為 ワタシなりに水は土に塞(せ)き止められる…
と考(かんが)えた……

川の水は土で堤防(ていぼう)を作り
溢(あふ)れることを防(ふせ)ぐからだ……


頭に赤いターバンを巻いた 茶色い毛並みをした二本足で歩くイヌも見える……
カトンのジツを使う“アラビーヌ”と呼ばれる魔物だ……

この魔物は“土属性”なので“風属性”で攻撃するといい……

ワタシは土塊(つちくれ)は風に吹き飛ばされ粉々(こなごな)になる…
と覚える事にしている……


「………キミ!!

…………………

また 考えごと?……」



パートナーの声に
ワタシは我(われ)にかえる………


つい考えごとに耽(ふけ)ってしまった……


「……あぁ すまない

“マウントの笛”

試(ため)してみるか……」


ワタシは
海から吹く風に 濃い緑色の髪と公国服(黄)の右側に長く伸びた裾(すそ)をなびかせつつ
パートナーの問いに答えた……



「はやく〜

やってみようよ〜」


「おねがい しま〜す」


ふたりに せっつかれ ワタシは先(ま)ず”熊車の明笛”を吹いてみた……



……………………



「あっ!!」



パートナーの声にワタシは振り返る(ふりかえる)……
目前(もくぜん)にワタシの背丈ほどもあるだろうか?
丸い顔を持つ…白い…四つ足の物体がゆっくりと出現(あらわ)れた………



「これが…

アニマル…カー?……」


パートナーが息をのむ……


「……思ったより

大きいな………」



初めて見る物体に
ワタシも驚(おどろ)きと興味(きょうみ)を持って
しげしげと眺(なが)める…


「それは……シロクマ…を模(も)したモノらしいです…」



マウントに関(かん)する記述(きじゅつ)のある羊皮紙を片手に 店主のリズが説明(せつめい)する………



「……確(たし)かに 生き物(いきもの)を模倣(モデル)したモノらしいな…
見たところ
呼吸(いき)はしていないし体表も硬い……」



「ほんとだ〜

ぜんぜん うごかないね〜」


ワタシ達は“アニマルカー”を見て回りながら触(さわ)ってみたり 覗(のぞ)きこんだりした……



「……えっと 背中(せなか)に乗(の)って……

操作(そうさ)する みたいで〜す」



店主のリズが説明してくれる……



「背中(せなか)って
あの青い布が巻(ま)いてある ところ?」



「そうで〜す
そこに……座(すわ)って……
進(すす)みたい 止(と)まりたい… 右(みぎ)へ行(い)きたい 左(ひだり)へ行きたい……
と思うだけで いいみたいで〜す」



「へ〜
かんたんそうだね♪」



「……なるほど
魂(たましい)の繋(つな)がり……とは そういう事か………」



店主のリズの説明(せつめい)を聞き ワタシは納得(なっとく)する



「えっと…たましいの 接続(つながり)が無(な)いと うごかないってこと?」



「そういうことで〜す」



ワタシ達は ひととおり“アニマルカー”を調べた……

………………



「ねぇ きみ

乗(の)ってみようよ?」



「……そうだな…」



パートナーの声に ワタシは“アニマルカー”の背に手を伸(の)ばした……

……………

…………………



「……困(こま)ったな
背中に乗(の)ろうにも
手が届(とど)かない……」


いろいろ試(ため)すが
背の低いワタシでは
どうも上手(うま)く
いかない……


「わたしも 届かないよ〜」


ピョンピョンと

パートナーが跳躍(ジャンプ)するが “アニマルカー”の背に 手が届(とど)かない……

彼女(パートナー)は
ワタシより さらに
背が低いのだ………



ワタシ達の様子(ようす)を見て 店主のリズが何か気づき声をかける……



「……!!



2人とも!

強く 心に思ってくださ〜い!
背中に乗りたいって!!」



「………!!
そうか!」



「そうだよ!

魂(たましい)のつながりだよ!!

やってみよ?」



ワタシ達は気づいた……
マウントにとって必要なのは “乗りたい” という
強い気持ちだということに……



……ワタシは目を閉じ
初めて “熊車の明笛”を吹いた時のことを 思い出してみた……

……暗やみのなか 丸く白いモノが見えた……

そうか!

あれは“アニマルカー”の顔だ!!

さっきまで 見て 触って いた “アニマルカー”の全体を思い出す……

まだ乗った事がないが
その背に座るワタシ達を
強く想像(イメージ)する
…………

ワタシとパートナーは
目を閉じたまま
強くお互いの手を握った…


「「騎乗(マウント)!!」」



ふたり同時に叫ぶ!!



目の前のワタシ達に とっては大きな白い物体(アニマルカー)が消え

次の瞬間

ワタシ達の視界が高くなった……


「……!!」



「あっ!」



パートナーの驚きの声……


「成功で〜す」



足元から店主のリズの声が聞こえる……

ワタシ達は“アニマルカー”の背に横座りしていた……



「たか〜い!!」



ワタシの後ろでパートナーの はしゃぐ声が聞こえる
高い位置から見る景色は
いつもと違って見えた……



「………

動かしてみて くださ〜い」


下の方で 店主のリズが手をふっている…


ワタシは “アニマルカー”の首もとから伸(の)びる丸い金属の輪(ハンドル)を
両手で掴(つか)む

ここを握(にぎ)っていれば振(ふ)り落(お)とされる
事はないだろう……



「……行くか」



緊張(きんちょう)の為(ため)か
声に力が入る……



「いつでも いいよ♪」



ワタシの腰(こし)に その右手を絡(から)め
左手は“アニマルカー”の背に置(お)いて
パートナーが声をかける…

その声に ワタシの緊張(きんちょう)が緩(ゆる)んだ……
彼女がパートナーで よかった……
心にわき上がってくる
不安(ふあん)も恐(おそ)れも彼女(パートナー)の顔を見(み) 声を聞くだけで
たちまち霧散(むさん)してゆく……


…………………


心(こころ)が落ち着いたところで ワタシは深く息を吸い ゆっくりと…はきだす……
手元(てもと)の金属の輪(ハンドル)を軽く握(にぎ)り自分が前へ歩く様子(さま)を想像(イメージ)してみた………



!!………



「うごいた!!

やったよ キミ!」



嬉(うれ)しそうな声が後ろから聞こえる…

身体(からだ)に伝(つた)わる衝撃(しょうげき)もなく
すべらかに“アニマルカー”は前へ進む…
下を見ると
胴体(どうたい)に接続(せつぞく)された軸(じく)を中心に脚(あし)を前後に動かしいるのが見えた…
しかし脚を使って歩いているわけではないようだ

左右(さゆう)にも思ったとおりに進む

しばらく動かしてみて
後ろには進まない事がわかった…
後方(こうほう)へは
クルリと後ろを向き前へ進むのだ……

“実り多き半島”をしばらく進んでみる…

……確(たし)かに速(はや)い
普段(ふだん)ワタシ達が
走って移動するより速いのだ
しかも座(すわ)ったままである……



「あっ キミ!

あそこに“銅鉱石”があるよ!!」



パートナーが指差(ゆびさ)す……



「……あれか……」



ワタシも落ちている銅鉱石(アイテム)に気づいた…



「キミ! もっと近づけて…」


「……わかった
そばに 寄(よ)せよう……」


“アニマルカー”を
アイテムの傍(かたわ)らにに近付(ちかづ)ける……

……と



「えっ?」



「……?」



パートナーの手に“銅鉱石”が あった……



「…これって

どういうこと?」



「…………

降(お)りなくても
アイテムが採取(さいしゅ)できるらしいな……

……しかし

どういう仕組(しく)みなのか……」



「キミでも わかないこと
あるんだ……」



「……色々 考えられるが
これだとは 言いきれないな……

……………

……ワタシは 解(わか)らないことを理解(わか)りたい……
その為(ため)に旅を続けているんだと思う……」



「ふ〜ん
わたしには よくわかないけど…
キミは キミの思うとおりにすれば いいんじゃないかな……

わたしは わたしの思うとおりにしか できないけど………」



「………あぁ

そうだな……」



「うん
そうだよ!」



ニッコリと笑う
屈託(くったく)のない
パートナーの笑顔

普段(ふだん)は仏頂面(ぶっちょうづら)なワタシだが
その頬(ほほ)が自然(しぜん)と緩(ゆる)むのを感(かん)じた…………



……………………………



ワタシ達は “実り多き半島”を“アニマルカー”で しばらく走り回った後(のち)
店主リズの前に戻(もど)ってきた……



「どうでしたか〜?

気づいたことや
感(かん)じたことを何(なん)でも
いいですから
教(おし)えてくださ〜い」


店主リズの声に ワタシ達は騎乗(マウント)を解除する
アニマルカーは 揺(ゆ)らぐ景色(けしき)の向こうへ入って行(い)くと
完全(かんぜん)に見えなくなった………



「………そうだな

足元が見えにくいのが
難(なん)…かな……」



「いどう中(ちゅう) 暑(あつ)かったかな?」



「……それと
横座(よこすわ)りで長距離(ちょうきょり)は腰が痛くなるな………」



ワタシ達は感想を述(の)べあった……



「……なるほど
貴重(きちょう)な ご意見
ありがとうございま〜す


それと コレは お約束の交換品“飛行板のうなり笛”と
賢者の虹晶片50個で〜す

今回の報酬として お渡ししま〜す」



ワタシ達は それらを受け取る…………………



「……余(あま)っていた“銘菓の短笛”との正当な交換だから報酬(ほうしゅう)とは言えないが……

まぁ そういう約束だからな……」



「でも 騎乗(マウント)について いろいろ
おしえてくれたよ?」



「…………………

……そうだな
情報も報酬のひとつだしな
モノばかりが報酬ではないか………」



パートナーの言葉に
ワタシなりに納得(なっとく)する



「納得(なっとく)していただいたところで……

わたしは3国(さんごく)のどこかに いま〜す

ごようのおりは 訪(たず)ねて来てくださ〜い

…他(ほか)のマウントについて気づいたことや感じたことが ありましたら
その時(とき) お話して下さると こちらも助かりま〜す

………………

では わたしは報告書をまとめますので
これで 失礼しま〜す


また お会いしましょ〜……」



店主のリズは ワタシ達に
一礼(いちれい)すると
マーロ共和国の方(ほう)へ歩み去った
無論(むろん)彼女の言(ゆ)う3国とは“マーロ共和国”“アブル連邦”“シュリンガー公国”……の事(こと)である………



「またね〜」



パートナーは 去(さ)り行(ゆ)く リズの背に手を振(ふ)って見送(みおく)った…………



「……ねぇ
これから どうする?」



パートナーの紺碧色(こんぺきいろ)の大きな瞳(ひとみ)が
ワタシの どこか眠たそうな暗緑色(あんりょくしょく)の瞳を覗(のぞ)き込んでいる………



「……そうだな

風の吹くまま……気の向くまま……旅を続けるか……」



「そうだね
それが きみのスタイルだもんね……

わたしは きみと

いつまでも…

どこまでも…

いっしょだよ……」



「………………」



ワタシは 黙(だま)って
店主リズから受け取った

“飛行板のうなり笛”を吹いた……


……………………


軽い衝撃(ショック)と共に視界が高くなる

が“アニマルカー”の時(とき)よりも見える景色(けしき)は低く感じられた……

足元を見ると笹の葉に似た板(ボード)がワタシ達ふたりを載(の)せ 地面より
フワフワと浮いている

ワタシは飛行板(フライングボード)の後ろで両手を軽く広げ バランスを取る……
パートナーは前に座り
前方を見て進むべき方向を
ワタシに指示(ナビゲート)してくれる



「きみは どこへ行きたい?」



パートナーの白灰色の後ろ髪を見つめながらワタシは…………



「……そうだな

どこか静かな所で釣りがしたい…………」



「わかった
この近くで釣りができる
静かな所だね……」



………………



「“石化した村”で
いいかな?」



「……あぁ
道案内(ナビゲーション)を頼む…」



「ちょっと待ってね…」



パートナーは地図を広げ
目的地までの道順を確認している……



「よし!

じゃあ 行くよ♪」



「……あぁ
任(まか)せた…」



気ままに目的地を決めるとワタシ達は出発する

パートナーとの
ふたり旅は いいものだ
お互(たが)い気兼(きが)ねなしに旅ができる……

ボンドを抜(ぬ)けて数ヶ月
ボンドメンバーとの関わりは無くしたが
特に不自由なく日々(ひび)過(す)ごしている

強力な魔物と協力して戦うことは出来なくなったが

それならば戦わなければ良いだけのこと…

ワタシは冒険者には向いていないと思う……
正直(しょうじき)魔物とは戦いたくないとも思っている
しかし この世界の慣習(ならわし)で冒険者となって魔物退治をしなくてはならない……


冒険者は強さを求める…
より強くなって さらに強い魔物退治をするため……
しかし ワタシは強さを求めない 魔物退治も日々の生活のためにしている…

ワタシは この世界の景色が好きだ
だから釣りが好きなのかもしれない……
景色を眺(なが)めながら
何が釣れるか楽しめるから

……景色を堪能(たんのう)し
知識を深める……
そんな日々を過ごしたい………

それが ワタシの願(ねが)いなのかもしれない……



「もうすぐ“石化した村”だよ!」



物思いに耽(ふけ)っているうちに“山と海とビーチ”を抜けて 村の近くまで来てしまったようだ



「ずいぶん早く着いたね

それに ここからは歩きだよ」



「……確(たし)かに
早い到着(とうちゃく)だな………

村の中ではマウントは使えなかったな……」



「うん 人(ひと)とぶつかると相手にケガさせてしまうからね…」



「……あぁ

そうだな
そのとおりだ……」



「ハイボウさんに挨拶しに行こう?
それから あの娘(メアリ)の様子も 見に行って……」


「……そうだな
この村でも 色々あったな……」



この村の石化した人々を
成り行きで助けたり
奴隷少女救出を魔物(オーク紳士)と一緒に手伝ったり……
冒険してきた事を思い出す……


これからもワタシ達の冒険は続くだろう……
冒険が続くかぎり
この記録帳(ひとりごと)も書き続けられると思う…………


ここまでで いったんペンを置くとしよう…………




ある冒険者のひとりごと…24…魔物ちゃんの交換品 ー後編ー 終わり………