……………




“マーロ共和国″
“クリシュナ魔王国″
“アブル連邦″
“シュリンガー公国″………

4国の共同出資によって建てられた“アルスト学園″………
ここは ヒトと魔物の学舎(まなびや)………

今回 互(たが)いの文化を理解しようと 1人の少年の提案によって 初めて“文化祭″が開催される事になった……
ヒトと魔物 考え方 習慣の違いによるトラブル……
それの解決を
学園の魔物教頭から依頼を受け 学園祭提案者の少年と共に解決し
ワタシとパートナーは学園祭を一巡(ひとめぐ)りしていた………



ヒト側の出し物は 校舎前庭で 食べ物や古書の模擬店を出すというもの



魔物側の出し物は 校舎内一階から三階の各教室にいる ゲルミ属
水属性“フリョミ″
火属性“マナミ″と戦い 文化祭会場で使える商品券をもらえる というモノ……

一階の広間には
土属性 “バンチョウ″が待ち構え 倒すとバンチョウの証(あかし)たる“第2ボタン″と 不思議な塗料が貰(もら)えた……



一階の広間から階段を上がると二階のテラスには
冒険者の描(えが)いた絵画が飾られ人気投票が行(おこな)われていた

テーマは“イベントの思い出″一次審査を通過した10枚……
なかなかの力作揃(ぞろ)いだ
パートナー共々(ともども)ワタシは絵を見ていく……


ミステリーエッグ……

ホワイトデー……

夏のスイカ割り……

お月見……

プール開き……

マーロ・テーマパーク……

…………

………ハロウィン

その絵の前で ワタシの足は止まった…………



「カボチャの魔物?…かな………
それと男の子だね

この絵を見ていると あのときのこと 思い出すね」



ワタシの後ろから
その絵をパートナーが覗(のぞ)きこむ……



「そうだな……」



そこに描(えが)かれた
ランプを提(さ)げた カボチャ頭の魔物(ジャック・ランタン)と向き合う少年……
絵(それ)を眺(なが)めていると
魔王国(クリシュナ)でのハロウィンを思い出す……
魔物とヒトの友情の物語を……

…………………

その絵を眺(なが)め 物思いに耽(ふけ)っていると



「げっ!!

お前たちも 来ていたのかよ」



聞き覚えのある声に ふりかえると

“巫女の住み処″で焚き火を囲んで 酒を酌(く)み交わしたこともある“彼″が居た……



「久しぶりだな……」



「元気そうだね」



ワタシとパートナーは
ハロウィンをテーマにした絵を背後に挨拶する

焼きそばパンを口にくわえ
下衣を学生ズボンに
腹にサラシを巻いた
その姿は
彼なりの不良ファッションらしい……
ご丁寧(ていねい)に金属バットまで背負っている



「この学園に入学していたんだね」



「最近まで 停学中だったけどよ

いや そんなことは どうでもいい……
お前らこそ なにしてんだ?」



「まぁ……ここの魔物教頭からの依頼も解決したしな
学園祭の見物……ってとこだな」



「そうかい
せいぜい学園祭を楽しむがいいだろうよ」



「ねぇ この絵に描かれた
男の子
きみじゃない?」



パートナーが背後の絵を 指さし 彼に尋(たず)ねる



「はぁ?

こんな魔物 知らねぇよ

それに 俺さまのほうが
はるかにハンサムだろうよ」



「そっか やっぱり忘れてるんだね」



「しかたない………

そういう“キマリ″だったからな………」



ワタシ達の会話に 彼は怪訝(けげん)な顔をする



「……?

おかしなこと 言ってないで これやるから
とっとと失せな!」



ワタシに 彼が何か投げてよこした………



「これは “鋼鉄のアルケミスト″……

いいのか?」



「俺さまが持ってても
じゃまなだけだからな

ゴミ箱に 捨てただけだろうよ


じゃ あばよ!」



そう言うと彼は 一階のほうへ降りて行く

ワタシ達は 絵の展示してある二階のテラスに留(とど)まった

目前の壁には
“シュリンガー(公国)″
“アブル(連邦)″
“マーロ(共和国)″
“クリシュナ(魔王国)″……
4国を示すタペストリーが横1列に飾ってある…………

ワタシの手には 彼がよこした本(鋼鉄のアルケミスト)があった



「これって キミが以前 手に入れた 本だよね?」



「いや……タイトルと登場人物は同じだが 内容が違うようだ

それに物語が 途中から始まっていて 話も完結していない……」



ワタシは ざっと中身に目を通して パートナーに答えた



「ふ〜〜ん?

とちゅうなんだ

鋼鉄のアルケミスト(それ)集めるの?」



「どうかな……

巻数が いくつあるのか
わからないしな………

この“鋼鉄のアルケミスト″(タイトル)は
人気作なのか…

もともと発行部数が少ないのか……
店頭で見かけないな……」


錬金術のレシピは たまに見かけるのだが……




「そうだね〜
きしょう価値が高いのかな?」



「好事家(こうずか)は
欲しがりそうだが……

はたして 物語は完結しているのか……」



「そういえば
この校舎の下の階に
珍品博物館が お店を出してるって
文化祭実行委員会の子が言ってたね」



「あぁ……
世界中の珍品が展示されてる
出張所…? とかなんとか……

今 ワタシ達は 校舎二階にいるな

………………

ちょっと行ってみるか」



「うん いこう!」



ワタシ達は 二階教室に続く ステンドグラスの嵌(は)め込まれた扉(とびら)を開け 風船て飾り付けられた廊下を進む
廊下の窓からは 出店で賑(にぎ)わう前庭が見てとれた………

ふたたび 光を透かすステンドグラスが美しい扉を
くぐり抜け 三階と一階に続く階段の間に出て
階段を降りる………


「一階も 魔物との戦闘展示場みたいだね

さらに下の階かな?」



パートナーが扉の隙間(すきま)から 一階廊下を覗(のぞ)くと
文化祭に訪(おとず)れた冒険者が教室を出入りしていた………



「ふむ……

下に 降りてみるか……」



ワタシ達は さらに階段を降りる………


……………………


開きっぱなしの引き戸の 向こうには 簡素な壁で仕切られた 狭(せま)い空間があった

奥のカウンターには 見覚えある魔物が店番をしている



「ブフッ!

いらっしゃ〜い

儂(ワシ)が この珍品館のオーナー

“成金オーク″

珍しい物 があれば交換するぞお…」



「ふむ……

前回の 周年祭(アニバーサリーパーティー)以来か……」



「あれは すごかったね」



「ブフフフフ!

儂(ワシ)の 資金力(Zell)と
魔物仲間(人脈)を 使えば
簡単なこと

今回は 魔物教頭からの 依頼(たのみ)で珍品を展示しておるのだあ!

壁に掛けてある 絵画複製品(コレクション)

見ていくと いいぞお」



金色の身体に ほの暗い赤いラインの入った濃茶色のシルクハットを頭に乗せ
金のストライプ入り茶金色のスーツを着た 成金オークが
両手を広げ 白いひげをたくわえた口元を歪(ゆが)める



「では 拝見させてもらおう………」



「ブフフフフ!
世にも珍しい“異世界の絵画″
ぞんぶんに 堪能(たんのう)するがいいぞお」



ワタシ達は 額縁(がくぶち)に嵌(は)め込まれた絵画を 1枚 1枚 見ていく……


「かわった絵だね〜」



「…………そうだな」



パートナーの素直な感想にワタシは 相づちをうつ……

人物と風景画が1枚 胸像肖像画が二枚 大きなサイズで描(えが)かれている

それに風景画だろうか?小さな山と大きな波が縦横1ブロックに収まる大きさで描かれていた………



「しかし…この風景画

…ずいぶんと

デカイな……」



「この かがんで何か している人の絵
4対5ブロックくらい…あるよね」



「あぁ……そのくらいは
ありそうだ…」

ワタシの身長が2ブロックに少し足りないくらいだから かなり大きい事になる……



「ブフフフフ

それは“三人の農婦″

それに“微笑む貴婦人″
“振り返る少女″
“荒波と漁師たち″……
どれも ここでしか見れない珍品だぞお

………………………

ブフッ!!
前回の周年祭(アニバーサリーパーティー)のときのよしみで
気に入った絵が あれば
1枚につき1回だけ
珍品と交換するぞお!

ブフッ 我ながら いい考えだぞ
ブフフフフッ」



「ふむ 珍しい物か………」



ワタシは 少し考えた



「……これは どうだろう?」



カバンから
“彼″から受け取った本
“鋼鉄のアルケミスト″

“バンチョウ″と闘い
手渡された
“不思議な塗料″
“第2ボタン″

を次々 取り出す……



「ブフッ!?

これは なかなかの珍品

まずは
“鋼鉄のアルケミスト″
“不思議な塗料″
対応する“属性オーブ″

各属性の書かれた“魔法書(グリモア)″と交換してやるぞお

“第2ボタン″のほうは…

そうだあ!
絵画(え)と交換してやるぞお!」



「ふむ 魔法書か……

対応するオーブという事は五種類あるのか?」



「無属性 火属性 水属性 風属性 地属性 の5つだね」


パートナーが指折り数える……



「ブフッ

交換できるのは
真紅(火) 群青(水) 深碧(風) 琥珀(地)の4種類だぞお

見たところ 交換できる本は1冊のようだなあ

交換後の返品は できないから よく考えて 選ぶと いいぞお
ブフフフフフ」


「キミ どれにする?」


「そう…だな……」



ワタシを見つめる
パートナーの紺碧(ディープブルー)色の瞳
それは 深い水底(みなそこ)を思わせるようだ……



「土剋水……土は水に勝つ……か……

……………ふむ
琥珀の魔法書(グリモア)にしよう……」



「ブフフフフ
鋼鉄のアルケミストと
不思議な塗料
それに土のオーブ(大)

たしかに交換したぞ

絵画(え)は どうするのだ?」



「ねぇ 4枚とも もらっちゃおうよ
ハウジングで いつか使うかも」



「家具は あまり置けないのがな………」


家具は50種類 合計100までしか設置できないのだ……



「そこは キミの腕のみせどころ だよ」



「………それも そうか……


4枚とも もらおうか」


第2ボタン ……ワタシにとっては無価値だが 成金オークにとっては価値の在るものらしい ……
価値観の違い それは 個性でもあり 時に争いの原因にもなる
面白くもあり それでいて やっかいなモノである………



「ブフフフフ
珍品があれば 相応の儂のコレクションと交換してやるぞ
これからもヨロシクだぞお」


「……あぁ そのときは交換を頼む」



「成金オークさん またね♪」


ワタシ達は 珍品博物館アルスト学園主張所 を後にした


「ねぇ これからどする?」


飾り付けられた校舎内
その廊下を歩くパートナーの短いツートップ髪が揺(ゆ)れている


「一度 共和国(マーロ)に戻ろう……
改築中の家に絵を置いてみたい

それに……」



「それに?」


「今日は もう休もう……」


「そうだね いったん休んで
ハウジングを進めようか?
なにか いい考えが うかぶかも?」


「そうだな……
内装の方向性が決まるといいのだが………」



ワタシは 来訪者たる 元騎士団長”おうち大好きおじさん”から譲(ゆず)り受けた家屋設計図を使って
2軒目を建築(た)てたのだが 内装に迷っていた………
………なにか よい考えが
浮かぶといいのだが………

…………………

考えが

まとまらず

とりとめなく

パートナーの後ろを
ワタシはついてゆく……



客引きの明るい声

人々と魔物の ざわめき


模擬店と巨大な青いモニュメントが設置された 学園前庭を通りすぎ

構造物(アーチ)で飾られたアルスト学園の門を抜け その先にある
乗り合い牛車停留所 前に辿(たど)り着いていた………



「牛車で帰ろうか?」



パートナーの声がした……



「あっ!

…………あぁ

……そう……だな……

……魔法書(グリモア)も読んでみたいしな……」



マウントで帰ることも出来たが マウントは自分で操作しなければならない

Zellを払ってでも牛車を使った方が楽に移動出来る……

……ワタシは そちらを選んだ……


…………………

牛車に乗り込むと
ツノ牛に牽(ひ)かれた
屋根付きの荷台がゆっくりと動き出す
共和国(マーロ)に向かう客はワタシ達だけのようだった……



「ねぇキミ!
さっき言ってた ”どこくすい”ってなに?」



ワタシは読んでいた 琥珀(こはく)のグリモア から目を離す


「あぁ……あれか
五行説 相克関係の1つだな」



「ごぎょう…せつ?

そう…こく?」




「せかいは 5つの事象で説明できる という考え方だ……」



「5つ?

火 水 風 地 の
4つじゃなくて?」


「…火…水…木…土…金…の5つだな」



「へぇ〜

で? そうこく って言うのは?」



「うん

どちらが強いか って事かな……

例えば 水は火に勝ち……
土は水に勝つ

木は土に勝ち

金は木に勝つ

そして 火は金に勝つ

という考え方だな……」



「う〜ん

むずかしいな」



「4属性と 同じ考え方なんだが……」



「あぁ!

水は火に強くて

土は水に強い

風は土に強く

火は風に強い だね♪」



「さらに 相生という考え方も あって……」



「…うん……それは…
また……今度…ね……」



パートナーは かわいい欠伸(あくび)を ひとつすると
ワタシの膝(ひざ)を枕に
“スヤ〜…″と眠りに就(つ)いてしまった

安らかに眠る パートナーを見ていると ワタシは幸せな気持ちになる

荷台に伝わる
4つの車輪からなる単調なリズム
幌の隙間から入ってくる
暖かな陽気……

実に快適な旅だ

ワタシにも 心地よい微睡(まどろ)みが そこまで来ていた……



「共和国(マーロ)に着いたら起こしてくれ……」



ワタシは 御者台に座る
魔物に声をかけると
チップに いくばくかの 賢者石を渡す……

ツノ牛を操(あやつ)る
イヌの魔物
“アラビーヌ″は 軽く頷(うなず)き 石を受け取る

共和国(マーロ)では ヒトと同じく 魔物も仕事に就いている
通貨はZellだが やはり魔物にとっては賢者石の方が喜ばれる
魔法の発動に 石を消費するからだ………
だから 料金とは別に チップ(賢者石)を渡すのである…………



ワタシは 目を閉じ

内装(ハウジング)……

魔法書(グリモア)……

絵画………

のことを考える
夢と現(うつつ)を行き来するうちに
いつの間にか
夢の中に入っていた………



……………………



果てしなく広がる
青い海原 テトラ海……
そこに面した白い砂浜 リプル海岸
その沖合いに 錨を下ろし停泊する1艘の船……

その船の名は“セント・セイナ号″……

その少し高い位置にある操舵所……

舵輪を握るのは
“キャプテン・セイナ″
この船の船長である……
白い肌に ふんわりとした金髪 服から覗(のぞ)く
腕足は 強靭な筋肉に程よく脂肪が載(の)っているのが見てとれた………



「ギルマス!

気がついた?」



「…ギル……マス…?」



彼女の声に ワタシは思わず 聞き返した



「どないしたんや 二代目!

あんさんが しっかりせんと わいら 困るやんけ」



「えっ…

に…二…代目……?

…えっと………貴方(あなた)は?」



「ほんま どないしたん?

先代から このギルド

“君の物語″を受け継(つ)いだんやないかい!

それに ワイのこと忘れたんかい!

ワイや! ワイ!!

副長の“パン王″や」



「…えっと ごめんなさい…

王…さま? が
副…長をしてるんです?

そういえば 王冠…?
にマントをしてるわね………

…船酔い したのかしら
ちょっと ぼーっとしちゃって……」



…………………!?


近くに気配(けはい)を感じ
ワタシは振り向く………



「えっ?

ワタシ………?」



ワタシの視界に ワタシが映る……


白い肌に 艶のある檸檬(れもん)色の髪を2つに分け それぞれを螺旋(らせん)に巻き
肩に垂らしたアンダーロールのヘアスタイル……
それは 間違いなく
ワタシ そのものだった



「キルッシュ!

ふざけるのも そのくらいにしなさい」



「せや せや ウチらの二代目 ビビっとるやないけ」



ワタシを 見つめるワタシの姿が みるみる変わってゆく やがて 黄緑色の髪をした少年の姿になった………



「双剣使いの キルッシュ………

あんた 本当に ボク達の
ギルマスかい?」



「何ゆうとんねん!
間違いなく 二代目ギルマス みゃこちゃん やないかい!!」



「どうだか…

おおかた
ボク達を騙(だま)すため カエルムが化けてるんじゃないかい?」



「いや いや
あんさんが それを言(ゆ)うんかい!!」



「船長(キャプテン)は
どう思う?

船の上では アンタが絶対だし…
アンタの判断に ボクは従(したが)うよ……」



「うーん そうねぇ…

あたまが混乱してるのかも
さっきの“リジッドテイル″の一撃を もろに食らったから その後遺症かしら?
じきに 戻るんじゃない?」


そういえば なんだか頭痛がする…………



「♪…………夜〜
それは 黒と闇〜〜
世界の真実(まこと)は そこに〜〜♪」



「………?」



キャプテン・セイナは
舵輪をから手を放し
両手を大きく広げ
突然 歌いだした………

ワタシの中で 何かがザワつく………



「♪………美しきは
闇(や〜み)〜〜
暗き闇こそ美しく〜〜

夜〜〜

美しき夜〜〜〜

ワタシは〜〜

その中に生まれし

黒き闇を照らす 忌(いま)まわしき 光の申(もう)し子〜〜〜〜

我が名は 美夜子(みやこ)〜〜〜

美しき夜を生きる子〜〜〜♪」



「あ〜〜〜(///ω///)

止めて やめて 歌わないで……

そんな 恥ずかしい歌」



「だって 美夜子(みゃこ)が自己紹介の時 歌ったのよ

いいじゃないの」



「美夜子ちゃん また歌ってな ワイ また聞きたいねん」



「実に 面白い歌だったよね
もう歌わないのかい?」



ワタシは 恥ずかしさに
白い肌を真っ赤に染め
両手で顔を覆(おお)う

どうして あのとき こんな詩を歌ったのか………
思わず その場に座り込んでしまう
この場から逃げ出したい………



「!!
モンスター(敵)だ!!」



“キルッシュ″の叫び声にワタシは 顔をあげる……


色鮮やかな羽を持つ 鳥のモンスター “リジッドテイル″
半透明の体に巨大な目玉と羽を持つ“アイフロート″

このリプル海岸付近に 生息するモンスター………
どちらも空中に いるため 剣を当てるのは至難の業(わざ)だ………



「船長(キャプテン)!
船は 動かせる?」


即座(そくざ)にワタシは セイナに訊(たず)ねる



「錨を下ろしてるから 直ぐには無理ね」



ワタシは少し考える……



「…………

副長! キルッシュ!

ここで撃退(げきたい)するわ

いい?」



逃げるのは無理のようだ ワタシは 船に近づくモンスターを迎え撃つことにした……



「りょうかいや 二代目!
まかしとき」



「ふん!
ボクの双剣の餌食(えじき)にしてやるよ」



なんとも頼(たの)もしい
限りだ……



「みんな…… アイフロートに気をつけて!」



ワタシは注意する



「わたしも 剣を振るおうかしら」



両手剣を軽々と片手で振り回し セイナがウォーミングアップを始めた…



「ええ…

頼めるかしら?
セイナ……」



「まかして!
美夜子(みゃこ)!」



………………



ワタシ達は なんとか
リジッドテイルとアイフロートを撃退することに成功した……
しかし すでに陽は傾き 夜の闇がそこまで来ている

モンスターの さらなる襲撃を避ける為 ワタシは船を さらに沖へ移動させる事にした…………



「このあたりで いいかしら?」



リプル海岸が かなり遠く見える位置に船が止め キャプテン・セイナが問う



「ここまで来れば 大丈夫でしゃろ

さっきは ひどい目に おうたさかい

アイフロートは もう こりごりや…」


パン王が 愚痴(ぐち)っている……

アイフロートの催眠光線を浴びて
戦闘中 しょちゅう眠りに落ちていたのだ
そこを リジットテイルにつつかれるのだから たまったものではない………




「メリーダ村の ヴィット小隊長には 明日 報告するとして……

今夜はここで 夜を明かしましょう」



ワタシは船上での宿泊を提案した



「夜になると モンスターの数が増えてくるわ

これからアルメリー平原を抜けてメリーダ村を目指すのは 危ないわね」



セイナは賛同のようだ



「いっそのこと このまま 東のクルティエ大陸を目指すってのは どうだい?」



「たしかに サルヴィス大陸(ここ)は カエルムモンスターの進行が進んでるわ
だけど 東の大陸……
そこが安全とは言えないと思うの……

それに………」



「言ってみただけだよ ギルマス…

それに……統合騎士団(テンプルムナイト)に所属してるから……でしょ
わかってる わかってるって」



キルッシュの言う通り
ワタシ達は 騎士団所属
便宜(べんぎ)も図(はか)ってもらえるが 断れない依頼もある 今回の件がそうだった………



「ここも冷えてきたわ

続きは船内(クラブ)で話しましょう」



セイナの言う通り 陽が沈み辺りが暗くなると とたんに寒くなってきた……



「そうね 船内(なか)に入りましょうか……」



「セイちゃん 酒 頼むわ
さっき力が でぇひんかったんは 米が切れとったからや
はよ補充せな あかんわ」



「ただ 呑(の)みたいだけだろ ただの呑兵衛じゃないか」



「キルキルかて はよ呑みたいんと ちゃうか?

それに 米は力やで」



「なんだい? それは」



「ふふ……さきに部屋(クラブ)のほうへ行ってて
わたしは着替えてから 行くから」



「ほな セイちゃん またあとでな…」



「船長(キャプテン)
ボク達は ギルマスと先に行ってるよ」


「セイナ あとでね……」



ワタシ達は船内を話しながら歩いた



「ここが その部屋?」



「せやで セイちゃん自慢のルーム

その名もドリームクラブや!」



ワタシは 扉を開け
室内に足を踏み入れた



「すごいわ……これは」


思わず感嘆の声がもれる

部屋の中央には 曲線ソファを4つ繋げてドーナツ型にしており その四隅には
3人掛けソファ(白)(赤)が置いてあり その装飾は豪華だ……
壁は赤と白に塗り分けられステンドグラスがハメ込まれている
天井にはシャンデリアもあり部屋の華(はなやか)さを増していた………


………

………………

……………………

ん……ぅ…ん…ぅぅん!?

身体を揺さぶられている事に ワタシは気がついた

目を開くと 御者台に居た
アラビーヌがワタシを揺さぶっているのが見えた



「きみ! きみ!
大丈夫?」



心配げに パートナーが
覗(のぞ)きこんでいる



「……あっ……あぁ

そうか 共和国(マーロ)に
着いたんだな……」



到着したら起こしてもらうよう 頼んでいたな そういえば………


ワタシは アラビーヌに
礼を言うと パートナーと共に
牛車を降りた



南国の強い陽射しが 降りそそぐ ここは実り多き半島
目前に広がるアクアマリン色の海……

その海を ワタシは見つめていた

寄せては反(かえ)す
静かな波音
潮の香りが 吹く風に混じり
赤い共和国(マーロ)服から
のぞく褐色の肌に
やさしく まとわりつく……


……………



「どうしたの? きみ
なにか悲しいことでも あったの?」



「……?」



「だって涙が……」



頬に一筋の滴(なみだ)が つたうのをワタシは感じた……



「…あ……あぁ……

…さっき……夢を…みていた…」



「ゆめ……?
それは悲しい夢だったの?」


「内容は よく憶(おぼ)えてないが

なんだが…懐(なつ)かしかった……

……気がする」



「ふ〜ん?

そうなんだ……

…………

帰ろうか わたし達の家(へや)へ……」



「そうだな………

………………

そうだ!
迷っていたハウジングの内装……

喫茶店風にするのは どうだろう?

赤と白の壁に……
ステンドグラスもつけよう……

……それから」



「それから?」


…………………

ワタシは パートナーと
ハウジングについて語りながら 自宅に向かった

ひと休みしたら 改装(ハウジング)に 取りかかろうと思う

せっかく手に入れた絵も飾ろう

………

そして………

配置がおわったら

すばらしい家屋(ハウジング)になっている……

と思いたい

…………………

…………………………




ある冒険者のひとりごと……30・ヤーレン騒乱文化祭より〜絵画〜 終わり〜