…………



ここは“山と海とビーチ”

南国の浜辺……

この季節にだけ営業する
うみのいえ……

ワタシ達は うみのいえ(ここ)で南国特有の暑い日差しを避け 涼(すず)んでいた……



目の前の浜辺では スポーツ大会が開催され
カラフルなビーチボールがネットの上を
向こうに コチラに
行ったり来たり 宙(ちゅう)を舞(ま)っている……


ワタシはパートナー共々
スポーツは苦手なので コートに入る事なく
他の冒険者達が
ボールに翻弄(ほんろう)される様子(さま)を ぼんやりと眺めていた……



屋根の下(した)にいると心地(ここち)よい海風が吹き
テーブルに置かれた
白いクリームの浮く青く澄(す)んだ飲み物が
目にも涼しさを感じさせてくれる……



「…うみゃ〜

今日も暑いんだよ……」


白い肌に 白い髪 大きな白い尻尾に 頭には白いケモ耳……
大きな赤い瞳が目を引く
“自称美少女” が ワタシ達のテーブルに近づいて来た……



「魔物ちゃん!

どうしたの?」



彼女の姿(すがた)に気づき
ワタシのパートナーが声をかける……

目の前に広がる海を
思わせる群青色に輝く大きな瞳に

曇り空の雲ように白灰色の髪を短いツーテールにし

そこに差した 空色の玉の小さな簪(かんざし)……
それに繋(つな)がる赤い金魚が小さく揺(ゆ)れた……




「あっ!?
ゲルミクリームソーダだ!
わたしに ちょうだい!!」



クリームの浮かんだ青い飲み物を
赤い瞳(ひとみ)に映(うつ)して
“自称美少女こと魔物ちゃん”が 白い袖(そで)から覗(のぞ)く
その細い腕を伸ばす……

透明なグラスに
白い雲が浮き 澄んだ青い海が見え
その表面には水滴(すいてき)が浮かび
一滴(ひとしずく)流れ落ちた……

熱い砂浜の歓声の向こう…

よせては かえす 波の音が聞こえている………



「えっ!?

べつに いいけど…」



ちょっと驚き
ワタシのパートナーは
自分のグラスを彼女(魔物ちゃん)に差し出した……



本能のままに行動する
魔物ちゃんにワタシ達は

まぁ いいか……と

彼女の望みを これまでも叶(かな)えてきた……

大抵(たいてい)は 食べ物の要求なのだか………



「うみゃ〜
冷たくて おいしい〜……」



青いソーダ水の上に浮かぶ 白く冷たいクリームを
ゲルミを模(も)した小さな青い匙(さじ)を使わず
赤く小さな舌(した)で舐(な)める姿は 愛玩動物のようで
見ていて微笑(ほほえ)ましい………



……………



彼女(魔物ちゃん)が 飲み物(ゲルミクリームソーダ)を 飲み終わるのを待ち
ワタシは 声をかける……


「……で?
今日は 何の用だ………?」


彼女(魔物ちゃん)は
何時(いつ)もワタシ達の前にフラりと現れる……



「じつはね…
……ふしぎな笛が入荷しているんだーー……

1つ 賢者石300で
引き取って欲しいんだよ…」



ほっぺたに付いたクリームを手の甲(こう)で拭(ぬぐ)う…
それを小さな舌(した)で舐(な)めながら 彼女(魔物ちゃん)が答える……


賢者石(けんじゃいし)……
コレは かなりの値うち物でベテランの冒険者でも 入手するのは難しい……

依頼の報酬に貰(もら)える事もあるが その量は 僅(わず)かだ……

……貴重な石なだけに
それと交換出来る品(アイテム)は市場に出回る事は無い……
ただ それに見合う強力な武器や防具が手に入る事もある………

魔物ちゃんと自分を呼ぶ
彼女は
賢者石とアイテムを交換する役割を担(にな)って
いた………



「笛(ふえ)?

それって どんな効果があるの?…」



パートナーが新たに注文した 飲み物を手に彼女(魔物ちゃん)に問いかける…

南国の果物を絞(しぼ)った橙(オレンジ)色の液体が
透明な足つきグラスに注がれ
飲みやすいよう
ストローが差してある……



「ん〜とね

たしか……
…吹けば……

乗り物を呼び……だせる……とか

移動が…楽(らく)に……なる………

って言ってたーー!!」



「……それは どういう仕組(しく)みなんだ?……」



ワタシは 俄然(がぜん)
興味(きょうみ)をもった……

この世界の移動手段は 自力で歩くか走る…
あるいは Zell(ゼル)を払って 乗り合い牛車を利用するしかない……
移動が楽(らく)になる……
これは…広い世界を移動する冒険者にとって とても魅力的に思えた………



「古代(こだい)?…錬金術…とか……

魂(たましい)の繋(つな)がり……が…なんとか……


うみゃーー!!

むずかしいことは
わかんないよーー!!


とにかく!
賢者石1500個で
五回が オススメ!!」



「どうする?……“きみ”?」



パートナーの問いかけに

額(ひたい)にかかる濃緑色の前髪をかきあげ
ワタシは しばらく考える……



「………………」


「……どんな乗り物がある?」



ワタシは赤い色の飲み物で喉(のど)を潤(うるお)す

透明な氷が涼しげな音を耳に運び…

それは 南国の果物の香りがした……

浜辺のコートでは 変わらずビーチボールが宙(ちゅう)を舞(ま)っている…………



「えっとねー

……白いクマ(アニマル)?

椅子(チェア)?…

…絨毯(カーペット)?

銘菓(マカロン)?…

…板(ボード)?………

だったと思う!!」


指折(ゆびお)り数(かぞ)える魔物ちゃんを見ながら…
ワタシは 迷(まよ)っていた……



「……どう

…するか………」



選択肢は三つ…

五回分 賢者石を使うか?

一回で止(や)めるか?

それとも……今回(こんかい)は諦(あきら)める……か?…………



賢者石を使っても 欲しい品(アイテム)が必(かなら)ず手に入るわけではない……

手に入る事もある……

コレは運まかせなのだ……


「魔物ちゃんが オススメって言ってるし 五回分 やってみようよ…」



珍しくパートナーが乗り気だ
…着ている共和国服(紫)
その下衣 長く伸びた右裾(みぎすそ)が
ツートップにした白灰色の髪と共に 海風に揺(ゆ)れている……


ワタシの共和国服(赤)
下衣 足もとまで伸びた右裾も
低い位置(ローポジ)で纏(まと)めたワタシの濃緑色の髪と共に

海から吹く
心地よい風に
靡(なび)いた……



…………………


ワタシの腹(はら)は決まった……



「…………わかった
五回分で…

頼(たの)む……」



「取り引き…成立だねー!

さっそく 始めるんだよ!!」


ワタシから受け取った
虹色に輝(かがや)く
賢者石を使い
魔物ちゃんは別空間を呼び出し ソコに入る……

その手にした賢者石の三分の1が キラキラと輝(かがや)きながら大気に還(かえ)ってゆく…


……賢者石(けんじゃいし)

それはこの世界に満ちる魔力が集まり結晶化したもの…
魔物が魔力を行使(こうし)する時
必要となるモノ……
ワタシ達が使う錬金術由来の魔法とは違い
魔物にしか使いこなせない……

いま 魔物ちゃんが賢者石を使って入った石造りの空間にワタシ達は入る事は出来ない……
時渡りの塔の一室に似てはいるが別の部屋なのだ……
いま ワタシ達は少しボンヤリと揺らぐ映像の向こう
魔物ちゃんが いつもの杖を掲(かか)げ
魔物(ゲルミ)を召喚する様(さま)を黙(だま)って見ていた…

いま
再度(ふたたび)
彼女(魔物ちゃん)の片手に載せた
賢者石が大気に還元(かえ)ってゆく……

…………


杖を一振り 魔物(ゲルミ)を倒すと

魔物(オーク)…

魔物(ドラゴン)

と強力な魔物が出現する……
強い魔物ほど珍品(レア・アイテム)が手に入るのだ……
魔物(ドラゴン)が出現するのは希有(まれ)で

それを倒したとしても

必ずしも魔物ちゃんが提示したアイテムが手に入るとは限らない……


……………………


………五回の戦闘のを終え宝箱(トレジャーボックス)から
アイテムを回収した
魔物ちゃんが 残りの賢者石を消費してコチラに帰ってきた………



「はい!

これ!!

“熊車の明笛”!

“銘菓の短笛”!

“銘菓の短笛”!

“花”!

“鉄鉱石”!


以上だよーー!!」



魔物ちゃんは 一つ 一つ
名前を呼び上げながら
アイテムをワタシに渡す……



「……五つ中 三つ笛が出たか……

まぁ 当たりだな……」



「でも 一つダブったね…」



ワタシの手元を見て パートナーが呟(つぶや)く……


「えーとね

町にいる黄色い服を着た

……リズ?って人間(ひと)が珍しい品(アイテム)に詳(くわ)しいって
聞いたよー!!


じゃ わたしはコレで…


バイバイーー!!」



用事が済むと
低い位置(ローポジ)でふたつに分け
赤い髪止めをした
肩にかかる白い髪と
大きな白い尻尾を揺(ゆ)らして
魔物ちゃんは 駆け出して行った……



「……相変(あいか)わらず
騒(さわ)がしいな……」



小さくなってゆく お腹と背中の大きく空いた黒と白の服を着た少女を
見送(みおく)ってワタシは呟(つぶや)く



「にぎやかで
わたしは好きだなー」



「……魔物ちゃんが言っていた……リズ?……
を訪(たず)ねてみるか……」



「でも どこに
いるんだろう?……」



「……この近くで大きな町に行くとしよう………
其所(そこ)に居(い)るかもしれない……」

「……居なくても噂(うわさ)くらいは聞けるだろう……」



「そうだね!

ここから 近い町は……

“実り多き半島”を抜(ぬ)けて……

“マーロ共和国”だね!!」


「……わかった

そこへ行こう……」



目的地は決まった…

魔物ちゃんはアイテムは渡してくれるが説明は上手く出来ない…
普段は市場や倉庫で聞くのだが
今回のアイテムは 特殊(とくしゅ)な為 そのての専門家に訊(たず)ねた方(ほう)が
いいと思われた……



ワタシ達は “マーロ共和国”へ向かうことにした……




ある冒険者のひとりごと……24 魔物ちゃんの交換品ー前編ー 終わり…