…………



錬成施設に 露天風呂なるものが完成し
ワタシは すっかり その虜(とりこ)になっていた……


知ってのとおり…
山肌の洞窟に錬成施設は
造られており
その中で石炭を燃やし
鉄鉱石を その熱で融(と)かす……
それを使い 剣等 武器を錬成するのだから
膨大な熱が出る……
その熱を冷やすため
大量の水が必要になる……
ここは豊富な水に恵まれていた
今まで冷却に使い洞窟の外に捨てていた熱水を利用して
施設内に温泉を造ったらしい……


天然の岩肌の上に木の板を敷き詰め板で囲いを そこに温水を溜め
橙(オレンジ)色に光る鉱石を水面に浮かべたそこは 実に居心地が良かった……誰が考案したのか
釣り場まで 設置しており
ここでしか釣れない珍魚
地震なまず(シェイカーナマズ) を釣る事が出来た……
ほかにも
フナ(ウィリスカープ)
チカアユ……も釣れた


石炭 黒鉛 鉄鉱石 銅鉱石 石英 木炭 石灰石 古代の化石…
…しろいもこもこ……
なども針にかかるのだが……



温泉で身体を温め
釣りをする


帳場では
カカオ牛乳で喉を潤(うるお)す事が出来る………



ワタシはパートナーを伴(ともな)って ここに入り浸(びた)っていた……


そんな ある日……



「今日の日替わり(ディリークエスト)に 行くよ〜!!」


パートナーがワタシを招く……



「あ… …あぁ………
そうだな……」



ワタシは 楽園(オンセン)から出たくなかったが……断れば パートナーが悲しげに見つめてくるので
彼女の後に続いて 帳場で 着替える……


赤いフード付きベスト(フラムローグベスト)を上衣に 茶色いミニスカート(ウォームふわもこスカート)
パートナーは異世界のネコが印刷(プリント)された半袖のTシャツに ワタシと お揃(そろ)いの茶色のミニスカート という 楽(ラフ)な格好で 温泉 帳場 脱衣場を後にする……


………


錬成施設内の踏み固められた土の上を
しばらく歩くと見知った顔を見つけた……
パステルブルーの髪で左目を隠した彼は パステルレッドの髪のパートナーと共に 茶羽織浴衣を上衣に寝巻浴衣を下衣で佇(たたず)んでいた……


………


滅びの村で別れてから
彼とは 何度か会っていた
イベント会場だったり
山と海とビーチだったり…
お互いに挨拶し 他愛のない会話をした……
相変わらず 彼は旅をしながら日記(記録)をつけているという………



そして今回も 挨拶を交(か)わす……


「……温泉あがりか?」



「…えぇ 先ほどまで
釣りをしていたのですが

今は ここで涼んでます」



「……そうか

して これから何を?」



「………温泉の 魔物退治を しようか…と考えてます…」


「……レベルあげ……」



彼のパートナーがぼそりとつぶやく
その赤と青の瞳(オッドアイ)が こちらを警戒していた……



「ふむ……

……………

……一緒に行っても いいかな?」


「えっ? ちょっと…
日替わり(ディリークエスト)は?……」



ワタシのパートナーが慌(あわ)てる……



「クエストの最初に“冒険生活″(戦闘5回しよう)がある……

日替わりも ちゃんとやるさ……」


「わかったよ……」


ワタシはパートナーを納得させ 彼の方(ほう)へ向く


「どうだろうか?……」



「……そうですね

一緒に行きましょう」



温泉内には 魔物(ゲルミやギョルミ)が出没する場所があった…
倒すと“温泉石″が手に入る……

脱衣場のある温泉帳場で
武器を合成する為のアイテムと交換出来るのだ……



脱衣場で …おしゃれバスタオルを胸に巻き 温泉セットを頭に乗せ… 入浴スタイルにワタシとパートナーは着替えると
魔物が出没する場所(エリア)に移動した……


…………


「……これは…」


「人が多いね……」



「やはり……混んでますね」


「………これは むり…」


芋を洗うような……
とは この事か…

出没している魔物より
冒険者の方(ほう)が多いのでは?……
という風情(ふぜい)である……



………



「……ワタシのボンドに入らないか?

ボンドモード なら
ゆっくり狩りが出来る……」


思い付いたことを 口にする………



………えっ?



ワタシを除く3人の視線が集中する…


「あっ…

……その

……ワタシが

そちらのボンドに入っても……

……いいのだが…」



ここは混浴 なので当然
異性も一緒に入ることになる……

タオル一枚とは言え 異性に肌をさらしている事に変わりはない……
下にはオニパンツを履いてはいても なんだか 落ち着かない………

いったん意識すると
恥ずかしさが こみ上げてきた……

……

彼は 考え込んでいるのか 無口だ…
彼のパートナーも彼の影から じっと ワタシを見ている……

彼の回答を待ってか
ワタシのパートナーも
黙ってワタシを見上げている………



………恥ずかしい

自分の言動と今の格好に…
羞恥心が ふつふつと沸き上がり
温泉内の室温以上に体温が熱く感じられる……

相手の回答を聞くまで
動くわけには いかない……

流れ出る汗は 温泉のお湯の熱さだけではなかった……


………



「……決めました

貴女(あなた)のボンドに僕たちが入りましょう……


あくまで体験入会としてですが……」



彼のパートナーも こちらを にらんだまま 小さく頷(うなず)く……



「……あっ…

あぁ……

こちらこそヨロシク…」



やっとワタシの周りの時が動き出した…



「……では

…………………

ボンドマスターたる
我が名のもと…

そなたを 我らがボンドに
迎え入れよう……

良きメンバーたらん事を………」


ワタシは厳(おごそ)かに
宣誓し 彼をワタシのボンドに迎え入れた………

はずだった……


「あっ 知らない人の名が!!」


パートナーが
驚きの声をあげる……


「 : なにごと?」



ボンドチャットに
ボンドメンバーの書き込みが浮かび上がる…


……!!


そう ここはマルチch(チャンネル)……

ワタシ達以外の冒険者が往来する……



「あわわ…
間違いました すみません…」



慌(あわ)てて メンバーリストから知らない人の名を削除して
頭をさげる……



「いえ 気にしないでください…」



どうやら 許してもらえた……


……は 恥ずかシぬ……



今日のワタシは どうか している……



呆然と しただろう彼に
ワタシは向き直り

今度は手続きを間違えずに……


「改(あらた)めて……我がボンドにようこそ!」


ワタシの笑顔は ひきつり
額には 先ほど までとは
うってかわって冷たい汗が浮かんでいた…………




…………… ーボンドに新人?ー …………終わり…