…………



「…そろそろ旅立ちますか……」


「…少し ながく居すぎた……かも……」



ふたりの会話が 滅びの村 を吹き抜ける風に ゆっくりと消えてゆく……



…………





ここは 錬成施設内に新たに造られた 温泉 ……

ワタシはパートナーを伴(ともな)って魔物退治に訪(おとず)れていた……

新たに実装された槍兵(そうへい)に転職した為 実戦経験を積む為でもあった…

槍兵(そうへい)……
両手槍を持ち中距離で戦う職業(ジョブ)…

懐(ふところ)に入られないよう魔法で相手を遠ざけ
槍の間合いで倒す……
そんな戦いかたをする職業……
遠距離攻撃の魔法職や弓兵とも
近距離攻撃の戦士や拳闘士とも戦いかたが違う為 中距離での戦いかたを学ぶ必要があった……


…………


ゲルミやギョルミと呼ばれる魔物が出没する温泉の
入り口に 見知った顔を見つける……


………この間 体験でワタシ達のボンドに入った“彼”だった……

パステルブルーの髪が左目を隠し 暗い緑色の学帽を頭に乗せ 青い学ランの上衣に白ランの下衣 を着ている………



「………こんにちわ
かな…

………………

その服……
なかなか似合っているな……」



「こんにちは…

なかなか 色が揃(そろ)わなくて……」



最近 販売が開始された

“サージュパトリオット”
この時期に販売される通称“制服”
今年の新作である……4色あるが 必ずしもお目当てのモノが手に入るわけではない……

今の“彼”のように色が
ちぐはぐになる事が多々あるのだ………



「…少し よろしいですか?」



「ワタシは かまわないが……」


温泉内に 時おり吹く風に
ワタシの赤い共和国服の
裾がなびいた……


……………



「あなたたちに……はなしが ある……」

茶色の制服の上衣に白の下衣を合わせた
彼のパートナーが珍しく 話しかけてきた……

その赤と青のオッドアイ
に強い意志が感じられる……




「…じつは 僕たち
今日で 貴女(あなた)のボンドを出ようと 思います…」



彼のパートナーも 強く 静か に頷いている………



「………そうか……」


ワタシの頭に巻いたターバンが
温泉の湿気で赤暗く染まる……



「どうして!?
何か あったの?」


青い共和国服のワタシのパートナーが驚きの声をあげる…
2つに分けた白灰色の左髪に差した 簪(かんざし)…
その小さな赤い金魚が
激しく揺れた……



「 :あらま もとのボンドに?」



ワタシ達の会話にボンドチャットで参加してきた声があった…
最近 長い黒髪をオレンジに染めた彼女……
ワタシ達のボンドの古株(ふるかぶ)である……




「ボクたちは 旅人です……

あてもなくフラフラとしているもので…」


「……また……ふたりで旅にでる………」



「 :なるほどー また会うときはよろしくやで!」

「はい!」


「……あたらしい…ボンドを探す……」


ボンドチャットに次々と
文章(かいわ)が浮かび
流れてゆく……


「 :いつでも 帰ってきて ええんやで」



「ワタシ達は……いつでも 歓迎する…」



「ありがとうございます
素敵なボンドに勧誘して くださり…」


「短いあいだ だったけど 楽しかった…」



短い会話の中に いたわりと感謝が感じられた……



「……これから
どうするの?…」


ワタシのパートナーが心配そうに訊(たず)ねる……


「あちこち 歩いてみます…」


「日付け(きょう)が おわるまでは このボンドに所属(いる)………」



ワタシを見つめるオッドアイが 心なしか潤(うる)んでいる様(よう)だった……



「きみっ!!
今日の日替わり(ディリークエスト) 終わってないよ!!」



「……そう だったか?」


「急いで 行くよ!!」

「…ワタシ達は お先に
失礼する……」



「はい!
また どこかで……」


「……またね」



2人は手を振って
ワタシ達を見送る……



「この世界の…何時(いつ)か……何処(どこ)かで……」


「またね〜〜」



ワタシ達も手を振って
彼らと別れた………


新しいボンドが見つかる事を願って………


…………………



……… ー新人は新人へ…ー …………終わり……
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