………


不老長寿の餅祭り 後半を迎えた ある日


不老不死の村 酒場前の
噴水広場は 祭りに参加する冒険者で溢(あふ)れていた……

普段は 静かな村が 集まって来る冒険者で活気に満ちている………


ワタシはパートナーと共にこの村を訪れていた……

ハウジング家具“明け障子″と“ローボード″を求めて………



「お久しぶりです。」



なんとなく掲示板を眺めていると
いきなり声を かけられた…

聞き覚えのある声に振り返ると
ソラウッサーの頭を被(かぶ)った“彼”がいた……亥年の白い和装が彼に似合っているのだが……

(………なぜ?!
ウサギ?………)

ワタシは少なからず動揺した……
彼の改名の原因を作ったから……
彼は“ちょうど変えようと思っていました。″と
あの時言ってくれたが…
無言の抗議……?
いやそんな事は……
ひとり 考えのループに陥(おちい)り ながらも…
何時(いつ)もの様に
会話をする……



「……久しぶりだな


…………………


ところで……
そなた達の旗印は 鷹(たか)では なかったか?………」



“彼”は3度目(みたびめ)の
ボンドを 旗上げしていた…


鷹を頂(いただ)く その旗の下(もと)“彼”は
“団長”として 新人育成に励(はげ)んでいた……



「ウサウサ団に、改名しました……

月よりの使者(ウサギ)です……。」



ソラウッサーの被り物の中で…
…どやっ?顔している様(さま)がワタシには見える様(よう)な……気がした
…………


「…………………」



「……ねぇ
”突っ込み!″いれたほうがよくない……?」



ひそひそとパートナーが ワタシに ささやく……



…………………


と その時……



「局長…

団長…

こんにちは…」



白いパーカーに黒い短パン
薄い水色の長い髪が右目を隠し 白いマスクを掛けた幼女が
ワタシ達に声をかけてきた……

ワタシのボンド メンバーの1人で 他の仲間(ボンメン)からは なぜか“ネキ″と呼ばれている彼女だ………



「……あぁ」


「こんにちは……。」



ワタシが二代目ボンドマスターになってから“局長″呼びが彼女によって定着してしまったようで
他のメンバーもワタシを そう呼ぶのだ……


…………


彼女も“彼″に勧誘(かんゆう)されてワタシ達のボンドに入ったのだ……

もっともワタシはメンバー勧誘をしないので
彼の選んだメンバーがほとんどなのだが…………



「貴女(あなた)も、
シシ餅を?…………。」



「……家具か?…」



彼女はコクりとうなずく



……シシ餅は神使コマジシが落とす アイテムで 祭り期間限定アイテムと交換できる……
障子やローボード 炬燵(こたつ) 座布団(ざぶとん)など ここでしか手に入らない 珍品揃(ぞろ)いなのだ………



「そう〜〜なんですよ〜〜
和室を作るのに必要
なんで わたしたちも周回中 なんです〜〜」



薄い桃色(パステルピンク)の髪をした彼女のパートナーが
のんびりした口調で
話を続ける……
閉じているような細い目が印象に残る……


「あなたのところも
そうなんだ〜〜」



ワタシのパートナーも
話にまざる……



「ここで立ち話も、なんだから…
私達は 向こうで話しましょ…

ここの“オゾーニ”
美味しいのよ……。」



薄い桃色(パステルピンク)の髪を後ろで束ねた彼のパートナーが食事に 誘う……



「わたしは〜
オシルコが食べたいです〜〜」



「じゃ わたしたちは
ちょっと 行ってくるね…」


「あぁ……ゆっくりして来ると いい……」



パートナー達は 餅(もち)を片手に この村の酒場の店主の元に駆けて行った…

この時期に 現れる
魔物“モチミ″……
自分が食べるわけでも無いのに 粢餅(しとぎもち)を持ち歩いている……
その餅を酒場の店主(マスター)に渡すと オシルコやオゾーニに錬金術合成してくれる……

他にも布団一式や火鉢 和傘 にも交換してくれた……



パステルピンク髪の2人と白灰色の髪をした
パートナー達が去り
ワタシ達は3人残された……



「そちらは、変わりないですか?」



ウサギの被り物のまま
彼は訊(たず)ねる………



「あぁ……
変わりない……」


「(゜-゜*)(。_。*) コク…」



「そうですか……。」



「なぜ ソラウッサー (´・ω・`)?」



マスク越しに彼女が問いかける…



「最近、手に入ったもので……」



「……モモウッサーなら
上下 2セット 手に入った(-_-;) ……」



……………

……


彼らの会話をよそに
ワタシは 物思いに耽(ふけ)っていた……


……………


ワタシが彼から引き継いだボンドは 現在 メンバーの増減は なかった…

いや…いつの間にか サブリーダーが入れた新人が居(い)なくなっていたか……

結局 彼女とは 話せずじまいのままだったな………

いいボンドが見付かるとよいが………


……………………



「……ねぇ これって
相合い傘じゃない?……」


「え〜……
ウソ……ほんとに……?」


1人 物思いに耽(ふけ)っていると……


噴水の向こうから
女の子達の おしゃべりが聞こえてきた……



…!?



「………こうやって……
2人 ならぶと……」



「……キャー……
ほんとだ〜〜」



賑(にぎ)やかな声の方へ
自然とワタシの視線が向く……


あれは?

……粢餅(しとぎもち)と交換で手に出来る
和傘………



………………



「相合い傘……

和傘にそういう使い方が……」



…………



「……ちょっと交換所
行ってくる…」



会話を止(や)め
ワタシを注視する2人を しり目に酒場の方へ駆け出した………


酒場前で赤い和傘が粢餅(しとぎもち)と交換できた……



「よぉ! 褐色の嬢ちゃん……
何か入り用か?」



酒場の店主(マスター)が気さくに声をかけてくる……



「………和傘を……」



交換に必要な餅を店主(マスター)に突き付け
要求する……



「どういった風の吹き回しだ?

この間までは勧(すす)めても“必要ない…″
の一点張りだったよな…」


「…………」



「まっ こっちも商売だから余計な詮索(せんさく)は
しないけどな……


ほれっ
毎度あり!!」



酒場の店主(マスター)
から傘を受けとると
急いで その場を離れる……


(いきおいで 和傘を手に入れてしまった……

………どうする?)


もともと使い道が無いから酒場の店主(マスター)の お勧め を断わってきたのだが……


……せっかく手にしたのだから 一通り試して 衣装箱(ドレッサー)行きになるか……


考え事をしながら
赤い和傘を手に ソラウッサーの頭を被(かぶ)った団長と 青みがかった白髪の幼女の元にワタシは戻った……


「和傘…、ですか?」


「局長……
('_'?)
それは?」



ワタシの手もとを見て二人が声をかけてきた…



「あぁ……

見ての通りだ……」


傘を もてあましながら
ワタシは答えた…



「……ちょっと
いいか?」


ワタシより少し 背の低い
彼女の隣に立ち
二人のあいだに傘を差してみる…



「……('_'?)

………局長…?」



彼女は 怪訝(けげん)な顔をマスクの下で浮かべて
いるのは
声色から伝わってくる……


「…………………。」



彼は ウサギの被り物のまま 無言でワタシ達を見ている………



「……ふむ…

…………………

確かに 相合い傘だな……」


ワタシは 二人の事など
意に介(かい)さず
…ひとり納得していた……気になった事は試さずにはいられない…
ワタシの癖(くせ)である……



「…局長………

わたしより 彼と 相合い傘 しては どうです?…」



「…!!」



彼女の声に 考え事をしていた ワタシは 我に帰った…



「……し …しかし

彼が …了承(りょうしょう)するか……」


顔が上気し ワタシは
シドロモドロに彼女に答える…

以前ワタシは彼に対して
“ 片思い” という病(やまい)に落ちた事があるのだ…

今は症状は落ち着いているが アノときは かなり苦しい思いが続いた……

ソレを知ってか知らずか
いま彼は 被り物をして ワタシに対して顔が見えない状況(じょうきょう)……
もし…彼が…素顔だったら

ワタシは…
まともに話す事が出来ただろうか………



「私は、構いません。」



いつもと変わらぬ声が聞こえて来る……



「彼も あぁ言ってます…」


「……で

…でもぉ……」



ワタシは躊躇(ちゅうちょ)してしまう…


まだ……

…ワタシは…

彼のことを………

………………


「局長!!……」



「…!?」



突然 彼女に
強い力で
背を押され
ワタシは和傘を手にしたまま…

彼の方へ よろめき
倒(たお)れそうになった…


「…大丈夫ですか?」



彼に抱きかかえられ
ワタシは転倒せずに済んだ…



「……あっ!!

…………………

あぁ……

大丈夫だ………」



ワタシは なんとか冷静さを取り戻し
普段(いつも)通りに言葉を返した…


「…………

……かさ


ためして……



いい…だろうか………?」


転びかけたとき どこか痛(いた)めたのか…涙で滲(にじ)むワタシの目に
彼のすがたが キラキラして見えた…



……顔はウサギの被り物のままだったが………



「ええ、どうぞ……。」



ワタシの隣(となり)に立つ彼は いつもと変わらず
接(せっ)してくれる……



「……で では

しつれいして………」



彼から見えないように
こっそりと 涙を拭(ぬぐ)い………

あくまで自然に彼の隣(となり)に立つ……


……………

…………………

……………………(-_-;)



そう ワタシは背が低く
彼は背が高い……………


子供と大人(おとな)とは
まさに このこと……
一つの傘にふたり入ることができない………


三人共(さんにんとも)に
言葉が なかった………



「あっ、私座りましょうか?」



彼の自然な気遣(きづか)いが ワタシの小さな胸の奥からジンワリと幸福感(しあわせ)が広がってくる……

……まだ…

…………彼のことが……

……………………



「どうしました?」



「局長!

彼を 待たせないで……」



「……あ

あぁ……」



二人の言葉に ワタシは
胡座(あぐら)座りをした
彼のとなりに白い渦巻(うずま)き模様の入った赤い和傘を片手に立つ……



…………

………………

……………………(-_-;)



たしかに 和傘の中に
ふたりは 収(おさ)まった
………しかし ナニかが違う……



沈黙(ちんもく)が3人の間(あいだ)を流れる……



………………



向こうから 賑(にぎ)やかな声が近づいてきた



ワタシ達のパートナー達が酒場から帰ってきたのだ…
ワタシは
慌(あわ)てて彼から離れる


「あれっ?

きみ その傘は…」



ワタシの手にした 赤い和傘にパートナーが気づいた


「……あ
あぁ……

これは………」



……困ったな
どう説明すれば 良(い)いものか………



「もしかして………

わたしのために?」



「……あ
あぁ……

そうだ……

気に入ってくれるか?」



………………

…………………( ̄0 ̄;)


団長とネキは沈黙している………

ワタシは心の中で二人に
謝(あやま)った



「わぁ〜〜……

1人だけズルい〜〜」



「あら
よかったわね〜」



「えへへ……」



パートナー達が盛り上がっている……



「……ワタシ達も呑(の)みに いかないか?」



「いいですね〜。」



「お代は 局長 持ちで……
( ̄O ̄)/」



「……あぁ
そうさせてくれ…」



「私は、部外者なので
自分の分は払いますよ。」


「……いや 迷惑をかけた
一杯 おごらせてくれ…」



「そういうことでしたら…。」



話がまとまった ワタシ達はパートナー達と入れ替わりに酒場に向かった……



……………


ある冒険者のひとりごと……20 不老長寿の餅祭り 受け付けにて……おわり