…………


山頂にたどり着くと

辺り一面 下草の 生い茂る空き地が広がっていた……
空は曇っては いるが
日は十分に差し
周囲(あたり)はじゅうぶんすぎる程(ほど)
明るかった……


しかし 南国とはいえ 山頂の為 共和国上下服では 少し肌寒かった……


パートナーの方を向くと

………平気そうだった…

メイドは……いつも通り
くすんだ桃色の公国メイド服に白いエプロンを着けた姿で
微笑(ほほえ)んでいた………




………………



「……着いたな

………話してもらおうか……」



ワタシはメイドの方を向く……

パートナーも となりで
うなずく……



「………条件が そろいました………」


「ご主人様……

これを お受け取りください………」



メイドの手には一通の封書があった……



「……それは?」



「……何とも 言いにくいのですが……

条件が そろったときに

この場所で
ご主人様に お渡しするようにと……

依頼を受けた……

……らしいのです……」



「らしい?

って どういうこと?」



「……いつの間にか 封書が わたしの手元に あったのです

依頼状にも契約した痕跡(あと)がありました……

契約したからには実行しなくてはなりません……」



「………なるほど
仕事に忠実なのだな……」


「ほんとだ……依頼契約書に
サインがある………

…………

………知らない名前だね…」



「えぇ……わたしにも
心当たりが なくて……」



メイドから受け取った封書の宛名はワタシ……
差出人は………

ワタシ達に家具の調達を
依頼した 彼 だった……」


(…………やはり

ワタシ以外 忘れてしまう……


これで3度目?
になるのか……

…覚悟はしていたが

………

……寂しいものだな……)


感慨に耽っ(過去に捕われ)ていても
仕方ない……
今は 進まなくては……




「……封書を 開封しても
いいだろうか?」



ワタシは 2人に問う…



「……きみが いいと言うなら……

だいじょうぶ……

…だよね?」


「ご主人様の思うままに……」



パートナーは少し不安げにメイドは 普段と変わらずワタシに応じ(こたえ)た………



「……ありがとう」



2人に確認を取り

ワタシは封書の

封を切った………





:まずは このようなかたちで メッセージを伝える 非礼を詫(わ)びよう………




「えっ?

なにコレ……

だれも いないのに
オジサンの声が………」



「………コレも 錬金術……なのか……?」



「……このようなモノは
錬金術には………

どちらかと言えば……


魔法………?」




ワタシ達は 初めての現象に困惑した………




:……急に元の世界へ帰ることになってしまった……
そのため このようなカタチで伝言(メッセージ)を
伝えることにした…………




:このメッセージを
聞いているという事は
きみに決心がついた…
ということだな……

……それとも
ハウジングで 行き詰まっているのかな?……

いずれにせよ

……この場所で きみに託(たく)した 設計図を試すといい………


コレは わたしの邸宅を
君たちの世界の 建材 家具で 出来うる限り再現出来るモノだ………


……そのまま住んでも いい……


君たちなりに改築しても いい………




わたしの家具集めを手伝ってくれた お礼だ……


好きに使ってくれたまえ……



ハウジング好きとしては

きみ達の邸宅が見れない事が じつに残念だ………


………………


どうか 素晴らしいハウジングを……………



:………そろそろ じかんです〜〜



:あぁ わかった……



…また 会える事があったなら わたし達を 君たちの
邸宅へ招待してくれ………



ハウジング好きの……

友へ……


…………It's My Life……







………彼の言葉が終わると
開封した封書は 音も熱も無く 青暗い炎を上げ……

燃え尽きた……


後には 一片(ひとつまみ)の灰も残らなかった………



……………




今まで見聞(みきき)した事も無い現象に ワタシ達は
言葉が無かった………




「今の………なに?」



「………魔法…?

でしょうか………?」



「…………ワタシ達の世界とは 違う法則で 発動させた……錬金術………

いや……
……魔法……なのか?」




………………




ワタシ達は 各々(おのおの)考えてみたが……

けっきょく わからなかった…………





……彼の言葉を胸にしまい
ワタシは………




「………メイドさん

この設計図で 本当に家が建つのか?」



以前 彼からもらった設計図を メイドに手渡し聞いてみた……


何やら 四角い絵が描かれており 建材 家具の種類と数が記されいる………




「はい ご主人様……

この設計図が錬金術合成のレシピになります……

そして 建材と家具が
合成素材……

…と考えてください……」



「……なるほど

レシピと素材………か」



「それと もうひとつ………

家を建てるために必要な
広さの土地が必要です……」



「……もちろん 土地と建材 家具 だけでも 家を建てることは できます……

しかし……設計図(レシピ)を使ったほうが はるかに はやく 正確に ……

……建てることが できます……」



「なるほどな……


さっそくで わるいが…
始めてくれるか?………」


「わたしも 見てみたい……」



パートナーは興味津々(きょうみしんしん)だ……


錬金術で家を建てるなど
初めての機会だ……
ワタシも初めて見る……



「では……始めます……

あぶないですので
この土地の入り口まで
下がってください……」



メイドは ワタシ達を下がらせると カバンから取り出した杖で 地面に四角い
図形を描き……
周りに文字を書く……



「この 四角い図形の範囲内に
建物が顕現(けんげん)します………

けっして 近づかないで
ください……」




「……わかった

見学させてもらおう……」


「う〜ん………(~▽~@)♪♪♪

楽しぃみ〜〜♪」




「それでは……
始めます…」


ワタシ達のとなりに静かに立つと
メイドは左手に設計図(レシピ)を抱き

小声で詠唱をし
右手の杖で 空中に 何やら綴(つづ)りはじめた……



すると……

あたりが暗くなりワタシ達以外 見えなくなる…

まるで占星術グランクロスが発動したかの様だ……



……そして 先ほど図形を描いた地面に 巨大な円陣が
……ほの白く

浮かび……

ゆっくりと回り始めた……


「見て!

空に!!」


パートナーが驚きの声を上げる…



空中に 石造りのブロックが ぽつり ぽつりと現れては 落ちることなく 浮かんでいた…

……木のブロック

レンガのブロック……

木の本棚……

木のタンス……

暖炉(だんろ)……石造りの竈(かまど)……シングルベッド…等々………


円陣の回転が増すごとに

建材 家具 が 次々と
出現(あらわれ)た………



空を埋め尽くさんばかりに 建材 家具 が 浮遊する……




「建材召喚(パーツ…シュート)!!


………


建築開始(ビルド…アープッ)!!」



右手の杖が円陣の中心を差し

メイドが 高らかに宣言する……



今まで 浮かんでいた建材が 凄い早さで地面の四角い図形を埋めてゆく…


石造りのブロックは壁に…木のブロックは床に……
次々と組み上がり


下から上へと 家の形に
なっていく……



“あっ”と 言う間とは

この事か……


気が付くと ワタシ達の目前に 彼の邸宅を模した
家屋が ここにあるのが さも当然のように建っていた……



「…………おおきい…」



「…………そうだな……」


目前の壁は高く屋根が見えない…



「敷地 ぎりぎりまで 建物が占めております……
全体を見るなら 土地を拡張する必要が ありますが……」



「その件は またの機会にしよう……」



「かしこまりました…」



「なかに入ってみようよ!」


「そうだな……」



「どうぞ ご覧くださいませ……」


メイドを先頭に ワタシ達は 正面2つある入り口の左側から室内へ足を踏み入れた………



「わぁ〜!!
ひろ〜い……」


入ってみると入り口付近は広く空間が取ってあり
奥が一段高くなっている シングルベッドと机 椅子 本棚が設(しつら)えてあるのが見えた 窓も開口していて室内に十分な光を取り込んでいる……
あれは書斎…だろうか?



天井は高く 二階も あるようだ 左側の奥の壁に木の階段が見える……


左手には食堂と調理場らしく テーブルと椅子 竈(かまど)があった…



右手の壁には暖炉(だんろ)があり 赤々と薪が燃え
前に敷いてある絨毯(じゅうたん)が暖かそうに熱を含んでいた……



「………なるほど
これが 彼 の邸宅を模した家か……」



「 彼 って階段の壁にかけてある絵のひと?」


パートナーが指差した先に人物の描(えが)かれたタペストリーがあった……

顔がフードと鉄仮面で隠れた男性がピンク髪の幼女を右腕で抱きかかえている様(さま)が 描かれている……


「あのメッセージの人物……でしょうか?」


メイドが 感慨深そうに
タペストリーを見上げた……





ワタシ達は 一通(ひととお)り 室内と室外を見て回った……



「……なかなか 立派なものだな……」



「……でも お風呂が ないよ?」


「それに お料理するときに使う 水も……」


「……そうか
ワタシ達で
足りてない物を
補(おぎな)わなくては……」


「!!」


「…これが ハウジング……」



「わたしたちで かんがえて
わたしたちだけの家をつくる……」



「そうですね……

それに……
この 元になった邸宅も
増築されたみたいですね…」


天井を見上げていたメイドが指摘する……



「そんなこと わかるの?」


パートナーが不思議そうにたずねる……



「はい……
天井の中心が この場所はずれています……

この食堂のために
増築されたのかもしれません……」



「それで 正面入り口が2つに……」



「もとは右側が本来の出入り口だったのかも しれません……

あくまで わたしの推測(すいそく)ですが……」



「……… 彼 もこの邸宅を
完成させる為 色々 手を入れたのだな………」



「……そうだね

わたしたちも 完成させよう……

この 家を……」



「…… 彼 の残せし家(モノ)
………か」



「ん?

なにか 言った?」



パートナーが笑顔で振りかえる……



「……いや
なんでもない………」



「そっ……

じゃあ メイドさん

はじめよっか!」



「えぇ……

何なりと……」



こうして ワタシ達は 改築(ハウジング)に 取りかかった……………




……マイホーム その6 ー後編ー……彼の残せし家(モノ)……

……………おわり………