……………



「魔王ちゃん!

これって?!」


さな は驚きの声をあげます…

一心不乱に祈っていたので 全身 玉の汗が浮かんいます……



「…………

……成功…

……した……わね…

………………」



魂の固着は 高度な魔法なのでしょう…

ベルグ(魔王ちゃん)も全身
疲労困憊(ひろうこんぱい)で肩で息をしています……


ベルグを模したオブジェにあらわれた
ソレは…
全身を茶色の毛並みに覆われ…その瞳は暗めの緑をしています……
ソレは一度 大きく欠伸(あくび)をしたのち
ほっそりとした身体で 大きく伸びをしました

そして再び その場に座り直します……



「…………お腹が空きましたにゃ…

何か食べたいですにゃ……」


“ベルグ”と名乗った ソレ は 緑と赤のカラーブロックの上に“猫の女神座り”のまま
その正面にいた
さな に話しかけます……




「えっ……

……えっと…

いまは 作りおきの クロケットしかないけど………

食べる?……」


いきなり話しかけられ
ビックリした さな でしたが なんとか会話をする事が出来ました……



「はいですにゃ…

クロッケ…

イタダキますにゃ…」



さな はカバンからクロケットを取り出すと
そぅ〜と
ソレ の足元に置きます…
ソレ は鼻先をクロケットに近づけ匂いを嗅ぐと
ガツガツと食べ始めました……



「ふふっ わたしの クロケット…

……食べてる」


さな は何だか嬉しそうに
その食事する姿を見つめています……



(……魔王ちゃん[マイカ]…
あの ネコ は どうして
ワタシを名を?……)

魂の一部を失ったベルグですが 意識は しっかりしていました…


さな が再びクロケットを ネコのベルグに与えるのを見ながら 魔王ちゃんは ココロの中のベルグと対話します…


(…アレは もう一人のベルグ(あなた)……

さな のオモイと あなたのオモイが 強すぎたのね…あんなに 個性が出るなんて……

例えば……

そう…分身とか…双子とか そういった類(たぐ)いの存在ね……)



(……アレが ワタシ?)


姿は見えなくてもベルグの驚きは 伝わってきます…


「さにゃ……

何か飲み物が欲しいにゃ…」


いつまにか さな は ネコ のベルグを撫(な)でています……


「ん〜……

いま お茶 カバンのなかに
ないんだよねぇ〜〜」



「合成すると いいにゃ…

ワタシと戯(たわむ)れて いれば すぐ 時間になるにゃ…」



「そっか〜

あたま いいね…」



「そんなこと ないですにゃ…」



…………



(…あなたの記憶を転写[うつ]してあるから…
知識も あなた並みよ…
アレ も あなたの一部…
あの性格も もしかしたら
あなたが演じていたかも…しれないわね……)



(…………………

……ワタシは アレ と上手くやって行けるだろうか……)


(…あなた自身なんだから
あなたが よく知ってるはずよ……)



(………………

………………………

…………色々 ありがとう
……………………

……さな の為に無理をさせて スマナイ……

……………

魔王ちゃん[マイカ]には
もらってばかりで

ワタシは………

何も返せてない……)



(そんなことない!!……

わたしは魔王から解放されたわ……


でも………


……あなたに 魔王を 押し付ける事になってしまって………………


ごめんなさい!……)



(……アレは ワタシの魂を救う為の最良の判断だった………

…………それに

いま 再び さな に会うことが出来た…

感謝している……

…………

…ワタシの方[ほう]こそ
魔王ちゃん[マイカ]を救えなかった……

今でも スマナイと思っている……)



(………ほんと
バカなんだから……


……………………

……………

いえ いいの……

わたしが決めたことだから………

………………

………そろそろ……
…眠り…に…着く……わ……

……わたし…の……魔力が…
…回復……する…まで……… 起こさ………ない…
…でね……

……おや…す……み…な……さ………い………)



「……あぁ
ゆっくり おやすみ……

魔王ちゃん(マイカ)に

よいゆめを……」



大きく開いた目 薄い赤紫の瞳 ベルグ(魔王ちゃん)から……
半眼 暗緑色の瞳 ベルグに戻りました……



さな は ネコのベルグを抱き抱え 幸せそうに座り込んでいます…
ちょうどベルグと魔王ちゃんの お墓の間(あいだ)にいました……


「……さな

…お茶は? あるか……」



「ベルグ?……」


さな は顔を上(あ)げてベルグを見つめます…



「……あぁ ワタシだ」


「はいにゃ…
ベルグですにゃ…」



さな の上下から声が聞こえます……


……!?

!?……

!?……



3人とも 驚いています…


「……これは」


「ちょっと…」


「困りましたにゃ……」



………………


「………此所(墓標まえ)に居ても 仕方がない…

庵(いおり)に行こう……」


「そこで お茶にしようよ」


「いい考えですにゃ…」


さな の抱っこからスルリと抜け出ると ネコのベルグは建物(いおり)に向かって歩きはじめました…

ベルグ達の お墓から その建物は見えています……

木のブロックを床と柱に
四方の壁は ショージ …
屋根はレンガ造りの
小さな建物を目指します…

ベルグがこの場所(墓所)でも休めるよう 建てた家屋
でした………



もちろん 自宅管理人(メイド)の スノゥによって完璧に手入れされています……

本人(ベルグ)は 東方の島国から伝え聞く“チャシツ”を再現したかったようです……

………………


履き物を脱いで木の階段を上がると 部屋の中心に
火鉢が置かれ その四方を
4枚の ザブトン が 置いてあります…

床は“タタミ”を再現するため 草のブロックが敷き詰めてありました……


2人…いえ3人?は火鉢の周りに座りました……

既に炭はおこしてあるので
五徳(ゴトク)の上に水を入れたヤカンを置き お湯になるのを待ちます……


「ここは 何だか 落ち着きますにゃ……」


さな の側に居た ネコのベルグは ゆっくりと火鉢の側に歩み寄り 座り込みました……

やがて その瞳は瞼(まぶた)に閉じられ……


微睡(まどろ)み に入ったようです……



「かわいい……」


さな は その姿に小声を発しました……


ネコのベルグの耳がピクッと反応します……



「聴こえてるんだ……」


さな の興味は尽きません…



3人?は 黙ったまま お湯が沸くのを 待ちます……

それぞれが 今日の出来事を…思い…考えているのかも しれません……



「ねぇ ベルグ…
魔王ちゃんは?……」


さな はベルグの右横顔を見ながら話しかけます…


「……深い ネムリに入った……
しばらくは 話せない……」

程よく長い濃緑色の前髪が少し俯(うつむ)く顔を隠し さな の方からは表情が 見えません…



「そう……なんだ……」


「ネコのベルグのこと…

何か わかった?」



「…アレ いや 彼女に失礼か……

…あのネコは なりえたかもしれない ワタシだそうだ……

同じ記憶…知識…を持ち得ても…環境…経験によって違うモノに……」



「ベルグのはなし むずかしくて わからないよ……」



「……あぁ スマナイ……

ようするに 性格の違う双子の妹? ……みたいなモノだ……」…



「なるほど〜
娘ができたり 妹が生まれたり……波乱万丈(エキサイティング)な人生だね…」



「ファ〜……

……………

こんな お姉さまはゴメンですにゃ……」



「起きたの?」


さな は小声で しゃべっているつもりでしたが ネコのベルグを起こしてしまったようです…



「……あぁ ワタシも
自分 そっくりの妹は
ゴメンだ……」



同属嫌悪と言うのでしょうか……
外見性格ではなく 自分と同じ思考をする存在を 忌避(きひ)してしまうようです……


「ちょっと 2人とも!!

仲良く しようよ……」


さな にとって2人とも大事なベルグです…
ケンカは してほしくありません……



「…………さな が
そういうの なら{にゃら}」


!!



「ハモったね…

やっぱり仲良しなんだ…」

さな は満面の笑みを浮かべます…


…………

………………


ベルグとネコのベルグは
お互い 顔を見合せます……


「……ワタシは さな が大事だ……」


「…ワタシも さな が大事ですにゃ…」


「……その点において

ワタシ達は 協力しあえるのでは?……」


「…ワタシは ワタシと同じ考えですにゃ……」



「……ワタシ達は 反(そ)りが合わない……」



「…しかし さな という同じ鞘(さや)に納(おさ)まることは できますにゃ……」


「……YOME(ヨメ)は 鎹(かすがい)……というワケか……」


「…正しくは 我が子(こ)は夫婦のカスガイにゃ……」


「………わかっている…」



「…承知のうえにゃ……」



ふふっ……

にゃはは……



以外と2人は気が合うようです……



「なかなおり できたんだね
ちょうどお茶が 入ったよ……」



「………さすがは さな!

いいタイミングだ…」



「…そうにゃ

……ワタシの お茶は 冷ましてから 出して欲しいですにゃ……」



「……ネコ舌か…」



「ご覧のとおり

……ネコですにゃ…」




……………ー ベルにゃのおはなし その2 ネコのベルグ ー ……おわり………