………………



3人?は 火鉢を囲み
さな が煎(い)れたお茶を飲み 一息ついたみたいです……



「ねぇ…ベルグ……」



「……んっ

なんだ?……」



「…何か

ごようですかにゃ?

さにゃ……」



「やっぱり……

名前を なんとかしないと
……」


両手で 白地に青い上辺(じょうへん)の チャワン を持て余しぎみに 抱(かか)え
さな は ため息を吐(つ)きます……



「……そうだな

やはり 考えるべきか……」

濃い緑色の チャワン を見つめベルグは…自分に問うように呟(つぶや)きます……



「…変な名前を
付けるのは カンベンにゃ……」



火鉢の前にザブトンが置いてあります そこで ネコのベルグは“香箱(こうばこ)座り”で ゆっくりしています……
足元には 赤く浅い平皿が
置いてありました……


………………


「……ネコのベルグで いいだろ……」


視線を チャワン に向けたまま ベルグは呟(つぶや)きます…



「…じゃあ オマエは
ヒトのベルグにゃ……」


両耳を横に向けて ネコのベルグは反論します……



「………たしかに
ソレは イヤだな……

失礼した……」



…………

………………


再び 2人?は黙りこみます……



部屋の中央に置かれた
青い火鉢のなか 白く積もった灰の上で 黒い炭が赤く灯っています…

……

(まずいよ…

ベルグの機嫌が悪いよ……

どうしよう……)


ベルグと つきあいの長い
さな……

彼女(ベルグ)の心境(しんきょう)
が 手に取るように
解(わか)ります……

やがて

青い火鉢のなか
その黒い炭も白く 色を
変えてゆきました……


………

…トン…トン……

ショウジ を静かに たたく音が響きます……



「…は〜い……

……どなた?」


ショウジの音に さな が 応答し(こたえ)ます…



「ご主人様……

メイドの スノゥ です…

……よろしいでしょうか?」


ベルグ達の 家屋(ルーム)を 管理する
元シュリンガー公国メイド隊のひとり…
スノゥ の声がします……



「………どうぞ…」



「スノゥさん!

あがって あがって」



「では…
失礼します……」



ベルグと さな の声に
メイドのスノゥは
履き物を脱ぎ
木の階段を上がり
チャシツ に入室し(はいり)ます…


「そろそろ 炭が切れる頃合(ころあ)いでしたので お持ちしました…」



丸い縁なしメガネの奥の 細い目が いつものように
にこやかに笑っています…



「……ご苦労

とりあえず 座ってくれ……」



「スノゥさんの お茶も煎(い)れるね……」



「……あぁ

そうしてくれ……」


半眼の瞳でベルグは いつもの様に何か考え込んでいるように見えます


「まぁ… さな様 ご主人様

ありがとうございます」


メイドのスノゥは ザブトンに座ります…



「…はじめましてかにゃ?
スノゥ……

ベルグですにゃ……」


少し緊張したのか
“猫の女神座り”に座り直してネコのベルグが話しかけます……



「まぁ ……かわいい にゃんこ……

撫(な)でても よろしいでしょうか?」



「……あ あぁ……

彼女が いいと 言うなら……」



「…ベルグ……

どう?」



「…いいですにゃ……」



そう応えると ネコのベルグは メイドのスノゥの方(ほう)へ優雅(ゆうが)に歩みよります…
そして
スノゥの側に“猫の女神座り”しました……


スノゥは その頭から背中にかけて ゆっくり撫(な)でていきます……



「…にゃんこさんは ご主人様と同じ ベルグというのですね……」



「そうにゃ……

ワタシはベルグですにゃ……」



気持ちよさそうに目を閉じネコのベルグは メイドのスノゥに身をまかせています……


………



「ご主人様…

この にゃんこさんは

どうされたのですか?…」

にこやかな笑みを絶やさずメイドのスノゥはベルグに問いかけます
その間も ネコのベルグを 撫(な)で続けています……


「………新しいレシピを
作ろうと したのだが……
失敗……

…レシピ帳には記載されなかった……」



「では? この にゃんこさんは 偶然の産物で

二度と造れない……

ということでしょうか…」


メイドのスノゥは右手を軽く握り自分の顎先(あごさき)に当て
いつもの考えるポーズをとります……


ネコのベルグは メイドのスノゥの元を離れ 火鉢の側(そば)で“アルストラ座り”をしています…



「……まぁ

そういう事になるな……」

ベルグは さな に 煎(い)れてもらった お茶を
その 緑色のチャワンで味わいつつ 応(こた)えます……


(………コレは 長(おさ)たる ナギさんに 報告するべきでしょうか……)


ナギ とは シュリンガー公国メイド隊の長(リーダー)で 最近 公国民の選挙により大公の座に就任(つ)いた
人物です…
ベルグとは 依頼者として何度か 出会い その依頼を解決してもらっていました……


スノゥはシュリンガー公国のメイドを辞め マーロ共和国のメイドとして再就職した事に なっていました……



「……ご主人様?

まさか 魔物 を生み出した……

という事は ないですよね…?」



にこやかな笑顔のまま
メイドのスノゥはベルグに問いかけます……



「……それは無い

あくまで 錬金術合成の結果だ……

……結果は

失敗に 終わったが……」



レッドアンダーリムメガネの下(した)で 半眼の暗い緑色の瞳が 光を映すことなく
スノゥの縁無し丸メガネの奥… 閉じられた様な細い目を観(み)ています……


………………


「……そう……

…ですか………


少し出すぎたことを

お詫びします……」



「……いや…

いい………

ワタシには もったいないメイドだよ……

貴女(スノゥ)は……」


光の反射によりメガネの奥の ベルグの瞳は見えません…



「出すぎたこと ついでに

ひとつ よろしいでしょうか?」



「……スノゥさん!

なに なに?」



固唾(かたず)をのんで
ふたりの やり取りを観(み)ていた さな が
呪縛から解放された様に 聞き返します…



「……さな さんに
とっては 少し悲しいことですが…

その……

ベルグにゃんこさん を部屋外(そと)に連れ出すのは
ひかえたほうが よいかと……」


大きな縁無し丸メガネの上

細い眉尻(まゆじり)を下げ
申し訳なさそうな声で
さな に語りかけます……


「えっ?!

それは どういうこと…?」


「……この ベルグにゃんこさんは……

……その

人目(ひとめ)を ひきすぎます……

………………

ネコ を錬金術合成する事は ……今まで成功例が無いんです…

他の冒険者…

いえ…国が関心を持ち…

動くかもしれません……」



「……この事は
国家間の争いを…
引き起こしかねない……

…………

と いうことか………」



ベルグは 深いため息と共に暗い緑色の瞳を伏せます…



「…もし ネコ の錬金術合成のレシピが完成したら……


…高い知性を持ち
その小さな身体(からだ)で敵地に潜入……

情報収集 破壊工作 デマを流して 敵地混乱 あるいは敵中心地で自爆………


兵器に転用された時の活用法にはキリがないですにゃ…

考えるだに 恐ろしい事
だらけですにゃ……」



まるで他人事のように
ネコのベルグは話します…


「エージンの ビモット の様にか……」



沈鬱(ちんうつ)な表情を ベルグは浮かべます……




「……ち 違う

わたしは そんな事の為に
ベルグにゃんこ を 欲(ほ)っしたんじゃ……

………」



「……あくまで 可能性の話だ……」



「…さにゃ は 何も悪くないですにゃ……」



「さな様…

お心を傷つけて しまい

申し訳ございません…

……しかし

……最悪の事態を考える事も 必要です

………」



「……つまり

ベルグにゃんこ…を
この場所(へや)から

出さない……ほうが

……いい?」



さな は 戸惑(まよ)いがちに
言葉を発します……



「……えぇ

その…ほうが

賢明(けんめい)…かと……」



さな の悲しげな顔に
メイドのスノゥも
言葉を掛け難(かけがた)いようです……



「…ワタシは 大丈夫ですにゃ……

さにゃ とは チャット越しに お話しできますにゃ……」



「……それに ワタシの造成し(つくっ)た 部屋は広い……
退屈は しないはずだ…」



ネコのベルグとベルグは
さな に言葉をかけます……



「出来るだけ ベルにゃん に 会いにくるから……」

さな は 涙ぐんでネコのベルグに話しかけます…



「…さにゃ はやさしいですにゃ……」



「……それに
留守中は メイド(スノゥ)が面倒を みてくれるのだろ?…」



「もちろんでございます…

ご主人様の お部屋も
ベルグにゃんこ様の
お世話も ご期待に そえるよう がんばるしだいです…」



「……よろしく頼む…」



「……!!

ベルグ!?」



さな は驚きます

ベルグが頭を下げたのですから……



「そんな……

ご主人様!!

あたまを おあげください…


………」


スノゥは慌(あわ)てます…
メイドに頭を下げる
主人(雇い主)など いませんから……



「……コレは
メイドに対する主人では無く……
親愛(しんあい)なる友人として 頼みたい……


………引き受けて くれないだろうか………」


ベルグは頭を上げ その緑色の瞳で メイドのスノゥに頼みます……



「わたしからも ベルにゃんの お世話をお願い……
スノゥさん!」



さな もメイドのスノゥに頭を下げます…



「……………

…………

……この件は ベルグ様とさな様……

…そして

わたし スノゥとの お約束として
引き受けさせていただきます……」



少しの沈黙のあと

メイドのスノゥは
きっぱりと答えます……



「……ありがとう…」



みじかい礼を述べると
ベルグは深々と頭を下げました……



「ありがとう!

スノゥさん!!


……よかったね
ベルにゃん!」


さな はネコのベルグを抱き上げ その顔に頬擦(ほおず)りします……



「…感謝するにゃ……

スノゥ…

さにゃ……

そして もう一人のワタシ………」



「……ひとまず この件は片付いたな…

もう一人のワタシ……

いや……

…………ベルにゃん…」



「…ベルにゃん……?

にゃ?……」



ネコのベルグが 聞き返します……


「……さな が さっき
そう呼んでいたからな……

もう一人のワタシは
これから ベルにゃん だ………」



「ベルにゃん!

これからも よろしくね…」

さな は ベルにゃんを抱き上げ その小さな頭に頬擦(ほおず)り しています…


「ベルにゃん様…

お世話の方(ほう)は おまかせくださいませ……」


メイドのスノゥも
その手で ベルにゃん の小さな手を 優しく包み込んで にこやかに微笑(ほほえ)んでいます……



「…にゃ

……ベルにゃん…

………………………


さにゃ がそう呼ぶなら
ワタシは それで いいですにゃ……」




どうやら ネコのベルグの 名前が決まったようで良かったですね………

………めでたし めでたしです…


………………ベルにゃのおはなし その3 ネコ(キミ)の名は……
……………………おわり…