あるボンドマスターの消失……前編

ボンメンの皆様私は旅立つ事にしました。このボンドはサブリーダーに託します!
あとの事は頼みました!
では,さようならです




そうボンド掲示板に書き込みをして“彼”は消えた…自(みずか)らボンドを退会して………




ボンドマスター突然の失踪メンバーは混乱した

“彼”はボンド内メンバーに理由を告げることなく
去ったのだ……


初めは リーダーの“ついうっかり退会”だと思われた……

このあいだ あったからだ…………


しかし1日が過ぎ2日が過ぎても“彼”の行方(ゆくえ)は ようとして知れなかった……


メンバーのひとりが“彼”を“アブル連邦”で見かけたが すぐに見失ってしまったらしい………




ワタシは ここ最近忙しく 顔を出していなかった……その為 この騒ぎを知らずにいたのだ……


「:……みなさん こんばんわ…」


ボンドチャットで まずは挨拶をする こうする事で 自分が来た事を教えるのだ……



「:ボス! 今晩はだ」


「: (゜ロ゜; 局長…」


「:二代目! こんばんはでんな…」



先に来ていた者が 次々と挨拶を返してくる……



「:……? みな なぜ ワタシをそう呼ぶ?」


「「「:!!!!」」」


「:知らなかったのか?」


「: ( ̄□ ̄;)!! 」


「:実は でんなぁ〜……」




事のあらましをワタシは 初めて聞き 急いでボンド掲示板に繋ぐ……



確かに わたし宛のメッセージが書き込まれている…

メンバー表にも“彼″の名前は無い………



ワタシは どうしたらいいか 解らなかった………

“彼”に直接会って
話がしたい…
退会した…理由(わけ)を
聞かなければ……
そのうえで ワタシはどうするか 決めなければ……



“彼”が失踪して3日目
ボンドメンバー達は
新イベント カボチャ騒ぎ の超級に挑んでいるのが
ボンドチャットから
見てとれた………

この広いアルストの大地から ひとりの冒険者を見つけるのは難しい……
既(すで)に……この世界から消えているかもしれない…
……この世界に残っていたとしても 名前も姿も変えているかもしれない……

もし ワタシなら 後者を選び この世界に留まるだろうから………



何となくワタシは深夜のレイドボス戦に挑んでいた……
新イベントを始める気分ではなかった……

戦闘に参加していれば
戦いに集中できる……
他の事を考えなくて いい
レイドボスは戦闘が長い 次々沸き上がる不安を長く忘れていられる………



しかし終わりはやってくる………

………

ワタシは次は何をするか
考えなくては ならない
パートナーは助言はくれるが 物事を決めるのは
常に ワタシなのだ……



「……煙草が欲しいところだな……」


普段 ワタシは煙草を吸わない……
鞄の中に常に在るわけでは無いのだ……



「ここに居てもしょうがないよ…
会場を出よう?」


パートナーに言われて
気がつくと周りには誰も
いなかった……


「受付は“アブル連邦”城塞都市にあったな……

城塞都市を抜け“広がる平野”に出るか?」


「そうだね日替わり依頼も来てるしね……」



「……日替わりに行こう」



ワタシ達は連邦城塞都市を抜けることにした………



あるボンマスの物語……2 メンバー募集してみた……

シュリンガー公国……
そこは冒険者 北の都……
新人からベテランまで雑多な人が溢れる街……
そこは出合いと別れの場所………





シュリンガー公国酒場 そこはクエスト(依頼)の窓口も兼ねているため
多くの冒険者で溢(あふ)れている……

二階が一泊宿になっている為 ここを利用する冒険者は多い………

その安宿の一室……



「もぉう 昼だよ〜〜
起・き・て くれませんか〜〜
もし も〜〜し」


のんきな声が部屋の中から聞こえる……


糸目の幼女がベッドの上の幼女を起こそうとしていた
しかし“フユネコ”の上下を着 うつ伏せで枕に顔を埋(うず)めたまま 彼女は起きそうにない………

いくら揺さぶっても
うめき声をあげるだけ
それ以上の動きは無い……


彼女達も冒険者である

公国の夜は寒い……
昼でも街中の雪は溶けない
ましてや夜となると部屋の中でも冷気が忍び寄ってくる………
寒さから逃れる ひとつの手段……

呑み食いすることである…

彼女は 昨夜(さくや)も しこたま呑んでいた……

ポン酒の熱燗……
熱々のポトフ………
たちまち溢(あふ)れ転がる
徳利(トックリ)………
泥酔するのも やむ無し
である………


ここは一泊宿なので昼には退出しなければ ならない


「もぅ〜〜仕方 ないです〜」


そう言うや いなや
パートナーたる
糸目の幼女は自分と同じくらいの背格好をしたベッドの上の幼女を
ひょいと担(かつ)ぐと
部屋を後(あと)に廊下に出た……

洗面所に向かうと
手慣れた手つきで“フユネコ”装備の幼女の身仕度(みじたく)を整える……

ボサボサの水色の髪をすき…
洗顔を済ませ…
軽く化粧(メイク)を施す……


「はい
できあがり〜〜」

先ほどまでの死にそうな顔がウソみたいである……


「いきますよ〜〜」


「(=_=) コク……」



1階に続く階段を降りると

「よぉー! 嬢ちゃん達
よく眠れたかい?」

この酒場兼宿の男主人が声をかけてきた……


「あっ〜おはよう・ございます〜〜」

「(=_=) コク……」


彼女らは厨房兼受付に向かい番号の書かれた部屋札を主人に渡す……
料金は前払いで 部屋札を受け取り 宿を出る時 札を返すのだ……

主人は札を受け取ると
宿帳にその旨(むね)を書き留め……


「そういえば嬢ちゃん達もソロが長いな……
どうだい?そろそろボンドに入ってみては?
仲間は いいもんだぞ…
狩は楽になるし 仲間間で アイテムの融通がしやすい
それに何より退屈しない……」

「どうだ いいことずくめだろ?……」



「でも〜〜入ってみて 気が合わなかったら〜〜?」

「(ーー;) 」


「そんときゃ 辞めちまって別のボンドに入りゃいい…むずかしく考えることは無いのさ」



「なるほど〜〜考えて・みます〜〜」

「( ̄〜 ̄;)」



「おぅ!また来てくれよ!!」

彼女らは酒場を後にした………




シュリンガー公国酒場前
大通り……
冒険者が行き交い そこかしこにたむろし パフォーマンスを見せあう……
そんなところ………

もちろんボンド勧誘も盛(さか)んだ……



あるボンドマスターたる
彼もパートナーを伴(ともな)ってこの地を訪れていた………
軍帽から覗く淡い空色の髪が目を引く………

「……私達のボンドに、職業レベルの高い人が欲しいですね。」



「わたしたちのボンドも人数が増えたわ…
でもジョブレベルの高い人は少ない……
だからかしら?」


淡いピンクの長い髪を首の後ろでまとめ
パステルグリーンの占星術士の装備一式を身に纏(まと)った彼のパートナーが聞き返す……



「……そうです、高レベルの仲間がいれば戦闘が楽になりますし、経験も豊富でしょうから、色々教えてもらえると思うんですよ……。」


「そうね……でも、いるかしら?高レベルでソロの人なんて……
すでにボンドに所属してるんじゃないかしら?」



「私も、そう思います……
でも、この世に絶対は無い と思うんですよ……。」



「そうね……まぁダメもとで探してみましょう…」



彼らは酒場前で新たなメンバーを探し始めた……


しかし なかなか見つからない……

……今日はダメかな
と思い始めたとき

酒場から出てくる人影を見た……


「立派な杖を背負っているわ……
司祭様なら新たなメンバーが見つかるよう
祝福してもらいましょうよ。」

杖を背負っている者は修道士か占星術士 もしくは二次職の司祭である……
まれにそれ以外の職が背負っている事もあるが……


「もし司祭でソロだったら
私達のボンドに入ってもらいましょう…。」





「すみませ〜ん!
…司祭様ですか?」


「(・・) コクリ ……」


「わたしたちに〜〜
何か ごよう〜ですか〜?」


「私達を祝福して、くれませんか?」


「最近、うまくいかなくて……。」




「……あなた方に……神の恵みと祝福を………」


“フユネコ”装備に身を固めた幼女は おごそかに祝詞を唱え 手にした杖を高く掲(かか)げた……



「…では……わたしたちは……これで」



「あの、少しよろしいでしょうか?」



「(・・? ……何か?」



「みたところ、ボンドには
入っておられないご様子
……私達のボンドに入りませんか!」



「(@ ̄□ ̄@;)!!」


「えっ〜〜〜
……どう〜しようか〜〜」

「(-_-)゛う〜ん……」



「あっ!無理に入って頂くわけには、いかないので。」


「そう〜いえば〜〜酒場の〜 主人も〜〜ボンドを〜 すすめて〜いたような〜?」


「(*゜Q゜*) ↑ …そう…
だった……わたし……は
…誘われるのを…待って…いた?……」



「はいり〜ましょうよ〜〜




「( ̄〜 ̄;)
………
……………わかりました…
……入会……しましょう……」




「ありがとうございます!」

「ようこそ わたしたちのボンドへ……」


「_(._.)_ よろしく……」


「これから〜〜よろしく〜〜お願い します〜〜」




こうして新たなメンバーが加わった……
このボンドは また にぎやかになることだろう………

あるボンマスの物語……1 マスターの資質 後編

前回の物語より……

寝ぼけてボンド退会をしてしまった彼は 再び己(おのれ)のボンドに戻る為 サブリーダーを探すことにしたのです………




なんのあても無いのですが
シュリンガー公国酒場を
出て大通りに出てみました…
相変わらず溶けない雪が街を覆い はく息も白く虚空へ消えてゆきます……

曇天が太陽を隠し 着込んでいても寒さが身体に忍び込んできます……
とても楽しい気持ちには成れそうになりません……
不安な気持ちがみるみる膨らんできます………
(二度とあのボンドに戻れないのでは?……)
絶望感がさざ波のように広がってきました……


通りは冒険者で溢れ 街の住人より多いのでは?と錯覚します………

もしかしたら ボンドメンバーに会えるのではないか?という
一抹(いちまつ)の希望すら消えそうになっていきます………


道行く冒険者をぼんやり眺めながら

「…私はマスターとして、相応(ふさわ)しかったのでしょうか?」

ため息と共に呟(つぶや)いてしまいました……


「あなたには、ボンドマスターとしての資質があるわ…あのボンドにあなたを、
したうメンバーがちゃんといるわ……
自分を信じて……。」


パートナーの励ましに
彼の暗い気持ちが晴れてゆきます……
うつむく瞳を通りに向けると……


「おや?あのひと(女性)は……。」


見知った顔を見付けました

…紫色の髪に切れ長の金色の瞳が印象的な彼女は
彼のボンドに所属していたのです……



「すみませ〜ん!」



彼は 彼女の方へ声をかけます……



「ぅん( -_・)?
あの帽子からはみ出たアホ毛は……」


彼女も 彼に気付き彼の方へ歩み寄ります……


「ボス!! こんな所で どうした?……」


彼女はボンマスである彼をそう呼ぶのです………



「あぁ〜、良かったです……
気付いてくれまして………。」



「今日もソロか?
ボンドに顔を出さないとは珍しいな…」



「えぇ……実はその件なのですが……。」


彼は彼女に 事の顛末(てんまつ)を語りました……



「……と言うわけで、
ウチのサブリーダーに連絡を取って欲しいのです…。」


「……なるほど うっかり者だな ボスは……
わたしが通りかかって良かったな……」



「助かりました……、
貴女(あなた)は、どうして此所(ここ)へ?」



「忘れたのか?今日の日替わりクエストボンドに寄付しよう≠フ為だ……」



「ボンド拡張に協力してくれるのですか?」



「わたし達は 同じ仲間(ボンメン)じゃないか 当然だ
( ̄^ ̄) 」




「おっ!サブリーダーと繋がったぞ 今“枯れはてし炭坑”(枯れ炭)にいるらしい……
古代の化石探しの途中 見付けた池で釣りをしてるそうだ……」



「何か私のこと、言ってますか?」



「: “またか?……マスター……”
と言ってる……」



「はは、…面目ない……」



彼は以前 マスター権限を誤って消失した事があったのです……その時 サブリーダーに再びリーダーに任命してもらっていたのでした……



「…場所とch(チャンネル)を聞いてるな……
公国5000ch 今のこの場所でいいか?
ボス!」



「えぇ、ここ…酒場前でいいですよ。」


「了解だ そう伝える……」


「マスター殿 こんばんは
話を聞いて来ました!」



……?


リンゴカゴを上下に被り素足だけ出した……
それは……
米俵に見えました……
頭上?に王冠が浮いているから悪魔かも知れません……米俵のようなモノは
米俵と名乗りました……
よく見ると やっぱり
米俵でした………



「…えっと、米俵さん?
何か私に、ご用でしょうか……。」


しばらく 呆気(あっけ)に
とられていた彼は ようやく正気に戻り訊(たず)ねます………



「ワイや!ワイ!!
プリちぃなポニテメガネ少年や!!」



「…あぁ、貴方(あなた)でしたか、少し驚きました……。」



「よし!燃やそう…」



「まっ まってや 姉(あね)さん!
会って すぐ米俵 燃やすんわ やめたってや……」


「いいや 汚物は消毒だ…」

「あ あかん 中身 焼き米になってまう〜……」



「楽しそうな事を やってると聞いて来ました」

白いフユネコの上下を着(き) 淡い水色をした髪の幼女も出現(あらわ)れた…
彼女も同じボンドメンバーです……



「そこの(幼女)ひと……
助けてぇ〜な……」



「…米俵……燃やそう………(-_-#)」



「ちょっ あんさんまで…
やめてぇ〜な……」



「次はスイカ割りだな…」


「……米俵割り………(’-’*)♪」


「やめてぇな…中の米
漏れてまう〜………」


シュリンガー公国酒場前の一角は混沌(サバト)めいていました……



「……なんだ? これは……」


濃緑色の魔女めいた格好をした少女が その惨状を見て呻(うめ)きます……



「…場所を 間違えたか……」

思わず踵(きびす)を返(かえ)そうとしました……


「おぅ サブリーダー
早かったな…」


「……おはよう…ございます……」


「ワイも おるでぇ……」


「ご足労かけてすみません。」



「…これは ワタシを呼び出す為だけの 手の込んだイタズラではないのだな……」



その光景は あまりに このボンドの日常(いつもの活動風景)だったのです………
とても一大事には見えないのは しかたありません………

それゆえ 彼女は“担(かつ) がれた”と一瞬思ってしまったのです……




「貴女(あなた)が来てくれて助かりました。」


「ワタシは このボンドの副官……当然だ…」



「さっそく、お願いします。」


「わかった……」



ひざまずく彼の額に手を触れ

「汝を このボンドに入会することを認める……

我が権限にて リーダーに任命する…………」

彼女は宣言します



「これで そなたは このボンドのマスターだ……」



「お手数おかけします。」



「…マスターを補佐し支えるのが副官としての務め
……気にする事はない……」



「貴女(あなた)をサブリーダーにして、良かったと思います………。

実は今回の件でボンマスとして私は相応(ふさわ)しくないのではと………


…………。


そうです貴女(あなた)
……ボンマスになりませんか?」




「それは前にも 断ったはず……
ワタシはリーダーの器ではない……
そなたの様に 人を惹き付ける魅力はワタシには無い……」

「現(げん)に そなたの危機に こんなにもメンバーが集まっている……
ワタシでは こうはいかないだろう……
そなたにはマスターの資質がある………」



「そう……ですか……。

わかりました。
引き続き私がマスターを続けましょう。

こんな私ですが、これからも助けてくれますか?」



「もちろんだ……
そなたとは あの日以来の親友(とも)だ……
これからも変わらない…」


「ありがとうございます。」



「一件落着だな ボス!」


「えぇ 話やぁ…」


「(^o^●)コクコク…」


「……これからも ワタシ達と共にだ……」



「ありがとうございます、皆さん。
頼りないボンマスですが、 皆さん!これからもよろしくお願いします……。」





こうして マスターの資格消失事件は終了しました

これからも問題は起こるだろうが このメンバーなら解決していけるでしょう………




………………………おわり
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